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カクレマショウ

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「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」─正義も愛も振りかざさないアメリカ

2005-07-19 | ■映画
2002年秋、シネスイッチ銀座で見た時は、ウェス・アンダーソン監督のことは何も知りませんでした。コメディ、ではあるのだろうけど、決して大笑いさせるわけではない。「ヘンな人」ばっかり出てくるのだけれど、最後にはこれってホントに「ヘンな人」たちなのだろうか…と思わせる。映画館で見てからずいぶんしばらくたってからどうしてももう一度じっくり見たくなって、DVDを買い、何度も見直しました。字幕版はもちろん、吹替版や字幕付吹替版まで。そして、見るたびに新しい発見がありました。

ストーリーは、今は家を出てホテル暮らしをしている元有名弁護士のロイヤル・テネンバウムが、ニューヨーク、アーチャーアベニューの自宅に戻り、妻そして3人の子どもたちと22年ぶりに生活を共にし、家族の絆を取り戻していく、というお話。これだけ聞くとハリウッドお得意の「家族愛」とか「ヒューマニティ」ものの映画か…と思ってしまいますが、ウェス・アンダーソン監督は決してそんな「お安い」映画には仕立てていません。

まず、ロイヤル(ジーン・ハックマン!)がなぜ家に戻ることにしたか。事情はいろいろ語られます。一文無しになってしまったから…、妻のエセル(アンジェリカ・ヒューストン)の再婚を阻止するため…。いずれにしてもロイヤルにはそんな「本当の理由」は決して言えません。胃ガンで余命6週間だとウソまでつく。このいい加減さ。たぶん、「本当の理由」は、ラストシーンの墓碑銘にあるのでは?と私は見ています。

それから、3人の子どもたちがそろいもそろって「元・天才」であること。長女(養女)のマーゴ(グウィネス・パルトロウ)は12歳でデビューした天才脚本家。長男のチャス(ベン・スティラー)は小学6年生の時に「ダルメシアンマウス」の交配に成功して富を築き、10代にして金融業界で大成功を収める。次男のリッチー(ルーク・ウィルソン)は17歳で国内大会3連覇を果たした天才的テニスプレーヤー。しかし、30代を迎えた彼らは、今やそろいもそろって心の病を抱えています。マーゴは家族にも心理学者の夫にも「秘密」をたくさん抱え、脚本家としても忘れ去られている。チャスは飛行機事故で妻を亡くしてから「危機」管理に異常な執念を燃やす。リッチーは姉マーゴへの愛に苦しみ、テニスもやめて船上生活。一番まともなのは、考古学者となった彼らの母エセルなのかもしれませんが、3人の子どもにスパルタ的な「英才教育」を施したのはそもそも彼女なのです。みんなどこかオカシイ。

彼らの「オカシさ」をウェス・アンダーソン監督は、それぞれの服装で象徴しています。マーゴはラコステの横縞ワンピースにフェンディの毛皮。チャスと二人の子どもたちには赤いアディダスのトレーニングウェア。リッチーはフィラ。ビョルン・ボルグです。これはあまりにもキマリすぎててまいりましたが。テネンバウム家の隣に住むイーライはカウボーイのいでたちです。

アニメの主人公たちは、たいてい同じ服を着ていますが、そのことで私たちはきっと「いつも同じキャラクター」であることに安心感を覚えるのだと思います。この映画の「服装の統一性」もきっとそれと同じです。マーゴはいつでもマーゴだし、チャス(と二人の子どもたち)もいつまでもチャスでいてほしいのです。父親のロイヤルは、前半は様々なダブルのスーツと色とりどりのカラーシャツで見事なコーディネートを見せてくれますが、後半はどこに現れてもエレベーターマンの格好になります。自由奔放に生きてきたロイヤルも、「変わらないこと」の大事さに気づいたのかもしれません。

彼らが一度だけ、いつもの服装パターンを変えるシーンがあります。それはエセルとシャーマンの結婚式の日です。さすがのチャスもアディダスの赤ジャージではなく、きちんとしたスーツを着るのですが、よく見ると、男は全員同じスーツに同じ柄のネクタイをしているのです。こんなところにもアンダーソン監督のこだわりが見られるようで好きですね~。

映画館で買ったパンフレットが、またすごかった。変形新書版サイズで表紙が品のいいピンク色のハードカバー。通常のパンフレットのカラー写真の代わりに、装丁にお金をかけたという感じ。その分読み応えもたっぷりで、まるで「テネンバウムズ読本」のよう。映画のセンスの良さをそのまま反映させたようなこんなパンフレット、なかなかお目にかかれませんね。

映画の冒頭は"THE ROYAL TENENBAUMS"という本に図書館員が「貸出」の日付スタンプを押すシーン。この映画が「本仕立て」の構成になっているからだけではなく、まるでいい本を読んだ時のような読後感があります。納得。爽快。不思議。

私の好きなシーンをいくつか挙げます。

・マーゴが洗面台や飾り窓などに窮屈そうに腰掛けてタバコを吸うシーン。妙にセクシーです。
・ボールルーム(舞踏室)にしつらえられたテント。そこだけ白熱電球の灯りのようにあたたかい。
・墓場。彼らが良くも悪くも心を通わせるのは、テネンバウム家の先祖や彼らと関わりのあった人たちが眠る墓の前なのです。

「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」>>Amazon.co.jp

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3 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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はじめまして (テスタ)
2005-07-20 18:11:02
初めまして。やっぴらんどの方から飛んできました。

当方、大学生なのですが、レポート作成の資料集めで偶然たどり着き、歴史のページを少し読ませていただきました。

とてもよみやすくおもしろく、最初に出てきた、オーパーツの部分では鳥肌が立ちました。

歴史の前の歴史がある可能はあんまり考えたこと無かったので、僕にとっては革命的でしたよ



また寄らせていただくと思います。

ブログの記事に関係のないコメントの非礼をお詫びします。

返信する
ありがとうございます。 (yappi)
2005-07-20 23:03:34
テスタ様

コメントありがとうございました。



オーパーツ、面白いですよね。「火の鳥」の未来編読むと、人類以前の知的生命体がいても何の不思議もないと感じます。



これからも「やっぴらんど」ともどもどうぞよろしくお願いします。
返信する
ダルメシアン・マウス! (たろ)
2005-08-22 23:51:32
こんばんは。

何度もすみません。

こちらの方にもコメント&トラックバック、失礼致します。



僕は、ウェス・アンダーソン監督の事は全く知らなかったのですが、雑誌『ミュージック・マガジン』の今野雄二氏の映画紹介コラムを呼んで知り興味を持ち、2ヶ月前位にこの作品を鑑賞しました。

この作品は、登場人物が各自一捻り以上ある個性的な人物の物語展開が面白く、すっかり映画の中に入って楽しみました。

そして、yapp様の登場人物の服装の考察を興味深く読ませて頂きました。ユニフォームの様な意味付けがあったのですね。

また装丁に手間をかけたという、この映画のパンフレットを見てみたいですね。

それから、今年の春公開だった『ライフ・アクアティック(THE LIFE AQUATIC WITH STEVE ZISSOU)』(‘05年)は見逃してしまったのですが、他のW.アンダーソン監督の作品と共に今後鑑賞したいと思っています。



また遊びに来させて頂きます。

ではまた。



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