いきなりですが、問題です。
昨年の薬物事犯者(薬物で捕まった人)の原因薬物、ベストスリーはなんでしょう?
答え:一位 覚せい剤、二位 大麻、三位 有機溶剤 です。
1970年代の初めから90年代の初めごろまでは、若者の「シンナー遊び」などという言葉がよく聞かれたように、ダントツに有機溶剤が多かったのですが、今はほとんど少なくなりました。
理由は、他の薬物が手に入りやすくなったから。今では、シンナーを吸っていると馬鹿にされる(?)くらいなのだそうです。
これは、昨日幕張で行われた
学校薬剤師会研修会の講演内容の一コマです。
テーマの一つが、「
学校薬剤師が知っておくべき薬物乱用の現在」で、これがとても興味深いお話だったんです。
演者の国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の和田清先生
先生は、「今は、捕まる人たちよりも、捕まっていない人たちが使っている薬物が大問題」と続けました。
薬物による精神疾患患者の原因薬物のベストスリーを見ると、それがよくわかります。
一位 覚せい剤、二位
脱法ドラッグ 三位 睡眠薬
これはショッキングですよね。
覚せい剤はともかく、脱法ドラッグが急浮上し、しかも三位は情けないことに処方薬なんですよ。
最近の薬物乱用の特徴は、「
捕まる薬物」から「
捕まらない薬物」へ。そんな傾向が、はっきりと現れているのだそうです。
始まりは、1998年ごろ。
「マジック・マッシュルーム」などという、干からびたシイタケのようなものが「観賞用植物」として堂々と売られていました。
対象薬物を規制しても、化学構造式の一部をちょっと変えただけで規制を逃れ、栄養剤、お香、アロマなどと称されて次々と出回るようになりました。
現在は「脱法ハーブ」などとさらにマイルドな名称になって、見た目も本当にハーブのようなのですが、これがマイルドなんてとんでもない、れっきとした「
毒物」なんです。
和田先生曰く、「
大麻や覚せい剤の方がまだマシ」なのだそうです。
なぜなら、脱法ハーブは薬理作用が不明で、何がどのくらい混ぜられているのかも全く分からないから。
中には、「依存症が起きる間もないくらい」のいきなりの急性中毒症状で、命の危険にさらされるケースも決して少なくないのだそうです。
サルを使った薬物依存の実験があります。
最初は、サルがレバーを1回叩くと薬物がサルに注入される。次は2回叩くと注入。次は、倍の4回叩くと注入。
次は8回、16回、32回・・・と、だんだんレバーをたくさん叩かなければ薬物が注入されないようにしていくと、サルは薬物欲しさに何回までレバーを叩くようになるのか?という実験です。
その結果、ニコチンは1600回、モルヒネは6400回。コカインはなんと12800回も叩き続けるのだそうです。
想像してみてください。
飲まず食わず眠らずに、ただコカイン欲しさに12800回もレバーを叩き続けるサル。
もちろん体力的にも限界がきますし、薬物の影響で心臓も弱ります。結果的に、心臓発作で死ぬまで叩き続けるのだそうです。
人間の薬物依存の姿も、これに重なります。
薬物経験者は、中学生の頃から始める人が少なくないのだそうです。
現在、学校の学習指導要領では、小6、中3、高1で薬物乱用防止教育を受けるようになっています。
脱法ハーブのような正体がわからないシロモノを体内に入れるという愚かな行為は、絶対にしてはダメ!ということを、子供たちにしっかりと伝えなければなりません。
ここで学校薬剤師の出番です。
学校薬剤師が薬物乱用防止教育に関わるケースが、近年多く見られるようになってきました。
また、こうした薬物に限らず、医薬品全般に関する適切な知識を子供たちに伝えることも、これからの学校薬剤師に求められている、とのことでした。
別の講演では、文科省のスポーツ・青少年局 学校健康教育課の北垣邦彦氏から、「
顔の見える学校薬剤師」を目指してほしい、とのお話もありました。
飲料水や空気などの環境検査だけではなく、子供や職員の中に入って専門家として知識を伝えていくことが期待されています。
正直、何もわからず引き受けた学校薬剤師の任務ですが、こんなにも奥が深かったのですね。とても考えさせられました。
その他の講義も、それぞれわかりやすく参考になるものばかりでした。「参加してよかった」と心から思える研修会でした。