先月、作家の大崎善生さんが亡くなった。
66歳だった。
大崎さんの文章はいつもちよっと引っかかりながら、そして後戻りしながら読んでいた記憶がある。
透き通った文章というものはそういう読み方をするものなのだろう。
作品はノンフィクション、私小説でも、大崎さん自身のエピソードがたびたび語られていて、親近感があった。
私は都内のサイン会に巡り合うチャンスが無かった。
特に大崎さんの著書の中で、胸を打ったのは、50ページほどの分量の『優しい子よ』でした。
主人公の男の子が亡くなるのですが、その男の子が大崎さんの有名な女流棋士の奥様とのやりとりの手紙が、
いたいけだ。
彼のその純真無垢な文章に、すさんだ私の心には響きわたり、地中貫通爆弾バンカーバスターのように、
邪心を引き裂いてくれた。
多くの読者に、亡くなったこの男の子の3か月ほどの大崎家とのやりとりが、永遠の話として生き続けるだろう。
そういった、やさしい気持ちにさせてくれる作家が、大崎善生であったことは、私たちの記憶の中にこれからも居続けるだろう。
合掌