このうんざりする暑さと突然の雨の中、私は非常に流通量の多い5513を着けてお盆の中も仕事をしています。そんな私と行動を共にする数少ないスタッフと涼みながら仕事をしていると、突然、携帯から〝いまから、ちょっとお伺いしたいのですが…〟という友人の公認会計士のN氏(1016着用)と企画会社社長のI氏(16520着用)。来社するなり、いつものように雑談になった。あまりテンションの上がらない私…。
まだ女子社員が彼らに冷たい麦茶を出す前に、I氏がここで私に切り込む〝ロレックスってベンツですよね!〟。
…嫌な感じに響き渡る異様な空気のオフィスと彼らと私…。
〝またか…。〟直ぐにこれからI氏が話す内容の展開を察知し想像できた私は、結論は分かりきってはいたが、とりあえず、彼の話を聴く事にした。ロレックスとベンツとの共通する機能面、デザイン、企画力…。いろいろと彼なりの持論を展開していく。もう一人のN氏も自動車好きで有名で、I氏と大方同じ意見であった。
〝ロレックスがベンツ…?君らの話を聴いていると何だか、昔雑誌で数回に渡って連載された〝R指定の男〟を思い出しましたよ。分かったような分からないような…。パテックがロールスロイスとか言っている人もいるけど、何だか時計と自動車って単に機械というだけで共通だけど、ロレックスがベンツだとか、パテックがロールスロイスだとか言うけど、じゃあ、オメガは?オリスは?、はたまたエベラールは?それらはどの自動車メーカーに匹敵するのか?逆にアウディーやポルシェやワーゲンなどのドイツ系も場合によってはロレックスなんじゃないの?ロレックスはその根底においてドイツ系スイス製品という側面が強いしね。こう言われると異業種同士の共通話が辛くなりませんか?…。それにベンツだってロレックスとは決定的にコンセプトが違う車種もある。2社を結びつけるのに都合の良い共通項だけを無理やり取り上げるのは止めたほうがいいな。雑誌の似非時計評論家たちのようにさ。〟と私は思いつくままに彼らに言い放った。
私は、ある一面で物事を共通項で無理やり括って決定してしまう、マニュアル人間には嫌悪感を抱いてしまいます。だから〝○○主義〟というのは嫌いなのです。『平家物語』や『徒然草』の冒頭のように、時代やその背景は常に変化し、嗜好や思想も常に変わるのが社会や人間だからです。不変なら発展はないのです。
ロレックスはベンツでもなければポルシェでもない。ただ昔の、COSMOGRAPHやDAY-DATEの取扱説明書の表紙写真は白いポルシェと茶色のロールスロイスが駆け抜けていくだけであったが…。