風塵社的業務日誌

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ブタ箱物語(5)

2017年01月27日 | ブタ箱物語
そうこうするうちに朝を迎えた。どうやって起きたのかは覚えていないが、おそらく職員の声で起こされたのだろう。そのうち、一番離れている房から点呼の声が聞こえてきた。大声で「何番」「はいっ」(こっちは小さい声)「何番」「はいっ」「計何名、よっし!」と叫んでいるのが聞こえてくる。お巡りさんも朝から大変だねえ。小生のように朝弱い人間には、絶対に務まらない職業だ。
そのうち、小生の房にもやって来た。全員で3、4名くらいだったかな。中央の警官が「6番」と大声を出すけど、一人しかいないんだから、見ればわかるだろってなものだ。警官の様子を寝ぼけ眼でポケーと眺めていると、脇に立っている別の警察官が、「はいって答えてください」と小声でささやく。彼らなりの形式があって、なにがなんでもその形式を順守しないといけないのだろう。それに協力することはやぶさかではない。素直に「はい」と答えておく。そのときにメガネを返してもらったのだっけな。これは記憶が定かではない。
点呼が終わると、また一番離れている房から、人の出入りする音が聞こえてくる。こちらは房の中央に陣取って、ヨガストレッチでもやってみる。そこで、家のことが心配になってきた。そろそろ妻も起きている時間である。小生がブタ箱に入っているとは思いもよらないことだろう。会社やケータイに電話をしてもつながらないし、女だと思うのかなと想像する。しかし、こちらからすぐに連絡する手段はないので、元気に出勤してもらうしかない。
そうこうすると、警察の一群がまた小生の房にもやって来た。寝具の片づけらしい。鉄のトビラを開けてもらい、寝具を持ち、留置所に入るときにあてがわれたサンダルばきでそこから出る(サンダルにも6番と記されている)。そして舎房をぐるっと右手に回ったところにある布団部屋に使用した布団を片付けにいく。すでに収納されている布団を見ると整然と並んでおり、小生だけたたみ方がよれている。帰りに横目でどんな人が収容されているのかを眺めると、若い人が多いようだ。
それが終わると、次は洗面タイムである。一つひとつのことに時間がかかるのだけれど、それは一つの房ごとに出し入れが終わったらトビラを施錠するためなのだろう。小生の洗面タイムとなり、その前に簡単にレクチャーを受ける。6番という番号の記されているところに、小生の使用するタオルと歯ブラシが置かれているようだ。廊下に備えられた洗面所に行くと、まだ歯を磨いている人がいたので、「お早うございます」とあいさつをする。先方もあいさつを返す。もしかしたら、あとでその人と同じ房になるのかもしれないので、フレンドリーに接した方がいいだろう。
それが終わると次は朝食だ。しかし、小生は前夜の酒が残っていて、食欲はあまりない。小窓から、仕出屋さんから取り寄せたと思しき、プラスチックの容器に入った弁当が出る。ついでにプラスチックのカップに注がれたお茶も渡され、お茶のお代わりがほしかったら、廊下にいる担当官を呼んでくれと言われる。どんな弁当かと見てみれば、ホカホカ弁当のノリ弁が2段階くらい安っぽくなったようなものである。そこで、ものは試しとその弁当を食べてみることにした。
ご飯を口のなかに放り込んだら、なんだかいやな臭いがする。消毒液の臭いなのだろうか。臭い飯とはよく聞くものの、ほんまに臭い飯やなあと感心した。ご飯は3口ほど食べて、それ以上は断念。のっかっている白身魚のフライの方はまだ食べられたけど、これも半分ほど食べたらお腹いっぱい。お茶だけ飲んで、あとは残すことにする。
食べ残した弁当を小窓から下げて朝食の時間が終わると、各房ごとに「何番」「何番」と呼んでいる声がする。そして、呼ばれた人が廊下に並び始めた。小生のところからは見えないが、呼ばれた人たちは留置所エリアから出ていったようである。この人たちはガス室に送られたわけではないけれど、小生にその順番が回ってきたところで再び述べることにする。
またしばらくすると、今度はお掃除タイムである。小窓から掃除機とトイレブラシの入った小さいバケツが入れられる。めんどくせえなあとは思うものの、やっかいになっているのだから、渡世の仁義は果たさないといけない。一通りの掃除が終わったところで、小窓から掃除用具一式を担当にもどす。
そうすると、今度は運動タイムということである。さっきストレッチをやったばかりだから、さらに運動することもないのだけれど、なにごとも経験である。留置所の運動場ってどんなところか見てみよう。布団部屋の前にドアがある。そこから外に出ると、あれはなにパネルというんだっけな、その固有名詞を忘れちゃったけれど、東京拘置所と同じ型のフェンスに囲まれたさほど広くもない屋上であった。すでに10人ほどがそこでブラブラしていたのかな。
「ヒゲを剃るならこれを使って」と見張りの警官に電気シェーバーを示されるが、めんどくさいから断っておく。昔は運動場でタバコが吸えたという話を聞いたことがあるけれど、いまじゃどうせ全館禁煙なのだろう。灰皿なんてどこにも見当たらない。このまま禁煙しようかなあと、できもしないことを夢想してしまった。

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