散歩の途中で、見た事のない蝶に逢いました。羽を広げた写真も写せると良かったのですが、これでは、名前の調べようがありません。
そこで、数年前から、知らない蝶を写した時に、お世話になっている
栗岩さんに質問メール。ムモンアカシジミと教えていただきました。
前回同様 ( ← クリック )、興味深い回答でしたので、そのまま転載します。
ムモンアカシジミについて話すには、まずコナラやミズナラ等、ブナ科の樹木の枝先に群れるアブラムシのことから始めます。
コナラにいるアブラムシは、枝から養分を吸って生きています。よく観察すると周りにアリがたかっています。
このアリはクサアリの仲間で、決してアブラムシを食べに来ているわけではありません。
アブラムシが分泌する体液を吸いに来ているのです。クサアリはこの液が大好きで、アブラムシを大切にしています。
天敵の多い自然界のこと、アブラムシも例外ではありませんが、自らの分泌液でクサアリを味方につけ、ボディガードしてもらっているのです。
両者の利害が一致して、互いに共生する関係が成り立っているわけです。
それをムモンアカシジミの幼虫が見つめています。
ムモンアカシジミの幼虫は、卵から孵化した直後はコナラなどの新芽を食べる草食性ですが、成長するにつれて肉食性になります。
何を食べるのかと言うと、コナラの枝先にいるアブラムシです。こんなことをすればホデイガード役のクサアリが黙っていません。
ところがクサアリはアブラムシの群れに食い込むムモンアカシジミの幼虫を攻撃しません。
なぜでしょう?
実はムモンアカシジミの幼虫は、アブラムシの分必液と同じ臭いの物質を出し、クサアリをコントロールしているのです。
巧妙なのは、同じ臭いをさせるだけで、液体を与えてはいないこと。一方的な利用共生です。
まんまとクサアリはだまされ、アブラムシをムモンアカシジミの幼虫に食べられてしまいます。
ところでアブラムシは、ある程度の個体密度になると、翅を持つように
なって飛んで移動します。
別の枝先に移って新たなエサ場を確保するのです。こうなると飛べないクサアリは後を追えません。
不思議なことにクサアリは、そうなる前にアブラムシを咥えて、別の枝先に運んで行ってくれるのです。
こうしてアブラムシの分泌液を継続して得られるのです。
その様子さえ、ムモンアカシジミの幼虫は見ています。クサアリをコントロールさせる臭いで、これまたアブラムシ同様に自らをアリに運ばせ、新たな枝先に移って行きます。
そんなムモンアカシジミの幼虫は、やがて蛹になります。コナラの根元へ降りて、クサアリの巣の近くで蛹化します。
蛹でいる期間も臭いは残り、アリからの攻撃はありません。しかし羽化の瞬間は
命懸けとなります。ついに臭いが消え、蝶になる決定的シーン。
この時クサアリは初めてムモンアカシジミをエサとして認識し、羽化に失敗した個体はアリの巣へ引きずり込まれます。
蝶になって飛び立つ者こそ、次世代へと命をつなぐのです。
このムモンアカシジミ、とても数が減っています。生息地も狭くなって
います。長野県のレッドデータで準絶滅危惧。
複雑な条件での生息環境が必要なため、保護も保全も難しいと考えられています。
ところでコナラの根元にはクサアリが巣を作り、働きアリが冬期以外は盛んに出入りする様子が見られます。
根元の巣と、アブラムシのいる枝先とを往復しているのです。樹木の愛護をする人
から見れば、枝先のアブラムシも、根元のクサアリも、害虫と思われて駆除されてしまいがち。
一見すると無関係と思える生き物同士が、密に結び付いていることが見えていないからです。
クサアリは特殊な酸を出し、コナラが根を広げている土壌の殺菌や滅菌をしています。清潔な土の中で巣を作っているのです。
清潔な土はコナラにとっても有益で、枝先にいる多少のアブラムシに樹液を吸われようとも、アブラムシ目当てでクサアリが根元に巣を作ってくれれば、清潔な土が出来てありがたいのです。