すごいドラマーに出会った。
人生、偶然の、人との出会いというのは、ほんとうにおもしろい。すごい人と、突然、あう。むかし、細い体の青年の、浜田省吾とあった、その歌をきいた、そのとき‥‥‥なんだか、ひどく感動したように‥‥‥‥。
先週土曜日のこと。コタニ・アグリの社長ご夫妻、写真家・戸張さんと、バイプレーンで食事をしてから、ブルースハープにいった。連休の土曜日、猛烈に繁盛していて、じつに楽しい浜省の夜も深まり、小谷夫妻を見送ってから、隣のビルの、ゲンちゃんの店・B♭M7に寄った。
そこで、帯広のピアニストと、飛び入りのお客さんのドラムでセッションがはじまった。
なんと、お客さんの、その青年ドラマーが、すごいのだ。わたしは、(長い間、レコード屋で、かつ、北海道全域をカバーする、ライブのプロモーターだった、という)若い時の職業的直観で、『このドラムの青年、ただもんじゃないな』と思った。隣に座る戸張さんに言った。「きっと、このドラムの人、音楽大学で、きちっとパーカッションの勉強をした人だよ。きっと、プロの、ミュージシャンですね」と。
食事にでていたゲンちゃんがもどってきて、ベースとドラムスとのセッションがはじまるのだが、そのまえに、ゲンちゃんがエレベをセットしている間、ドラムの、飛び入り青年は、入念にドラムスのチューニングをしている。その姿をみていて、わたしは、ふたたび確信した。『この青年、ただものじゃないな』と。
むかし、渡辺貞夫さんのバックを、スタッフがやる、というコンサートをリハーサルからずっと見ていたことがある。ジャズのプロモーションの、ミューズコーポレーション・木之内社長がプロモーターだったので、関係者以外入れないリハの場にいることができたのだ。
(逆に、木之内社長は、わたしがプロモートする、浜田省吾や荒井由実や井上陽水のコンサート・リハを見に来ていたが‥‥‥‥おたがい、ジャンルは違うけど、バックステージ、楽屋は、フリーパスなのよ、そのころ。顔だ。アメリカのハリウッド映画やらの、ヤクザ・マフィアの世界みたいだけど、まあ、そんな感じなの、わしらのむかしは‥‥‥‥リアルに。)
スタッフのリハは、まず、ドラム・セットのチューニングからはじまる。ロディーの若者が長い時間かけて、スネア、タム、バスドラなどのチューニングをする。それが、終わると、スティーブ・ガットがステージにやってくる。そして、ふたたび、長い時間かけて、ドラムセットのチューニングをやるのだ。これがとんでもなく入念で、とてもナーバスにみえる。
わたしは、それまで日本の、ロックやジャズのミュージシャンの、本番前のリハをたくさんみていた。だが、こんなに入念に、慎重に、チューニングをするドラマーをみたことがなかった。心底、驚いた。
アメリカだけじゃなく、イギリスのアーティストも、レコーディングやライヴでドラムを叩いてほしい、とモテモテの、世界トップのスタジオ・ミュージシャンは、じつは、律儀で、神経質な、職人さんなんだ、と感動したものだ。
スティーブ・ガットの長いドラムス・チューニングが終わって、まずベース、そしてギターと入ってきて、長いブルースがはじまる。そのブルースをまわしながら、自分のベースアンプやギターアンプのボリュームやトーンの音を決めていく。アンプに座って、ギターを弾きながら。
開場で、お客をいれるために緞帳をおろすまで、ドラムスからはじまって3時間いじょうの、1曲の長い長い、長いブルースがつづく。このリハは、見て聴いていて、ジャズ、フィージョン、すべての音楽ファンにとって、こんな楽しく、贅沢な体験はないな、と、わたしは、いまも思っている。
土曜日、B♭M7で、ゲンちゃんと、飛び入りの青年のセッションがはじまる前、その青年が、スネアーやタムを入念にチューニングしているのを見ていて、遠いむかしの、スティーブ・ガットの、リハでドラム・セットをチューニングしている姿を思い出していた。
ゲンちゃんとのセッションが終わったあと、その青年と話をした。やはり、子供のときからピアノと打楽器を学び、音大でパーカッションを勉強して、現在、横浜に住んで、ドラム、パーカッションの、プロのミュージシャンだ、という。青年は、小林慎(まこと)さんだ。
わたしの職業的直観は、老いても、なかなかでしょ。
まず、なにがこの青年のドラムで感心したのか、というと、そのときB♭M7でセッションしたピアニストの人は、かなり酔っていたのか、けっこうリズムも揺れ動いて荒っぽくなっていたんだよ。だが、そのデタラメを、ちゃんと聴きながら、主役のピアニストをたてるドラムを叩いている。
無駄な音、叩かない。小さい音で明解にリズムをキープして、酔ったピアニストをたてる、『なに、この青年?』、すごい若者も、いるもんだ‥‥‥‥‥ 。
札幌出身の小林さんは、友人か親戚の結婚式が帯広であって、帯広駅前のホテルに泊まって、たまたま、部屋にある帯広ガイドのパンフをみた。ジャズ・スポットで、飛び入り歓迎みたいな、記事があって、B♭M7にやってきた、というのだ。ママに、「ドラムを叩かせてくれますか?」というと、大丈夫、マスターがもどるまえに、ピアノの人とやりますか? と、演奏がはじまった。そのとき、わたしと戸張さんが店に入ったわけ。
ピアノとディオの、このドラムが、メチャクチャ素敵だった。わたしは、酔っていたが、わたしの感性は、そのとき、それほど、酔ってはない、それほど‥‥‥‥‥。老いてはいるが、わが感性は、それほど鈍っては、いない‥‥‥‥‥だろ!
小林慎さん http://www.jazz-farout.jp/archives/896