盲目のピアニスト、ジョージ・シアリング作曲の『バードランドの子守唄』に歌詞をつけた、ジョージ・デビット・ワイスは、『 The Lion Sleeps Tonight ライオンは寝ている』の詞も書いてる。
『ライオン・キング』 The Lion Sleeps Tonight http://www.youtube.com/watch?v=O8milJNj_W0
この『 The Lion Sleeps Tonight ライオンは寝ている』は、わたしが小学生のころ、トーケンズ The Tokens の歌で大ヒットして、日本でも流行って、毎日のようにラジオから流れたものだ。1961年(昭和36年)のことだ。『ライオン・キング』では、80年代のブロードウェイ・ミュージカルも、1994年のアニメ映画も、このトーケンズのヴァージョンをほとんど変えず使っている。
このトーケンズ版の The Lion Sleeps Tonight を作詞したのが、ジョージ・デビット・ワイス、ヒューゴ・ペレッティ、ルイージ・クレアートーレのプロフェッショナルなソングライター・チームだった。元は、アフリカの曲だ。
ジョージ・デビット・ワイス。エルビス・プレスリーのヒット曲『好きにならずにいられない Can't Help Falling In Love With You 』など、ほかにも多くの作品がある。
ルイージ・クレアートーレ、サム・クック、ヒューゴ・ペレッティ。
ヒューゴ&ルイージは、従兄弟のソングライター。作詞・作曲だけでなく、レコーディング・プロデュースのチームだ。サム・クックのレコードも制作した。
この3人、ジョージ・デビット・ワイスと、ヒューゴ&ルイージが、トーケンズ・ヴァージョンの『ライオンは寝ている The Lion Sleeps Tonight 』をつくった。
まず元になったアフリカの歌がある。1939年、南アフリカのグループ、イヴニング・バーズ The Evening Birds が『Mbube ライオン』という曲をアフリカでヒットさせた。リーダーのソロモン・リンダの作品だ。
何人もの才能あるプロたちの手を経て、この曲が、いまの『 The Lion Sleeps Tonight ライオンは寝ている』に進化する。原石が磨かれていく過程をみるようで、じつにおもしろい。
ソロモン・リンダ&イヴニング・バーズ Mbube http://www.youtube.com/watch?v=mrrQT4WkbNE
一番左が、ソロモン・リンダ。グループのリーダーで、作曲者。
この南アフリカの曲に興味をもったアメリカ人がいた。アラン・ローマックスだ。父ジョン・ローマックスとおなじように、アメリカのフィールドでフォークソングやブルースを収集した音楽学者だ。アメリカだけではない。世界じゅうに出かけて録音した。
アラン・ローマックスによって発掘され歌われるようになったフォークソングやブルースも多い。レッドベリーやマディー・ウオーターズやメンフィス・スリムなど、アラン・ローマックスの録音で世にだてブルースメンも多い。ジョンとアラン・ローマックスの功績がなければ、いまのアメリカのポピュラー・ミュージックの隆盛はないだろう、とまでいわれる。父ジョン・ローマックスとアラン・ローマックスは、1万をこえる曲をフィールドから収集・採譜・録音したという。
アラン・ローマックスは、友人のフォークシンガー、ピート・シーガーに、この南アフリカの曲『 Mbube 』を聴かせる。
ピート・シーガーは、1940年代のアメリカ・フォーク・リバイバル運動の中心的なミュージシャン。『天使のハンマー』『花はどこへ行った』『ターン・ターン・ターン』などフォークソング・ブームのときによく歌われた曲の作者だ。
南アフリカの曲『 Mbube 』は、『 Wimoweth 』とタイトルが変わり、オリジナルとはまるでちがうアメリカンになって、ピート・シーガーたちのグループ、ウィーヴァーズ The Weavers でレコーディングされた。1952年(昭和27年)のことだ。これがヒットして、キングストン・トリオなどがカバーする、フォークグループのスタンダードになった。
ウィーヴァーズ Wimoweth http://www.youtube.com/watch?v=2njQxb5b6eA&feature=related
60年代になると、イギリスで、この曲は、もっとポップにロックンロールっぽく歌われる。トーケンズ・ヴァージョン夜明け前、という感じだ。だが、まだ英語の歌詞がついてない。なんだか訳のわからない言語で歌ってる。このころになると、原曲のもってる土臭い雰囲気は跡形もなくなる。
ザ・スプリングフィールズ Wimoweth http://www.youtube.com/watch?v=zbfegDhBhcU&feature=related
左でコンガを叩いているのが、兄のトム・スプリングフィールド、そして、ダスティー・スプリングフィールド。若い。まだ21、2歳だろうか?
カール・デンバー Wimoweth http://www.youtube.com/watch?v=09SXTH699xE&feature=related
そしてついに、1961年(昭和36年)、アメリカの白人ドゥー・ワップ・グループ、トーケンズの『ライオンは寝ている The Lion Sleeps Tonight 』が登場する。英語の歌詞も完璧なプロの仕事で、アレンジは、洗練されたアメリカン・ポップスだ。50年たったいまも、ちっとも色褪せない、たのしいポピュラー・ミュージックだ。英語の詩をつけ、曲を磨いたのは、この記事の最初に紹介した、3人のプロフェッショナルなソングライターたち、ジョージ・デビット・ワイスとヒューゴ&ルイージだ。
トーケンズ The Lion Sleeps Tonight http://www.youtube.com/watch?v=_LBmUwi6mEo
2004年、『 Mbube 』の作曲者、ソロモン・リンダの身内が、ディズニーに対して高額のロイヤルティーを請求する訴えを起して、莫大な金を手にした。しかし、悲しいことに、作曲者・ソロモン・リンダ本人は、すでに1962年、赤貧のなかで亡くなっていた。
ウィーヴァーズ再結成、カーネギー・ホールのライブ映像。トーケンズの60年代の映像と2008年の映像がおもしろい。
ウィーヴァーズ(再結成) Wimoweth http://www.youtube.com/watch?v=vZ06MuB8_04&feature=related
トーケンズ The Lion Sleeps Tonight (1969) http://www.youtube.com/watch?v=GxwoxWOd_dc&feature=related
トーケンズ The Lion Sleeps Tonight (2008) http://www.youtube.com/watch?v=pHB_STa-lxI&feature=fvwrel
話はすこしずれるが、トーケンズの『ライオンは寝ている』が流行った1961年(昭和36年)、日本では、石原裕次郎の『銀座の恋の物語』、坂本九の『上を向いて歩こう』、西田佐知子の『コーヒールンバ』なんかが流行っていた。わたしは、小学6年か、中学1年だったか?
仲宗根美樹が、『川は流れる』でデビューした年だ。南沙織のまえ、最初の沖縄出身のアイドル歌手ではないだろうか。アイドルといっていいのか……歌がうまい人だった。戦後15年、沖縄はまだアメリカだった。
仲宗根美樹 『川は流れる』 http://www.youtube.com/watch?v=vEoP_NvdhT8&feature=related