
スパイク・リー&デンゼル・ワシントンのコンビといえば、あの重厚な傑作「マルコムX」を思い出さざるを得ませんが、今回の作品はスマートなクライムムービー。役作りのためなのか、少々太り気味のワシントンは、頭脳明晰な銀行強盗と交渉にあたるニューヨーク市警の刑事役です。
犯人との交渉といえば、「交渉人」という映画、ありましたね。サミュエル・L・ジャクソンとケビン・スペイシーの二人の交渉人(ネゴシエーター)の、人質犯との駆け引きがとてもスリリングで、印象的でした。米国の警察には、必ずこうした犯人との交渉・説得を担当する人がいるということを初めて知ったものでした。いやそういえば、日本でも「交渉人 真下正義」がいるか…。
映画は、主犯ダルトン・ラッセル(クライヴ・オーウェン)の告白から始まります。そこは、一瞬獄中?とも思えるような狭い空間。そこが「どこ」なのかは、映画が終わったときに明らかになるのです。ダルトンは、仲間3人(うち一人は女性)とともに、白昼、ニューヨーク信託銀行に強盗に押し入り、銀行員と客を人質にとる。その手口は、大胆かつ緻密。50人の人質全員に、自分たちと同じ、つなぎ服に覆面という格好をさせるところで、まず、むむとうならされます。そういう手があったか! これで誰が犯人で誰がそうでないか、まったく区別がつかなくなるわけです。犯人グループは、あえて人質たちの何人かの監禁場所を入れ替えるほどの周到さを見せます。
NY市警では、キース・フレイジャー(デンゼル・ワシントン)が交渉人に指名され、現場で指揮をとるジョン・ダリウス(ウィレム・デフォー)とともに情報収集にあたる。しかし、百戦錬磨のフレイジャーは、どうも「普通の」銀行強盗とは何かが違うということにしだいに気づいていく…。
何かが違う、どころか、この映画ではクライムムービーにつきものの派手なドンパチは皆無だし、暴力的なシーンはほとんど出てきません。しかも、犯人たちは銀行のカネには一切手をつけていない。ダルトンのねらいはいったい何なのか? それを私たちはフレイジャーと一緒に考えることになるのです。その鍵を握るのは、この銀行の創立者で今は会長の地位にあるアーサー・ケイス(クリストファー・プラマー)。彼は、過去の戦争犯罪に絡む重要な証拠を自分の銀行の貸金庫に隠しているらしい。かくして、フレイジャーのほかにもう一人の交渉人が登場します。ケイスに依頼され、市長を脅迫してダルトンとの直接交渉の権利を得る弁護士マデリーン・ホワイト(ジョディ・フォスター)です。
この映画は、とにかく「ほのめかされていること」が多いのです。フレイジャーにまつわる「14万ドル」、ケイスの関わってきた戦争犯罪(ナチスとユダヤに関わることらしい)、それとダルトンの関係、野心旺盛な弁護士マデリーンの本性…。説明されない「謎」があまりにも多い。まるで、連続ドラマの「1回分」だけを見せられている感じ。「そこを推理するところが楽しい派」と、「説明不足でつまんない派」にはっきり分かれる映画ではないでしょうか。
私自身は、けっこう楽しめました。リアルタイムの事件現場に、「事件後」の人質の事情聴取がフラッシュバックではいる構成とか、警官たちが「突入」についてあれこれ相談しているシーンに、「もしそうなったらそうなるか」の映像が組み入れられるところとか、さすがはスパイク・リーと思わせる仕掛けがたっぷりでしたし。何より、贅沢とも言える俳優陣のセリフのやりとりがたっぷり堪能できます。映画の魅力は、こういう会話の妙にもあるんだなということを改めて思い知りました。次にきっとこう言うだろう、という予想を裏切られる面白さ。
贅沢といえば、あのウィレム・デフォーがなんつーことはない現場担当の警部ですから。私はてっきり、あ、黒幕はコイツだな、と思ってしまいましたもんね。ジョディ・フォスターにしても、登場すればそれなりの存在感はあるのですが、いかんせん出番が少なくてもったいない。ほとんど覆面にサングラスという姿のダルトン役クライヴ・オーウェンは、一切笑顔なしで得体の知れない犯人役を演じ切っています(この人、どこかで見た顔だと思ったら、「キング・アーサー」でした)。
あえてプロットに難癖をつけるとすれば、ダルトンの所在を警察はなぜもっと執拗に追わなかったかということです。解放された人質の中に彼がいないことくらい、フレイジャーにはわかっていたはずなのに。もしかしたら、上層部からの「圧力」でもかかったのでしょうか。
そういう「推理」が限りなくできること、そして、もし何度も見返せば、どこかにそういうヒントが隠されていたかもしれないと思わせるあたりが、この映画、ただものではないということになりそうです。
