
「ギター弾きの恋」でエメット・レイが憧れるギタリストとして登場するのがジャンゴ・ラインハルト(Django Reinhardt, 1910年1月23日~1953年5月16日)というフランスのギタリストでした。フランスの、というのは住んでいたのがフランスだということで、彼自身はベルギー出身の「マヌーシュ」です。
「マヌーシュ」とは、フランス中部~ベルギー・オランダあたりに住む「ロマ」の通称。「ロマ」とは、日本ではかつて「ジプシー」と呼ばれていた人々を指します。「ジプシー」という言葉は、もともとは「エジプト人」という意味ですが、「放浪者」、「流浪の民」といった多少侮蔑的な意味合いが込められているというわけで、彼ら自身が「ロマ」という呼び名を希望したことから、今ではあまり使われなくなっています。「ロマ」はもともと遊牧生活を営む民族ですが、現在では定住生活をする人も増えています。ロマの分布は、ヨーロッパ各地にわたっていて、地域によって呼び名も異なります。「マヌーシュ」もその中の一つ。ほかには、「ツィゴイネル」(ドイツ語)、「ボヘミアン」・「ジタン」(フランス語)といった呼び名もあります。
ジャンゴ・ラインハルトは、ジャズ・ギターにマヌーシュ音楽を取り込んで独自のスタイルを確立しました。彼の後継者の一人がチャボロ・シュミット。彼はこの映画の中で、主人公マックス(オスカー・コップ)にギターを教えるマヌーシュを演じています。彼が披露するマヌーシュ・ギターの華麗な演奏を見て、あの「エメット・レイ」のギターはここにルーツがあったか!と「ギター弾きの恋」をつい思い出してしまいました。
この映画の軸の一つは、10歳のフランス人少年マックスとマヌーシュの少女スウィングの、「一夏の恋」物語。いえ、「恋」とも言えないような無邪気な、けれど切ない関係といった方がいいかもしれません。
そして、もう一つの軸が、「マヌーシュ(ロマ)」の物語。監督・脚本のトニー・ガトリフは、これまでもロマをテーマにした映画を何本か作っているようです。この映画でも「本物」のロマの人たちを出演させて、まるでドキュメンタリーのようにロマの歴史を語らせたりしています。
ロマには独特の文化があります。たとえば、、「誰かの所有物という概念がない」という文化。人の物は俺の物。この映画でも、仲間が手に入れた蓄音機をチャボロが勝手に持ち出しているようなシーンがあります。しかし、「ロマ以外の文化」においては、それは「盗み」になってしまいます。「ジプシー」=スリや物乞い、というイメージはこんなところから来ているのかもしれません。また、彼らは「文字」を持ちません。そのため、伝承はすべて口伝えで行われます。物語や歌に託されることもあります。
この二つの軸をつなぐのが「ロマ音楽」です。チャボロ・シュミット、マンディーノ・ラインハルト(彼もまた有名なマヌーシュ・ギタリスト。「ラインハルト」とはいっても、ジャンゴとは血縁関係はないらしい。そもそもチャボロが演じるミラルド役は当初ジャンゴの実の息子であるバビック・ラインハルトが演じることになっていたそうですが、バビックの急死によりチャボロにお鉢が回ってきたとのこと)の二人を中心としたトレーラーハウスの中での即興演奏がすばらしい。観客なんて誰もいません。というより、演奏する彼ら自身が観客でもある。自分たちが楽しむだけの音楽。ロマの人々が音楽をどれほど大切にしているか、この場面からひしひしと伝わってくるようです。
夏休みを祖母のもとで過ごしていたマックスは、ふと耳にしたミラルドのマヌーシュ・ギターの音色に心を奪われ、マヌーシュの暮らすトレーラーハウスで、ミラルドにギターを教わることになります。そこで出会ったのが大きな瞳を持つ少年のような少女、スウィングでした。彼女に連れ出されて川や森や草原で遊び回るうち、マックスにほのかな恋心が芽生えてくる…。ミラルドに教えてもらった「好きな人の夢を見るまじない」を作るマックスがいじらしい。いいシーンです。
スウィング役の女の子(彼女はオーディションで選ばれたようで、「ロマ」ではないようです)、最初は確かに男の子のように見えるのですが、みるみる「美しく」なっていくのには心底まいりましたね。
夏休みに書きつづった日記をスウィングに託して去っていくマックス。かっちょいいんだけど、スウィングは字が読めないのです…。で、道端にちょこんと置き去りにされるマックスの日記。それはスウィングにあてたラブレターであると同時に、彼が実際に見たり聞いたりした貴重な「ロマの記録」でもあるはずなのに!
