ジーン・ケリー
ミュージカル映画が好きなわたしには、ふたりの天才ダンサー、ジーン・ケリーとフレッド・アステアは、神だ。このふたりのことは、また近いうちに話すことにして……きのうからのつづき、雨の曲のはなし。
1952年(昭和27年)の、映画『雨に唄えば Singin' In the Rain 』は、歴史に残る傑作ミュージカル映画だ。だが、このタイトルにもなっている有名な曲は、この映画で初めてつかわれたわけじゃない。もっとずっと古い曲なのだ。
(だから、このミュージカル映画が封切られたときはすでに、Singin' In the Rain は、アメリカの観客にとって、なつかしい馴染みの曲だった。と、わたしは推測している。それは映画『カサブランカ』の有名な挿入歌、『As Time Goes By (時の過ぎゆくままに)』の場合と似ている。と、わたしは思う。この曲も古い。映画につかわれる10年以上まえ、ブロードウェーのショーで歌われてヒットした曲だ。
『カサブランカ』が制作されたのは、1942年(昭和17年)、この曲が作曲されヒットしたのは、1931年(昭和6年)のことだ。だから、映画が封切られたとき、この曲は、観客のよく知ってる、古い、なつかしいヒット曲だったはずだ。と、わたしは以前から思っていた。『ノッティングヒルの恋人』に、Ain't No Sunshine や She がつかわれたように。そのことはいずれ書くとして……)
この傑作映画『雨に唄えば Singin' In the Rain 』は、MGMの敏腕プロデューサー、アーサー・フリードの制作だ。アーサー・フリードは、ヒット映画のプロデューサーだが、若いときは音楽で食べていた。プロ・ミュージシャンのはじめは、ティンパンアレーやブロードウェーのピアニストで、作詞家でもある。作曲家のナシオ・ハーブ・ブラウンと組んでブロードウェー・ミュージカルのヒット作をいくつも書いている。
プロデューサーのアーサー・フリードは、自身が作詞をして、ナシオ・ハーブ・ブラウンが作曲してヒットした、過去の曲をつかうミュージカル映画を企画したわけだ。新曲を発注する予算は節約できるし、なにより、眠っていたじぶんの曲が、また著作権使用料を稼ぎだしてくれる。
かなりイージーで、地位を利用した身勝手な企画のようだが、これが、天才振付師・ジーン・ケリーの振り付けとダンスで、みごとなミュージカル映画になって全世界で大ヒットした。このみごとなキャスティングこそが、アーサー・フリードの大プロデューサーたるところかな。会社は大儲け、作詞家としてのじぶんの懐にもガッポリ、親友の作曲家も大金持ち。あの名シーンで、天才ダンサー、ジーン・ケリーは、永遠の命を生きる。
Singin' In the Rain (雨に唄えば)は、1927年(昭和2年)ころすでにブロードウェーのショーで歌われていたというが、著作権登録されたのは、1929年(昭和4年)のことだ。トーキーのミュジカル映画『ハリウッド・レビュー・オブ・1929 The Hollywood Revue of 1929 』のなかで歌われ、フィナーレにもつかわている。
1929年版のSingin' In the Rain 、ウクレレを弾いて歌うのは、クリフ・エドワーズ。3人の女性は、ブロックス・シスターズ。カナダ出身の姉妹のコーラス・グループだ。20年代30年代、抜群の人気があった。歌は、じつにうまい。半世紀まえのキャンディーズかな。
この1929年のSingin' In the Rain もメチャクチャかっこいい。と、わたしは思う。音楽もダンスも、十分いまに通用する。というより、もっと何か、いまの音楽シーンが失った、洗練されたセンスがある。この映画をオリジナルの鮮明な映像でみたいものだ。
クリフ・エドワーズ&ブロックス・シスターズ Singin' In the Rain http://www.youtube.com/watch?v=7GdN_NncZkM
この『ハリウッド・レビュー・オブ・1929』が制作された、1929年(昭和4年)は、トーキーのミュージカル映画が最初に登場する年だ。この映画では一部カラーなのだ。フィナーレのSingin' In the Rain は、カラー映像だ。
(トーキー talkie とは、音声がある映画のこと。talking picture のことだ。それまで映画に音は無かった。無声映画・サイレント映画だ。
トーキーの最初は、音はレコード盤に記録して再生し、映写機のフィルムと同期させて上映した。だが、映像と音を合わせて再生するのは、なかなか難しい。すぐに、フィルムそのものに音声信号を記録する、光学方式が採用された。
このフイルムで、音声が記録されている部分を、サウンドトラックという。ここから、その映画に入っている音楽やセリフのレコード盤を『サウンドトラック』盤といい、日本では略して『サントラ』というようになったわけだ)
『ハリウッド・レビュー・オブ・1929』フィナーレSingin' In the Rain http://www.youtube.com/watch?v=fUba07FwXSw&NR=1
バックの絵は、ノアの箱船だろうか、そこに虹がでて、200人の雨合羽のダンサーが踊り、出演したスターたちが歌う。ミュージカル・ショーのフィナーレらしい感動のラスト・シーンだ。(映画『コーラスライン』もこんなふうに終わる。宝塚のショーもこんな感じのフィナーレかな。 テレビでしかみてない。生きてるあいだに、ぜひ一度、宝塚の舞台をみたい!と、いつも思う)
Singin' In the Rain (雨に唄えば)の作曲者・ナシオ・ハーブ・ブラウン(1896~1964)と、作詞のアーサー・フリード(1894~1973)。このアーサー・フリードが、ミュージカル映画の傑作、あのジーン・ケリーの雨のダンスシーンの、映画『雨に唄えば』のプロデューサーなのだ。
映画『カサブランカ』 “Play it, Sam” As Time Goes By http://www.youtube.com/watch?v=7vThuwa5RZU&feature=related
トーキー映画のフィルム。右側のギザギザ部分が、音声が記録されているサウンドトラック。
光学式のサウンドトラック方式には、ふたつの方式がある。濃淡で音声信号を記録する方法と、上のフイルムのように波状に音声を記録する方法だ。いずれにしても通過する光を感知して音を再生する。レコード盤とおなじアナログだ。
もちろん現在では、この光学アナログ方式をつかってない。とうぜん、デジタルなのだ。これもふたつの方式がある。ひとつは、従来の光学アナログと同様にフィルムのサウンドトラックにデジタル信号を載せる方法だ。
そして、もうひとつは、フィルムのサウンドトラックには同期信号 time-code しか記録せず、音声そのものは別のCD盤にデジタル録音されている。フィルムの信号に同期してCD-ROMから音声が再生される。これが一番新しい方式なのだから、おもしろいね。
100年以上まえ、1900年代の初頭、最初に実用化されたトーキーのシステムと最新システムが同じだ。音声は、フィルム面とは別の、レコード盤に記録して、映写機と蓄音機がシンクロされて、セリフと音楽のある映画が上映された。
上の図が、最近の劇場用35ミリフィルムの端っこの拡大。このいずれかの方式をつかっている(アナログ・サウンドトラックは、for backup とあるから光学アナログ映写機にも対応できる、ということかな?)。右端のDTS(デシタル・シアター・システム)Time-code が、CD-ROMの同期コード。
わたしは、むかし、映画の興行もやっていたので、映画館の映写室に出入りして、映画の35mmフィルムはみている。だが、デジタル時代になったフィルムはみたことがない。SDDS やドルビーデジタルやDTSのトラック は、この図ではじめてみた。