今日は楽しい話ではありませぬ。暗いと申しますか、私たちの社会が抱えている厄介ではあるものの知らぬ顔をして済ませるのは容易でない問題についての話です。
一昨日(10月20日)の夜、時事通信のデジダル版が次のような短いニュースを報じていました。
《日本人の男に死刑執行=7人目、薬物売買の罪―中国》
【北京時事】中国広東省で大量の薬物を売買した罪に問われ、死刑判決が確定した日本人の男に対し、20日に刑が執行されたことが分かった。
日中関係筋が明らかにした。中国は覚せい剤などの薬物犯罪に外国人を含め厳罰で臨んでいる。日本人の死刑執行は昨年6月以来、7人目。
裁判所から事前に広州(広東省)の日本総領事館に連絡があり、日本側は中国外務省に「強い関心」を伝えていた。
男は2011年に死刑判決を受けた。薬物犯罪に関わり、中国で拘束・服役している日本人は1月時点で41人に上っている。
昨日の朝、このニュースがGGIの購読している朝日新聞でも報じられているだろうと思いながら、紙面を眺めていたのですが、見つかりませぬ。おかしいなあと思い、夕方になってもう一度目を皿のようにして紙面という重箱の隅っこをほじくってみましたら、見落としそうなまことに小さな記事が見つかりました。毎日やNHKなども報じていましたが、その扱いは小さなものでした。
このニュースでGGIが驚きましたのは日本政府の反応です。正確に申しあげれば反応ではなく、その無反応ぶりです。
事情はともあれ、自国の市民が外国で処刑されるという問題でありますから、事は重大。自国民を保護するのは国家の最も大切な責務のひとつでありますから、政府は強く抗議し、死刑執行の停止を求めるべきであると思われるのですが、このたびの死刑執行に対する政府の反応はまるで気の抜けた風船、まったくやる気がないとしか思われません。
時事通信の報道では、中国外務省に「強い関心」を伝えただけとされています。これでは、日本政府には自国民の命を救う気がまるでない、と言われても仕方がないでありませう。
NHKはもう少し詳しく政府の反応を伝えていました、
《菅官房長官は閣議のあとの記者会見で、「各国がいかなる犯罪にいかなる刑を科すかは、基本的には当該国の犯罪情勢、刑事政策などを踏まえて決めるべき国内事項に関する問題だ」と述べました。そのうえで菅官房長官は、「政府として、わが国の国民感情や邦人保護の観点から、本件を含む中国での日本人に対する死刑判決について、高い関心を有している旨、中国側に伝達してきている」と述べました。》
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161021/k10010737701000.html
あのねえ、菅官房長官さま、自国民の命がかかった問題であるのに、高い関心を有しいるとだけ言って澄ましていられる問題ではないでせう!そんな何の意味もないことを言うしか能がないのならサッサと官房長官なんかやめてしまいなさい、とGGIは言いたくなります。
メディアの反応も、このニュースの扱いが小さいことから考えますと、まことに鈍感としか言いようがありませぬ。日頃、さまざまな人権問題についてのニュースを扱っていても、麻薬所持で死刑か、日本では考えられないことだけど、しょうがないよなあ、一人や二人、悪い事した日本人の命なんて・・・という無気力な事なかれ主義の感を免れません。
日本政府が中国に対して強く抗議しない(できない)理由は簡単です。世界のおよそ3分の2の国々が死刑を廃止しており、しかも近年実際に死刑を執行している国は年間わずか二十数カ国に過ぎないにもかかわらず、日本には依然として死刑制度が存在しており、毎年死刑を執行しているからです。しかも、今後も死刑を廃止するつもりはまったくないからです。
日本が抗議の意を表明したならば、「何をエラそうなこと言っているのだ、日本にも死刑制度があるじゃないか。日本の法律(刑法)にしたが毎年死刑を執行しているじゃないか。中国も日本と同じように自国の法律にしたがって死刑を執行しているだけだ。中国のことをとやかく言う資格はない、内政干渉だ」と言われれば答えようがないからです。
もし日本が強く抗議して中国と対立することにでもなれば、国際的に注目を集めることになるでありませう。そうなると具合が悪いのです。つまり、抗議を行えば今でも日本に死刑制度があること自体も国際社会で問題にされるようなことになりかねない、そのようなことになるを避けたいというのが政府の考えなのです。もっと端的に申し上げれば、政府は日本の死刑制度を守りたいのです。それが故に、事を荒立てないことが第一と中国に強い抗議は行わないのです。ただ単に「高い関心」だけを示して、人の命がかかっている問題にお茶を濁しているのです。
自国民の命に関心がない投げやりな政府、関心がきわめて薄い日本のメディア・・・日本は何という国でありませうか・・・・
時事通信の報道によれば、中国における日本人の死刑執行はこれで7人目、中国で拘束・服役している日本人は1月時点で41人に達しているそうです。
今後、この41人のなかから死刑に処せられる人が続出する懸念があります。また中国の裁判は、十分な弁護が行われなかったり拙速な審理が行われるなど、著しく被告人の権利が侵害されており、また弁護士が安心して十分な弁護活動を行えないというのが実情です。中国における裁判が公正な裁判に程遠いものであることは国際的に広く知られています。したがって、これらの41人の中には冤罪かもしれない人物が含まれているのではないかという懸念も少なからず存在しています
それでも日本政府は今後も依然として、ただただ「関心」を示すに留まっているつもりなのでありませう・・・
この日本では、これから年末にかけては死刑執行の季節です。最近、法務省は年に2回程度の割合で死刑を執行しており(今年はすでに3月25日に2名に対して執行しています)、年末に死刑が執行される可能性が大きいからです。10月、11月、12月の月末の金曜日あたりが懸念されます。
また某国際的人権NGOの本部は、オウム事件に関する一連の裁判が完全に終了したために死刑が確定している13人に対する死刑執行がこれから開始されることが懸念されるとして、各国の支部に対して注意を喚起しています。
国を守ることに熱心なアベ君、愛国心を愛するアベ君、あなたは集団的自衛権や改憲などおおげさなことを言う前に、国民の命を守ることがほんとうに大切であると考えるのであれば、このような問題に正面から取り組み、海外で理不尽に命を奪われようとしている自国の民のためにあらゆる外交的手段を駆使し、力の限りを尽くすべきです。このことこそが一国の代表する者の、欠かすことが許されない責務であることを自覚すべきです。
今日の写真は本文を関係ありませぬ、わが庵の秋を撮ったものです。クリックして庵の秋をご賞味くださいませ
グッドナイト・グッドラック!