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山川直人『コーヒーもう一杯』─その2

2010-05-22 | └山川直人 『コーヒーもう一杯』
山川直人『コーヒーもう一杯』を読み始めてから、飲んで帰ったあとも、無性にコーヒーが飲みたくなってしまいました。で、熱いコーヒーを飲んで、寝る前には、好きな1編を、ゆっくりと時間をかけて読む。カフェインよりもアルコールの方がたいていは勝っているので、眠れなくなることは決してない。

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「雨の日の女」(第5巻)

喫茶「ハーメルン」に、ある雨の日、コートをまとい、帽子を深々とかぶった女が入ってくる。女を見て、マスターは10年前のことを思い出す。「あの日もこんな雨降りだった」…。10年前、店の前で雨宿りをしている女がいた。彼は店の中に招き入れて、コーヒーをごちそうする。女には歌手になりたいという夢があった。そして、その夢はかなうことになる…。

切ない話。それでもマスターは、今日もコーヒーを淹れる。切ない。

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「歌のある街」(第4巻)

「夜の子供たち」(第1巻)にも登場するストリートミュージシャン。今日も彼の歌声が街に響く。彼の前をいろんな人々が通り過ぎていく。デートの待ち合わせに急ぐ女の子、喫茶店で妻から離婚届の用紙を手渡される男、選挙運動をする政治家、彼の歌に注目する音楽プロデューサー…。彼らが言葉を交わすことは決してないのですが、街のどこかで知らぬ間にすれ違っている。同時に、彼らの悲しみと喜びも交錯する。

ほとんどセリフのない1編です。淡々と、しかし、表情豊かに街の顔、行き交う人々が描かれています。「コーヒーもう一杯」は、どの作品も、最後のページでズキンと来たり、ジワリとしたりさせられるのですが、この作品も、最後のページの情景が、心地よい余韻を残してくれます。

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「うちあけ話」(第4巻)

とある小さな会社の「宮田さん」。「宮田さんは会社創業のときからの社員で もうずいぶん前に 定年退職だったのだけれど いま会長になってる前社長の厚意で 安い給料で働き続けている人だ」
隠れて社内恋愛中のカップル。男は女に、付き合っていることは誰にも言うなと釘を刺している。二人が通う喫茶店に、宮田さんが突然現れる。うろたえる男。男は、変に自信家で、こんな会社にいたってだめだと思い、会社を辞めてしまう。しかし、男が辞めても、彼が言うほどに社内は何も変わらない。ある日、彼女は、宮田さんに呼び止められて、彼の働く「資材室」でコーヒーをごちそうになる。

肩ヒジ張って生きるのは疲れますよね。宮田さんも彼女も、その点、すごくいいスタンスです。風に吹かれるままに生きている。ごく自然体。でも、決して自分を見失ってはいない。

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…こうして「コーヒーもう一杯」の好きな作品の話をしていくと、結局全編紹介してしまいそうな感じ。まだまだいい話がたくさんあるのです。コーヒーを飲みながら、何度も繰り返して読みたい。


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