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「才能のあるクソッタレ」─「スパルタカス」のキューブリック

2005-09-02 | ■映画
「スパルタカス」という映画があります。古代ローマ時代の剣闘士の反乱を題材にした作品です。主演はカーク・ダグラス。世界史の授業で、キューブリックの作品だということは特に触れないまま見せたのですが、感想文の中に、「かっこいいぞ、カーク・ダグラス! すごいぞキューブリック!」というのがあって、とてもうれしかったことを思い出します。

先日から紹介している『映画監督スタンリー・キューブリック』(ヴィンセント・ロブロット著、浜野保樹・櫻井英里子訳、晶文社、2004年)>>Amazon.co.jpは、「キューブリック評伝の決定版」とうたっているだけあって、彼の生涯と作品にまつわるエピソードを余すところなく伝えてくれる本です。

彼の作品(初期の短編映画は除く)を年代順に並べてみると、

1 「恐怖と欲望」Fear and Desire(1953年)
2 「非情の罠」Killer's Kiss(1955年)
3 「現金(げんなま)に体を張れ」The Killing(1956年)
4 「突撃」Paths of Glory(1957年)
5 「スパルタカス」Spartacus(1960年)
6 「ロリータ」Lolita(1962年)
7 「博士の異常な愛情 又は私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」Dr.Strangelove or:How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb(1963年)
8 「2001年宇宙の旅」2001:A Space Odyssey(1968年)
9 「時計じかけのオレンジ」A Clockwork Orange(1971年)
10 「バリー・リンドン」Barry Lyndon(1975年)
11 「シャイニング」The Shining(1980年)
12 「フルメタル・ジャケット」Full Metal Jacket(1987年)
13 「アイズ ワイド シャット」Eyes Wide Shut(1999年)

「スパルタカス」については、キューブリック自身、自分の作品と認めていないと言われてきました。この作品だけはキューブリック自身の企画によるものではなく、しかも、監督を引き受けたのはクランク・インしてからだったという事情、また、主演のカーク・ダグラスとの相性も必ずしもよくなかったためと思われます。

この映画は、スパルタカスを演じたダグラスの完全なワンマン映画でした。自分のプロダクションを使い、監督には当初アンソニー・マンを起用して撮影に入ります。ところが、撮影2週間目に入る頃から、監督は映画をコントロールできなくなってしまいます。大物俳優ピーター・ユスティノフ(奴隷商人バタイアタスを演じた)の言うなりになってしまったのです。ダグラスはその様子を見て彼のクビを切ることにします。そして、かつて「突撃」でコンビを組み、その才能に惚れ込んでいたキューブリックに白羽の矢を立てるのです。キューブリックはこれを了承し、すぐにロケ現場に向かいました。この監督交代劇により、この映画のうち、冒頭の鉱山のシーンだけはアンソニー・マンによる演出、残りのすべてがキューブリックの手によるものとなりました。キューブリックが「『スパルタカス』だけが完全に統制できなかった映画だ」と語っているのは、そのことだけでなく、この映画が結局は「ダグラスの映画」だったことによるものと思われます。すでにできあがっていた脚本を彼が変えることはほとんどできなかったのですから。

キューブリックは、どの映画においても、スタッフや役者と積極的に打ち解ける努力をほとんどしなかったため、誤解されたり、疎まれたりしたこともあったようです。「スパルタカス」の撮影時も、「あからさまに無関心な態度と、骨の折れる作業の進め方で、彼は制作期間中ずっと謎の人物として扱われた。彼は周りから好かれず、恐れられず、尊敬もされなかった」そうです。

一方で、この映画にキャスティングされていたチャールズ・ロートン、ローレンス・オリヴィエといった超大物俳優たちをコントロールすることこそ、キューブリックにとって最大の難問だったようです。なんたって、彼は当時弱冠30歳。この二人がメラメラと燃やすライバル意識の前には、さすがに何も言えなかったのではないでしょうか。

しかし、彼の斬新なアイディアやこれまでとは全く異なる演出方法は、誰しも認めざるを得なかったはずです。コミュニケーション能力に多少欠けていても、その人の持つ才能に魅了させられることはよくありますね。キューブリックもきっとそんな人間だったのだと思います。ダグラスもこう言っているそうです。「素晴らしい才能と、性格の良さは関係ない。クソッタレが素晴らしい才能を持つこともあれば、その反対に、本当にイイ奴で微塵の才能もない者もいる。スタンリー・キューブリックは、才能のあるクソッタレだ」と。

「スパルタカス」の撮影にまつわる面白いエピソードも、この本の中にたくさん紹介されていました。それはまた別の機会に紹介したいと思います。

「スパルタカス」>>Amazon.co.jp

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