なぜ物価は上がらないのか:3 ゼロ金利でも物価安定
第1回は、先進国社会のインフレの最大の原因は賃金コストインフレだという事、第2回は、通貨供給を増やしても物価が上がらないメカニズムについて書いてきました。今回(第3回)は、変動相場制の中での金利政策の意味について考えてみたいと思います。
基軸通貨国アメリカのサブプライムローンの証券化に端を発した、世界金融恐慌に発展しかねない問題への対処のため、アメリカFRB議長(当時)だったバーナンキさんは、金融の量的緩和とともにゼロ金利政策をとりました。
金融恐慌は金融緩和で防げるという信念の持ち主だという事です。
その際、経済回復の目標の中にインフレ率2%というターゲットを掲げました。
日本では日銀が、2013年、黒田新総裁のもと、アメリカに倣って異次元金融緩和を進め、インフレ・ターゲットもアメリカと同じ2%としました。この金融緩和は、翌2014年と二回にわたって行われましたが、その結果起こったことは皆様ご記憶の通りです。
現実に起きたことは、2013年4月のいわゆる黒田バズーカでは円レートが90円から110円に、2014年10月の第二弾では円レートが120円水準になったという変化です。
振り返れば、リーマンショック時のアメリカのゼロ金利政策で、円レートは120円から80円の円高になっています。
詰まるところ、ゼロ金利政策といった、金融政策の劇薬で起きたことは、 為替レートの変動だったという事です。長期の円高デフレに苦しんだ日本には経済正常化への特効薬でした。
ご記憶に新しいところでしょうが、日本の場合、異次元金融緩和で起きたことは、円安、というより、円レートの正常な(購買力平価などから見て)水準への復帰、それによる国際競争力と企業業績の回復、そして為替差益による企業の自己資本充実、さらに金融の量的緩和にも支えられた株価の急騰でした。
これはまさに劇的な変化で、アベノミクス第1の矢は大成功でしたが、消費者物価はほとんど動きませんでした。
伝統的な見方で言えば、企業経営は正常化し、収益改善、雇用環境改善という事になれば、賃金上昇率も次第に生産性上昇率を越え、インフレ基調の経済にという事だったのでしょう。このインフレ基調が、[経済好調のシンボル]だとして、(しかしインフレ率が高くなり過ぎないように)2%インフレ・ターゲットを掲げたのでしょう。
しかし、現実はそうした予想通りにはなっていません。変動相場制のもとでの企業収益は為替レートで大きく左右されます。労働組合には、労働者の貢献で稼ぎ出したという実感がありません。企業も、従業員の働きで業績が良くなったと考えていないようです。
真面目な日本の労組の要求は、常にモデストです。賃金コストプッシュが起きそうにありません。
しかし一部には、値上げが起きてきています。人手不足から正規労働者より賃金上昇率が高くなった非正規を多用するところ、例えば加工食品業界、サービス業界などでは、明らかに 値上げに動き出しています。
日本の経済社会はアメリカとはかなり違います。超高齢化を控え、国民の生活態度は、キリギリス型ではなくアリ型(イソップ寓話)です。労使関係も違います。
アメリカは資源国、日本は無資源国という点でも大きく違います。資源価格上昇で得する国と損する国です。
しかし新興国との競争という点では同じ問題を抱えています。国内のコスト高で、海外投資重視という企業の視点も同じです。
そうした中で、今、アメリカでも日本でも、かつてインフレの主因であった労働側からの賃金昇圧力が大きくないという現状が、インフレの高進を阻んでいるというのが、インフレが起きない最大の原因でしょう。
しかし、社会の雰囲気が変われば、インフレという経済の病が亢進する可能性は何時でもあるのでしょう。
なぜ物価が上がらないかという問題への答えは、これから、現実の経験が徐々に教えてくれるように思います。その辺も少し考えてみたいと思います。
第1回は、先進国社会のインフレの最大の原因は賃金コストインフレだという事、第2回は、通貨供給を増やしても物価が上がらないメカニズムについて書いてきました。今回(第3回)は、変動相場制の中での金利政策の意味について考えてみたいと思います。
基軸通貨国アメリカのサブプライムローンの証券化に端を発した、世界金融恐慌に発展しかねない問題への対処のため、アメリカFRB議長(当時)だったバーナンキさんは、金融の量的緩和とともにゼロ金利政策をとりました。
金融恐慌は金融緩和で防げるという信念の持ち主だという事です。
その際、経済回復の目標の中にインフレ率2%というターゲットを掲げました。
日本では日銀が、2013年、黒田新総裁のもと、アメリカに倣って異次元金融緩和を進め、インフレ・ターゲットもアメリカと同じ2%としました。この金融緩和は、翌2014年と二回にわたって行われましたが、その結果起こったことは皆様ご記憶の通りです。
現実に起きたことは、2013年4月のいわゆる黒田バズーカでは円レートが90円から110円に、2014年10月の第二弾では円レートが120円水準になったという変化です。
振り返れば、リーマンショック時のアメリカのゼロ金利政策で、円レートは120円から80円の円高になっています。
詰まるところ、ゼロ金利政策といった、金融政策の劇薬で起きたことは、 為替レートの変動だったという事です。長期の円高デフレに苦しんだ日本には経済正常化への特効薬でした。
ご記憶に新しいところでしょうが、日本の場合、異次元金融緩和で起きたことは、円安、というより、円レートの正常な(購買力平価などから見て)水準への復帰、それによる国際競争力と企業業績の回復、そして為替差益による企業の自己資本充実、さらに金融の量的緩和にも支えられた株価の急騰でした。
これはまさに劇的な変化で、アベノミクス第1の矢は大成功でしたが、消費者物価はほとんど動きませんでした。
伝統的な見方で言えば、企業経営は正常化し、収益改善、雇用環境改善という事になれば、賃金上昇率も次第に生産性上昇率を越え、インフレ基調の経済にという事だったのでしょう。このインフレ基調が、[経済好調のシンボル]だとして、(しかしインフレ率が高くなり過ぎないように)2%インフレ・ターゲットを掲げたのでしょう。
しかし、現実はそうした予想通りにはなっていません。変動相場制のもとでの企業収益は為替レートで大きく左右されます。労働組合には、労働者の貢献で稼ぎ出したという実感がありません。企業も、従業員の働きで業績が良くなったと考えていないようです。
真面目な日本の労組の要求は、常にモデストです。賃金コストプッシュが起きそうにありません。
しかし一部には、値上げが起きてきています。人手不足から正規労働者より賃金上昇率が高くなった非正規を多用するところ、例えば加工食品業界、サービス業界などでは、明らかに 値上げに動き出しています。
日本の経済社会はアメリカとはかなり違います。超高齢化を控え、国民の生活態度は、キリギリス型ではなくアリ型(イソップ寓話)です。労使関係も違います。
アメリカは資源国、日本は無資源国という点でも大きく違います。資源価格上昇で得する国と損する国です。
しかし新興国との競争という点では同じ問題を抱えています。国内のコスト高で、海外投資重視という企業の視点も同じです。
そうした中で、今、アメリカでも日本でも、かつてインフレの主因であった労働側からの賃金昇圧力が大きくないという現状が、インフレの高進を阻んでいるというのが、インフレが起きない最大の原因でしょう。
しかし、社会の雰囲気が変われば、インフレという経済の病が亢進する可能性は何時でもあるのでしょう。
なぜ物価が上がらないかという問題への答えは、これから、現実の経験が徐々に教えてくれるように思います。その辺も少し考えてみたいと思います。