……見終わってから気づきました。ロマの人たちは死者が出ると、その人の遺品はすべて燃やしてしまい、その人のことを決して口にしないという不文律があります。スウィングにとって、マックスは「二度と会えない人」だったのです。読めないから捨てた、というより、あれはマックスへの別れのしるしだったのか…。
そう考えるとなんだか、年甲斐もなく切ない思いがこみ上げてくるのでした。ロマの奏でる悲しいメロディとともに。
「僕のスウィング」>>Amazon.co.jp
「マヌーシュ」とは、フランス中部~ベルギー・オランダあたりに住む「ロマ」の通称。「ロマ」とは、日本ではかつて「ジプシー」と呼ばれていた人々を指します。「ジプシー」という言葉は、もともとは「エジプト人」という意味ですが、「放浪者」、「流浪の民」といった多少侮蔑的な意味合いが込められているというわけで、彼ら自身が「ロマ」という呼び名を希望したことから、今ではあまり使われなくなっています。「ロマ」はもともと遊牧生活を営む民族ですが、現在では定住生活をする人も増えています。ロマの分布は、ヨーロッパ各地にわたっていて、地域によって呼び名も異なります。「マヌーシュ」もその中の一つ。ほかには、「ツィゴイネル」(ドイツ語)、「ボヘミアン」・「ジタン」(フランス語)といった呼び名もあります。
ジャンゴ・ラインハルトは、ジャズ・ギターにマヌーシュ音楽を取り込んで独自のスタイルを確立しました。彼の後継者の一人がチャボロ・シュミット。彼はこの映画の中で、主人公マックス(オスカー・コップ)にギターを教えるマヌーシュを演じています。彼が披露するマヌーシュ・ギターの華麗な演奏を見て、あの「エメット・レイ」のギターはここにルーツがあったか!と「ギター弾きの恋」をつい思い出してしまいました。
この映画の軸の一つは、10歳のフランス人少年マックスとマヌーシュの少女スウィングの、「一夏の恋」物語。いえ、「恋」とも言えないような無邪気な、けれど切ない関係といった方がいいかもしれません。
そして、もう一つの軸が、「マヌーシュ(ロマ)」の物語。監督・脚本のトニー・ガトリフは、これまでもロマをテーマにした映画を何本か作っているようです。この映画でも「本物」のロマの人たちを出演させて、まるでドキュメンタリーのようにロマの歴史を語らせたりしています。
ロマには独特の文化があります。たとえば、、「誰かの所有物という概念がない」という文化。人の物は俺の物。この映画でも、仲間が手に入れた蓄音機をチャボロが勝手に持ち出しているようなシーンがあります。しかし、「ロマ以外の文化」においては、それは「盗み」になってしまいます。「ジプシー」=スリや物乞い、というイメージはこんなところから来ているのかもしれません。また、彼らは「文字」を持ちません。そのため、伝承はすべて口伝えで行われます。物語や歌に託されることもあります。
この二つの軸をつなぐのが「ロマ音楽」です。チャボロ・シュミット、マンディーノ・ラインハルト(彼もまた有名なマヌーシュ・ギタリスト。「ラインハルト」とはいっても、ジャンゴとは血縁関係はないらしい。そもそもチャボロが演じるミラルド役は当初ジャンゴの実の息子であるバビック・ラインハルトが演じることになっていたそうですが、バビックの急死によりチャボロにお鉢が回ってきたとのこと)の二人を中心としたトレーラーハウスの中での即興演奏がすばらしい。観客なんて誰もいません。というより、演奏する彼ら自身が観客でもある。自分たちが楽しむだけの音楽。ロマの人々が音楽をどれほど大切にしているか、この場面からひしひしと伝わってくるようです。
夏休みを祖母のもとで過ごしていたマックスは、ふと耳にしたミラルドのマヌーシュ・ギターの音色に心を奪われ、マヌーシュの暮らすトレーラーハウスで、ミラルドにギターを教わることになります。そこで出会ったのが大きな瞳を持つ少年のような少女、スウィングでした。彼女に連れ出されて川や森や草原で遊び回るうち、マックスにほのかな恋心が芽生えてくる…。ミラルドに教えてもらった「好きな人の夢を見るまじない」を作るマックスがいじらしい。いいシーンです。
スウィング役の女の子(彼女はオーディションで選ばれたようで、「ロマ」ではないようです)、最初は確かに男の子のように見えるのですが、みるみる「美しく」なっていくのには心底まいりましたね。
夏休みに書きつづった日記をスウィングに託して去っていくマックス。かっちょいいんだけど、スウィングは字が読めないのです…。で、道端にちょこんと置き去りにされるマックスの日記。それはスウィングにあてたラブレターであると同時に、彼が実際に見たり聞いたりした貴重な「ロマの記録」でもあるはずなのに!
……見終わってから気づきました。ロマの人たちは死者が出ると、その人の遺品はすべて燃やしてしまい、その人のことを決して口にしないという不文律があります。スウィングにとって、マックスは「二度と会えない人」だったのです。読めないから捨てた、というより、あれはマックスへの別れのしるしだったのか…。
そう考えるとなんだか、年甲斐もなく切ない思いがこみ上げてくるのでした。ロマの奏でる悲しいメロディとともに。
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