福原俊一/交通新聞社新書
この本も、実はつんどく本だったのだが・・ようやく完読。
タイトルから感じられるカジュアル感とはまるで違うお堅い内容で、法律や省令上はこうなっている・・こう規定されている・・ということをしっかりと押さえて来る本で、著者の緻密な性格がうかがわれる。この方は鉄道関係の仕事をされていたのではなく、それとは全く無縁の東芝グループの会社を勤め上げ60歳で定年退職した後にこの本を出されている。もっともライフワークとして、長年、本業とは別に取り組んでおられたようであるが・・。定年後に、本来の仕事とは別の分野の、しかもこんなしっかりした本を世に出されるというのは、実に読者に夢を与えてくれるものである。
で、内容についてだが、今決められていることが、こういう背景で決められていると説明されれば、「ああ、そうですか」とほとんどのケースで納得できるのであるが、2点ほど私には受け入れがたいものがあった。(もちろんそれは著者のせいではなく、そう決まっていることに対する反論なのであるが。)
その1つは車体設計上の負荷基準について。乗客の重量を、通勤・近郊で55㎏、特急は60㎏としていること。特急はデブが乗るという話ではなく、荷物が多いから5㎏多めに設定しているようであるが、誰がどうみても軽すぎませんかね?
もう1つ、座席の基準となる1人あたりの占める長さを430㎜・・つまり43センチとしている点。私はつね日ごろ、総武線各停の座席は狭すぎると思うんだよね。お尻は入るんだけど、肩や腕が入らないんだよね。なので、斜めにしたり、隣のお客さんと前後にズレたりしてなんとかやりくりしている。隣にがりがりの男性か、太っていない女性が来ない限り、私の通勤は極めて不快なんだよねぇ。・・ということで私の身体の幅を測ってみたところ、お尻だけを測ると幅31センチだから、43センチには余裕で収まるが、肩幅は46センチでオーバー。一番幅を取る肩と肘の中間部だと53センチぐらいになる。もし総武線各停が上記基準値ぎりぎりに座席を作っていたとすると、おデブな私が不快なのは当然だよね。なるべく痩せる努力、かつ着ぶくれしない努力をしてるんだけど。
ま、こんなツッコミは枝葉末節にて、本書は実に詳しくいろんなことをまとめている。特に心を惹かれたのは、著名な事故を切っ掛けに、現在ではさまざまな防衛策・改善策がとられている例が紹介されている点。
例えば列車分離事故は、三浦綾子さんの小説「塩狩峠」でよく知られているが、今では貫通ブレーキ(全車両に連動して作用し、かつ車両が分離したとき自動的に作用するブレーキ)を整備し、そういう事故が起きないようにしている。
また、乗務員室のガラスの強化(合わせガラス化)は、昭和29年に丹那トンネル内で、対向列車から投げられた瓶により運転士が負傷したことを切っ掛けに導入されたようだ。漱石の三四郎なんかを読むと、昔の人は列車の窓から平気でいろんなものを捨てていたようだからね。トンネル内で瓶を捨てるなんて危険極まりないが、そういうことをする人がいたんだね。
他にも、鉄道通を装える知識がいっぱい。例えば今は「枕木」とは書かず「まくらぎ」と書くのは、木製じゃなくてPC(プレストレストコンクリート)材が多くなったんで、そう変えたんだとか。
でも全体として、結構難しかったわん。私もまだまだ勉強が足りないね。