「インサイドマン」>>Amazon.co.jp
犯人との交渉といえば、「交渉人」という映画、ありましたね。サミュエル・L・ジャクソンとケビン・スペイシーの二人の交渉人(ネゴシエーター)の、人質犯との駆け引きがとてもスリリングで、印象的でした。米国の警察には、必ずこうした犯人との交渉・説得を担当する人がいるということを初めて知ったものでした。いやそういえば、日本でも「交渉人 真下正義」がいるか…。
映画は、主犯ダルトン・ラッセル(クライヴ・オーウェン)の告白から始まります。そこは、一瞬獄中?とも思えるような狭い空間。そこが「どこ」なのかは、映画が終わったときに明らかになるのです。ダルトンは、仲間3人(うち一人は女性)とともに、白昼、ニューヨーク信託銀行に強盗に押し入り、銀行員と客を人質にとる。その手口は、大胆かつ緻密。50人の人質全員に、自分たちと同じ、つなぎ服に覆面という格好をさせるところで、まず、むむとうならされます。そういう手があったか! これで誰が犯人で誰がそうでないか、まったく区別がつかなくなるわけです。犯人グループは、あえて人質たちの何人かの監禁場所を入れ替えるほどの周到さを見せます。
NY市警では、キース・フレイジャー(デンゼル・ワシントン)が交渉人に指名され、現場で指揮をとるジョン・ダリウス(ウィレム・デフォー)とともに情報収集にあたる。しかし、百戦錬磨のフレイジャーは、どうも「普通の」銀行強盗とは何かが違うということにしだいに気づいていく…。
何かが違う、どころか、この映画ではクライムムービーにつきものの派手なドンパチは皆無だし、暴力的なシーンはほとんど出てきません。しかも、犯人たちは銀行のカネには一切手をつけていない。ダルトンのねらいはいったい何なのか? それを私たちはフレイジャーと一緒に考えることになるのです。その鍵を握るのは、この銀行の創立者で今は会長の地位にあるアーサー・ケイス(クリストファー・プラマー)。彼は、過去の戦争犯罪に絡む重要な証拠を自分の銀行の貸金庫に隠しているらしい。かくして、フレイジャーのほかにもう一人の交渉人が登場します。ケイスに依頼され、市長を脅迫してダルトンとの直接交渉の権利を得る弁護士マデリーン・ホワイト(ジョディ・フォスター)です。
この映画は、とにかく「ほのめかされていること」が多いのです。フレイジャーにまつわる「14万ドル」、ケイスの関わってきた戦争犯罪(ナチスとユダヤに関わることらしい)、それとダルトンの関係、野心旺盛な弁護士マデリーンの本性…。説明されない「謎」があまりにも多い。まるで、連続ドラマの「1回分」だけを見せられている感じ。「そこを推理するところが楽しい派」と、「説明不足でつまんない派」にはっきり分かれる映画ではないでしょうか。
私自身は、けっこう楽しめました。リアルタイムの事件現場に、「事件後」の人質の事情聴取がフラッシュバックではいる構成とか、警官たちが「突入」についてあれこれ相談しているシーンに、「もしそうなったらそうなるか」の映像が組み入れられるところとか、さすがはスパイク・リーと思わせる仕掛けがたっぷりでしたし。何より、贅沢とも言える俳優陣のセリフのやりとりがたっぷり堪能できます。映画の魅力は、こういう会話の妙にもあるんだなということを改めて思い知りました。次にきっとこう言うだろう、という予想を裏切られる面白さ。
贅沢といえば、あのウィレム・デフォーがなんつーことはない現場担当の警部ですから。私はてっきり、あ、黒幕はコイツだな、と思ってしまいましたもんね。ジョディ・フォスターにしても、登場すればそれなりの存在感はあるのですが、いかんせん出番が少なくてもったいない。ほとんど覆面にサングラスという姿のダルトン役クライヴ・オーウェンは、一切笑顔なしで得体の知れない犯人役を演じ切っています(この人、どこかで見た顔だと思ったら、「キング・アーサー」でした)。
あえてプロットに難癖をつけるとすれば、ダルトンの所在を警察はなぜもっと執拗に追わなかったかということです。解放された人質の中に彼がいないことくらい、フレイジャーにはわかっていたはずなのに。もしかしたら、上層部からの「圧力」でもかかったのでしょうか。
そういう「推理」が限りなくできること、そして、もし何度も見返せば、どこかにそういうヒントが隠されていたかもしれないと思わせるあたりが、この映画、ただものではないということになりそうです。
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