北海道・帯広のそば屋のことを書いていると、なぜか、“ホーム”のタンシチュウが食べたくなった。わたしが帯広に住んでいるころ、ホームは、西2条南10丁目の西仲通りにあった。キロコ電気の並びだ。(いまチャボさんの店が、このあたりなんだろうか)。ホームはいま、六花亭本店のなかにあるようだが、ここには行ったことがない。
ホームのご主人は、ドラゴンでシェフをやられていたはずだ。ドラゴンは、西2条南9丁目東仲通りにあった老舗の洋食屋だ。並びにジャズ喫茶のエースがあった。小学生のころ、このドラゴンで父に洋食コース料理のマナーを教わったものだ。フィンガー・ボールで指先を洗う。スープは音をたてて飲むな。とか、フォークとナイフは、外側のやつから使う。フォークとナイフをそろえて皿に置くと、その料理は食べ終わった、皿をさげていい、という合図だ、とか。そんなことだ。ことあるごとに父にドラゴンでコース料理を食べさせてもらった。だが、父が期待したように、外国要人と晩餐をするような人生にはならなかった。父と母には、申しわけないと思う。
ドラゴンの牡蠣グラタンも、うまいメニューだった。牡蠣グラタンとトーストが、ドラゴンでは安くてうまいランチ・メニューだった。
長いあいだ、帯広駅前が職場だったから、一日2食は、あの周辺、当時の帯広の中心街で食べた。コストはあまりかけられない。毎食予算なしで、うまいものを追求できるなら、幅広く食いまくり、帯広のグルメをきどるのだが、小さいレコード屋の店長だ。立ち食いそばを、愛用した。
立ち食いそば屋は、町内というものじゃない、4軒隣だ。レコード屋を開店してから何年か、つらい時代、たったひとりの店員の子が休みの日には、ずっと飯にもトイレにもいけず、お客さんの高校生や中学生、長谷くんや宮坂くんに、店番をたのんで、走っていって、立ち食いそばを食べたものだ。いまでも立ち食いそば屋をみると、心がさわいで、入ってしまう。
レストラン・ホーム http://www.tokachi-gurume.jp/home.html
六花亭 http://www.rokkatei.co.jp/
戸張さんの写真の、十勝の海の美しさには、いつも驚く。http://www.y-tobari.jp/topics/?ct=1 壮絶で、寒い、太平洋だ。十勝の太平洋に立つと、海を見ているじぶんの無力感、孤独、死の自覚に、悄然とする。十勝の海の情景は、そんなふうに悲劇的だ。重い鉛色の海だ。
でも、北の海のなかは、豊穣の海だ。その寒く、悲しい美しさが、戸張さんの硬質な海の写真にある。わたしは、いつも感動する。じつに美しい。