"青江一郎” さんという方から、「今回の高校生の雪崩事故のニュースに触れたとき、真っ先にこのコラムを思い出しました」と、コメントをいただいた。
そのコラムは、わたしの2010年8月2日の『無謀な登山』という記事です。その記事を下に再録しますね。
高校3年生のとき、無謀な登山につきあったことがある。それは、高体連の大会登山だった。引率したのは、十勝の高校山岳部の顧問教師たちだった。
山は、二ペソツだ。杉沢から登って、頂上に行き、引き返して、前天の手前"16のピーク"から幌加温泉に下るというルートだ。6月のはじめだったから、なにもむずかしいコースではない。
しかし、その冬は雪が多く、6月のはじめでも尾根の日影の斜面に残雪が厚く残っていた。
この、"16のピーク”からガレた急斜面を下り、クマザサ生い茂る原生林のなかのルートは、わが帯広三条高校山岳部の先輩たちが鎌を手にして切り開いた夏道だ。ルート沿いに『三条沼』と日本地理院の地図に書かれた小さい沼もある。わたしたち帯広三条高校山岳部が愛着をもっている山道だ。
この二ペソツのコースが、高体連登山大会十勝予選の会場だ、というので、わたしたち三条高校山岳部員だけで、2週間まえと1週間まえの土日、2度、おなじルートを一泊で歩いた。1600mのピーク直下の急斜面は厚く雪が残っていて、幌加温泉に下る東斜面全面、いつもの年には消えていた雪が残って、麓の原生林のなかも雪原だ。「まだ冬山だ」、夏山装備の100人もの高校生が歩くところじゃないな。と、思った。
その大会当日、ニペソツ山頂から下ってきて、16のピークから東斜面の幌加側に下りるまえも、そして、その前日、杉沢のキャンプ地でも、「雪が残ってるから、幌加温泉側に降りないほうがいいです。杉沢にもどったほうがいいです」と、顧問教師のボスのなんとやらいう教師にいった。「ぼくらは、1週間まえも、おなじコースを歩きました」
だが、高校生のガキが何いってやがる、という態度で、教師たちは酒を飲んでいた。(わたしは、50年まえのことを鮮明に覚えているし、そのボスの顧問教師も忘れない。学校の名前も覚えている。ここでは、言わないが‥‥)。
雪の原生林を下っていて、「帯広三条、トップへ」といわれた。きたか……しかし、もう手遅れだろ、と思った。もう午後3時だ。教師たちがギブアップしたのだ。道に迷ったわけだ。わたしは、そのずっとまえから、教師たちが道に迷っているのを知っていた。(ルートも間違っているし、時間もキツイ、と思っていた。)東斜面を下っていたわけだから、太陽は、自分たちが背にしている尾根に沈んでいる。6月初旬でも午後3時はもう薄暗い。このまま行動すると、暗闇のなか、雪の原生林をさまようことになる。(わたしたちは、前週と前々週、この雪の森林地帯を歩いて、枝にある夏道を示すピンクのテープを見つけていた。)
高体連・恒例の大会登山。夏道を登り、夏道を下る計画だったのだろうが、この年選んだ下りルートは、厚い残雪に覆われていたのだ。雪のなか、100人もの高校生をつれているから、スピードはおそい。高校生たちは、キャラバン・シューズや、スニーカーなどの夏靴だから、腐った残雪を長く歩いていると、靴下は濡れて足は冷え切っていく。昼は初夏の気温だが、陽が落ちていくと、まだ雪が残る山だ。急激に寒くなる。グズグズと表面がゆるんでいた残雪がガチッと凍りだす。(わたしたちはアイゼンも用意していた)。
その日、高体連・山岳大会十勝予選の一隊100人以上、幌加温泉にたどりつけず、雪のなかのビバークだった。いまなら、テレビのワイドショーの格好のネタで、教師たちは、つるし上げられ、マスコミのアホたちに自殺に追い込まれただろう。『教育委員会の無責任か? 教師の無能か? 女子部員もふくむ高校山岳部員100人、雪山で遭難!!』
高校生のわしら、残雪のなかで100人ビバーグしたその夜。わたしと二ッ森隆文と西尾哲と佐々木要の帯広三条高校山岳部4人は、立ち枯れた松の木を切り倒して、雪のなか、夜明けまででかいキャンプファイヤーを幾つもつくった。わたしたち4人以外、だれもが凍えていたのだ。(わたしたちは、雪のなかで行動して寝るという想定の装備、服装だった。鋸とナタと斧も持ってきた。高体連の引率教師のだれ一人持ってない)
「国有林の木を勝手に切るのは……」と、わたしを非難したどこかの高校の顧問教師もいた。勝手に凍えて死ね、という感じで、わたしはアホ教師を無視して、切り倒した枯れたエゾマツの枝をはらい、幹を叩き割って、幾つもの焚き火をバンバン大きくした。その「国有林」教師たちも、夜明けまで焚き火から離れない。
100人以上の高校山岳部の生徒が、予定日に麓の温泉に到着しない。いまなら、大事件だ。教育委員会が、あの事件を、どう握りつぶしたかしらない。
高校生のわしらが、大会登山のコースを 「(なんどか歩いて知ってるルートだが、やたらと雪の多い冬だったから)事前に歩いて下見しておかないと、マズいんじゃないかい」と、2週にわたって歩いているのに、100人もの子供たちの命をあずかる教師たち、アンタら、ぶっつけ本番かい!……と、高校生のときに思ったものだ、その山、ニペソツで。