無知の知

ほたるぶくろの日記

研究不正の話し

2014-04-05 13:46:57 | 生命科学

STAP現象を巡る問題の報道の陰に隠れてしまい、東大分生研の加藤氏のラボで起こった膨大な捏造事件の重要な人物についての報道はあまり注目されていません。以下の報道です。

「筑波大教授らが研究論文で不正  2014/3/31 21:06

筑波大は31日、生命環境系の柳沢純教授(50)と村山明子元講師(44)らが発表した3本の論文に不正が見つかったと発表した。柳沢氏は同日付で依願退職したが、筑波大は近く懲戒審査委員会を立ち上げてどう処分するか審議する。

 柳沢氏らは東京大分子細胞生物学研究所に在職していたときに発表した論文でも改ざんが見つかっている。

 不正があったのは、米科学誌セルなどに発表した3本の論文で、画像の切り貼りなどが見つかった。このうち1本は意図的に加工した部分があり論文の撤回を勧告する。残りの2本は訂正が必要と説明している。

 2012年2月、外部から筑波大に不正の指摘があり、調査委員会を設置。柳沢氏らが在籍中に発表した30本について調査していた。

 筑波大は「厳粛に受け止め、教職員、学生に注意喚起文を配るなどして再発防止に努めたい」とのコメントを発表した。再発防止策として、14年度から研究倫理教育責任者を設置し、教職員や学生に対して倫理教育を実施する。」(読売新聞より)

こちらは理研の問題より、より規模が大きく、関係者も多い深刻な事件です。まだ上記の二人の他、重要人物が一人いますが、その方の名前は表に出てきていません。しかし、水面下ではいろいろ調整が進んでいるはずです。研究結果を捏造する、ということを博士課程の学生にもやらせていたため、多くの博士号取得者の論文が撤回になり、博士号が取り消しになりました。学生さんたちにしてみれば本当に踏んだり蹴ったりでした。

ただ、ここで考えなくてはならないのは、それらの学生さん達も自分でやっていることの是非を自分自身に問うことができたということです。もちろん、加藤氏のラボは超有名ラボでした。そんな「立派な」先生がやることに歯向かうことはできない。と思ったことでしょう。しかし、なのです。

もちろん、その場に自分がいたら、どうしたか?止めることができたか?あるいは真実を外へ向かって訴えることができたか?と自分に問いますと、それはかなり厳しい問いであることは百も承知です。しかし、そういう問題なのです。私自身に対しても厳しく問うて行かなくてはならない問題であると思っています。

今から5−6年前では訴えて行くところもなかったでしょう。最近でも、あらゆる研究施設にコンプライアンス委員会なるものできていますが、大体その長は研究施設の偉いさんです。ですから、研究施設の不正に関して、コンプライアンス委員会に訴えても無駄と言うことになります。今回の理研の問題では、大体どんな研究をしているのか、さえも周りに知らされていない密室状態の研究室でした。加藤氏の研究室も多分外の研究室とのやり取りはかなり制限されていたのではと推察します。そういう環境で外へ向かって不正を訴えるとは大変に難しかったでしょう。おそらくそっとその場を去ることが最善の選択かもしれません。しかし、もしもそれを我慢し、有名雑誌へ論文を掲載し、職を得ることができるなら、、、。そう思っても誰も強くは批判できますまい。彼らは本当にものすごい努力をして、そこまで来たのです。

それにしても加藤氏のラボの論文に関してはずいぶん前から、おそらく十年以上前から、実験結果がきれいすぎる、追試をしても再現性がない、という話しは聞いていました。しかし、だれもそれについて追求することはありませんでした。なぜなら、加藤氏の背後には数人の生物学、生化学、医学界の有名な重鎮の先生方がついていたからです。それらの方々の立場をも危うくしてしまう大きなマターを誰が言挙げしようとするでしょうか。

発覚のきっかけはjuichijigenと名乗る匿名の方がその捏造データの詳細な検証結果をネットに公表されたことでした。その検証は実に詳細かつ精密であり、おそらくは研究の現場にいたと思われる専門性を兼ね備えたものであったため、われわれライフサイエンスに携わるものの間でそれは瞬く間に評判になり、いくら偉い先生方のラボの話しとはいえ無視できないことになって行ったのです。

大体有名ラボでは言論統制が厳しいものです。競争が激しい分野が多いからです。しかし、その密室性を良いことに内部ではさまざまなおぞましいことが行われています。巷間で話題になっているいわゆるパワハラ、アカハラはアタリマエの世界です。その中でもなんとか耐えて研究者として独立して行ければ大変に素晴らしいことです。しかし、決して研究不正を黙って見逃すようなメンタリティだけは持って頂きたくありません。もっともそれも含めてのパワハラ、アカハラではあるわけですが。

どうすればよいのか、研究者への倫理教育の不足だとかの「お花畑」議論をされている上記の東大分生研に関係する有名先生もいらっしゃると聞いています。ご自分の身の回りをまずはすっきりさせてからそういう議論をして頂きたいと思っています。