南米の樹-6
アスンシオン市パルマ通りの民芸店で,片隅に置かれた素朴な木彫りの置物が目に入った。先住民グアラニーの誰かが慰みに作ったような荒削りの人形(?)で,美しいという訳ではないが,ただ「変わっているなあ」と,その造形に目を引かれた。
手に取ってみると,フワッと持ち上がった。その瞬間,「おや・・?」と言う顔をしたのだろう,店員が間髪を入れず,
「バルサですよ」と微笑んだ。
「そうだね,軽いわけだ。ところで,これは何ですか?」
「グアラニーの神話に出てくる妖怪(多分そう言った)クルピですよ。森の神で・・・」
と長い説明が続いたが,旅人の語学力では理解半ばで終わってしまった。その人形(写真)は現在,拙宅の玄関脇に鎮座している。
◆中南米原産,「筏」 に使われた
バルサ(Balsa,Ochroma lagopus,Ochroma pyramidale,日本でもバルサと呼ばれる)は,模型飛行機の材に使われることからその名前を知ってはいたが,南米熱帯地域から中米地域が原産であることは知らなかった。
「ポリネシア人は南米・中米から移住した」「中米の古代文明ではバルサ材の筏で遠洋航海を行っていた」という仮説を証明するため,ヘイエルダールがペルーから東ポリネシアまでの8,000kmをコンテイキ号で航海した話を皆様もご存知だろう。この筏の材料となったのがバルサ材であるという。
この史実から推察されるように,先住民はバルサ材の特性を活かして筏を造っていた。実は,この「バルサ」はスペイン語で「筏」の意味も持っている。
バルサ材は,軽くて加工しやすく重量に比べ強度が大きいことから,プラスチックやカーボン繊維が発達する以前の20世紀前半には,建築材,映画セット,航空機,船の浮き,サーフボードなどに広く使われた歴史がある。世界一軽い木と言われる。
分類学上は,アオイ目(Malvales)パンヤ科(Bombacaceae)バルサ属(Ochroma)バルサ種(O. lagopus)とされ,一属一種である。生長が早く,樹高10~30m,幹径60~90cmに達する。葉は単葉で幅15~35cm,長さ15~40cmと大きい。花は白く6~8月に開花し,9~10月に結実する(参照:Arvores Brasileiras,Instituto Plantarum de Estudos da Flora Ltda.)。
◆世界で最も軽い木
木材の軽重は比重で示すのが一般的である。自然乾燥させた場合の気乾比重は,例えば,バルサ0.27,キリ0.30,スギ0.38,ヒノキ0.44,カラマツ0.50,ケヤキ0.69,シラカシ0.83,イスノキ0.90,リグナムバイタ1.28などで,1.00以上は水に沈む理屈である。
ただ,気乾比重は測定場所の湿度条件で変わるので,全乾比重(乾燥機で完全に乾燥させた)で比べてみよう。全乾比重の値は,世界で一番軽い木バルサで0.10,日本で一番軽いキリ0.26,日本で一番重いイスノキ0.85,世界で一番重い木はリグナムバイタ1.23だという(参照:日本木材情報センター「木net」)。
残念ながら,中南米を旅してバルサの樹を観た記憶はない。或いは,認識しなかっただけかもしれない。バルサで思い出すのは民芸店での会話だけだ。
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