カクレマショウ

やっぴBLOG

「ノルウェイの森」─この映画には“Norwegian Wood“が良く合う。

2010-12-26 | ■映画
“NORWEGIAN WOOD”
2010年/日本/133分
【監督・脚本】 トラン・アン・ユン
【原作】 村上春樹
【出演】 松山ケンイチ/ワタナベ  菊地凛子/直子 水原希子/緑  高良健吾/キズキ
霧島れいか/レイコ 初音映莉子/ハツミ 玉山鉄二/永沢

(C)2010「ノルウェイの森」村上春樹/アスミック・エース、フジテレビジョン

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この映画、多くの人が原作を読んで内容をきちんと知っていて、見に行くのだと思うのですが、だからこそ、不満をあげつらう人も多いことでしょう。原作について書いた時にも言いましたが、この原作を映画化しようとした監督の勇気に拍手を送りたいし、また、実際に映画を見て、演じた役者たちにも同じくらい拍手を送りたくなりました。



キャスティングについては、全く違和感はありませんでした。菊池凛子(直子役)については、どうも私には「バベル」の印象があまりよくなかったのでちょっと構えていたのですが、やっぱり彼女はすごい役者ですよ。あの直子は、あくまでも原作の人物像に忠実でありながら、むしろそれさえ突き抜けてしまったかのような「別の直子」でもありました。たとえば、療養所に会いに来たワタナベに「触らないで!」と叫ぶシーンは、原作にはない部分ですが、あのシーンの直子、いや菊池凛子はすばらしく良かった。原作では、直子は常に「内向き」にどこまでも落ちていくのですが、自分ではどうしようもないことへのいらだちをあれほど直裁的に表現できたのは、映画ならではだと思います。

あえて、私なりに、原作の良さを生かし切れていなかったと感じた点がいくつかあるのですが、その中で、2点ほど。

一つは、ワタナベが緑の父親を病院に見舞うシーン。当然、「海苔を巻いたキウリ」を父親に食べさせる(原作を読んでいない人には何が何だかわかりませんね(^^;))、のだと思っていたのですが、出てこなかった~! あれでは、何のために瀕死の父親を登場させたのかがわからない。映画では、流れとしては、緑がワタナベに「父が死んだ」と電話をかけてくるシーンにつながっていくのですが、緑が決定的にワタナベを好きになるのは、「海苔を巻いたキウリ」のおかげなのです。そこを描かないでどうするー!ということ、です。

二つめは、多くの人が感じたことかもしれませんが、ラストでレイコさんに会うシーンには、ぎょぎょと思わざるを得ませんでした。レイコさんがワタナベのもとを訪れたのは、「淋しくない直子のお葬式」をやるためではなかったのか。そのために、レイコさんはギターで弾ける曲を50曲も奏でたわけで。それは素敵なお葬式だった。そして、そのあと、原作では、こんな会話があります。

「ねぇワタナベ君、私とあれやろうよ」と弾き終わったあとでレイコさんが小さな声で言った。
「不思議ですね」と僕は言った。「僕も同じこと考えてたんです」

「僕も同じこと考えていた」というのが大切なところで、「僕」にとっても、レイコさんにとっても、そこから新しい道が始まるのです。ところが映画では、「私と寝て」とレイコさんが素っ気なく言い、それに対してワタナベは「ホンキですかぁ?」なんて寝ぼけたことを言う。どうも、ワタナベにしぶしぶレイコさんと寝た、みたいな雰囲気を醸し出しておきたいという演出なのだろう。でも、それって全く原作の意図を取り違えているのではないか!と思いました。

いえ、映画は映画、原作は原作だし、映画には監督の思いやメッセージが込められているはずなので、それは認めなければなりません。それでも、私は、このシーンだけは違うだろう…と小さな声で叫ぶのでした。

日本人じゃない人がこの映画を作ったことがよかったんじゃないかと思います。原作の会話の機微を上手にすくい上げていたし、映画でしか描けないだろうなという印象的なシーンもいくつかありました。何よりも、ビートルズの”Norwegian Wood”がこれほどこの映画に合うということ。それだけでこの映画は大成功だったのではと思いますね。



それにしても、青森(というより下北)の生んだスター・松山ケンイチ、俳優として確実に成長していますね。緑とバーで飲んでいて、「青森行ったことある?」と聞かれて、「ない」と答える松山ケンイチ。セリフとはいえ、くすりと笑ってしまいました。

 

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
それも自由だとビートルズは教えてくれた (元生徒C)
2011-02-03 16:24:29
見ました!
緑がもうちょっと奔放であってもよかったのかなと思いました。
私の緑のイメージは背の高い女性でした。
せめてワタナベの寮に行く時のスカート、もっと短かったらよかったのに。
ま、この緑もアリかな。と思いましたが。
可愛かったし。

先生が仰っている通り、よく映像化した!って感じですね。
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人が幸せになるのを批判する権利は誰にもない (やっぴ)
2011-02-03 23:32:39
みんな幸せになっていいんだ
人に迷惑さえかけなければね

…って、懐かしい歌だね。
当時は分からなかったことが、今はよく分かる。

さて、緑のイメージね。確かにそうかもしれませんね。ま、ここは、原作は原作、映画は映画ということで!
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