豆の育種のマメな話

◇北海道と南米大陸に夢を描いた育種家の落穂ひろい「豆の話」
◇伊豆だより ◇恵庭散歩 ◇さすらい考
 

南米における大豆育種,展望

2011-11-03 15:20:39 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

南米の大豆生産はこれまで飛躍的な拡大を続け,経済的にも重要な産業として定着した。世界の大豆需要が増加するなか,広大な耕地を抱える南米は今後も重要な生産地であり続けるだろう。大豆育種研究も引き続き発展が期待される。

多収・安定性,適応性

 ブラジルとアルゼンチンの大豆平均単収の推移をみると,大豆試作期である1960年代は1.2t/ha,導入品種選定期の1970年代は1.5t/ha,育成品種普及期の198090年代は2.0t/ha,不耕起栽培が定着しグリホサート耐性品種が普及し始めた2000年代(GM品種普及期)は2.5t/haに増加している。この増加要因は,品種改良と栽培技術改善の効果である。特に,導入品種から育成品種への転換,低緯度地帯および高緯度地帯へ拡大する大豆栽培に対応した品種開発,病害抵抗性の付与,冬作との輪作を有効にした早播適応性の向上など育種の貢献が大きい。

 

現在,生産現場で3.54.0t/haの単収はめずらしくない。2010年代には各地域に適応する熟期群の品種能力が向上し,平均単収でも3.03.5t/haを超える水準になるだろう。

 

病虫害抵抗性

 茎かいよう病や斑点病が抵抗性品種の開発と導入によって抑制されたように,今後も病害虫抵抗性は育種の重要な柱である。また,1990年代になって発生が確認されたダイズシストセンチュウについては,汚染圃場のモニタリング,レースの判定,抵抗性品種の開発など迅速な対応がとられたが,今後も汚染拡大が懸念されるので継続した対応が求められる。

 

現在,南米ではダイズさび病被害が最も大きく,ブラジルでは2006/07作期の大豆で267,000tの損失があったとされる。各国の研究者はプロジェクトを組み,アメリカ合衆国や日本の研究者も参加して精力的な対応が進んでいるので,成果は近いだろう。

 

食品・加工適性

 ブラジルのEmbrapa大豆研究所で食品・加工用の品種が開発され,アルゼンチンのINTAでも研究が開始された。消費者の間でも大豆の栄養性,機能性に対する興味が高まっているので,進展が期待される分野である。南米各地のスーパーを覗いてみると,何処でも紙パックの豆乳が出回っている。醤油も人気の調味料となり,日本レストランも賑わいを見せている。

 

遺伝子組換え品種

 グリホサート耐性を示す遺伝子組換え大豆(GM品種)が栽培されるようになってから10年が経過した。アルゼンチンでは1976年に導入された後,急速に広まり,現在98%が耐性品種と推定される。パラグアイとブラジルでは導入に対して賛否の議論が長く続き,2004年と2005年になってようやく認可された。しかし,この間も生産者の耐性品種に対する要望は強く,非合法な流入が多く見られた。当初は適応性評価が不十分なため旱魃被害や低収など混乱したが,2000年代後半には各地に適応する品種も増え収量は安定してきた。2007年現在パラグアイでは75%が耐性品種と推定され,ブラジルでも急速に増加している。

 

特に南米では,1戸当りの栽培面積が大きいこと,不耕起栽培が定着したこと,大豆価格高騰に伴い放牧地を畑地化する動きが加速されたことなどから,除草剤耐性は欠かせない特性になってきた。

 

課題

 栽培地帯の拡大:大豆需要の増大・価格高騰の影響を受けて低緯度地帯や高緯度地帯へ栽培地域が拡大したため,適応性の向上と安定性が求められている。また,頻繁に発生する旱魃被害や土壌劣化への対応は今後の課題である。一方,耕作地の急激な拡大については,環境保護の観点から反対意見が高まっている。今後は環境に調和した大豆生産に配慮する必要があろう。

 

 生育障害対策:南米畑作地帯の作付け体系は「大豆(夏作)―小麦(冬作)」が主体で,大豆の作付け頻度が高いため,新病害の発生など病虫害の被害が常に問題となる。近年,農薬の投入量も増加しているので,抵抗性品種の開発は引き続き重要な課題である。同時に,緑肥作物の導入,輪作体系の確立など病害対策に加え,地力保持対策も検討されなければならない。

 

 用途の拡大:南米の大豆は輸出を目的とした大規模な油糧作物として生産されてきた。今後もこの位置づけは変わらないが,貧困層を多く抱える南米諸国にとって,新たに食品・加工用へのアプローチもひとつの課題であろう。

 

 育種体制:種子会社の競争原理に基づく興隆は大変結構なことであるが,民間育種が強い国ほど公的育種無用論が出てくる。しかし,大豆生産が国家を支える重要産業となった南米諸国(BAPB)では,育種研究場面でも国家が果たすべき役割は大きい。パラグアイで大豆育種研究技術協力に携わったとき,いつも「Por qué se realize el mejoramiento de la soja en Paraguay」と投げかけていた。

 

参照:土屋武彦2010「南米におけるダイズ育種の現状と展望」大豆のすべて(分担執筆)サイエンスフォーラムを一部加筆,詳しくは本書をご覧下さい。

  

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 南米における大豆育種は規模... | トップ | 北海道で栽培された緑肥用大... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
京都大学農学部で学生をしている者です。 (友部遼)
2012-03-22 16:57:25
研究者の方々からの指導を頂きつつ、5a程の小規模実験圃場でダイズ多収の研究をしております。

ダイズの安定多収は持続的な食料生産を世界規模で実現する上で、最重要事項に挙げられると考え、
何よりダイズが大好きなことから、ダイズにのめり込みました。
今年は、狭畦密植の実験および、本州の台風多襲来地域向けに多様な病虫害抵抗性を備えた品種の育成を目指し、勉学に励んでおります。

そんな中、世界第二位、三位に名を連ねる二国のある南米、
そして平均反収272を誇る北海道でダイズ育種をされていると伺い、
今過去の記事を読ませて頂いて勉強させて頂いております。

何ぶん座学が多く、圃場見学も日本と中国にしか行った事が無い素人で、
海外の主力産地の現状について学ぶ機会が乏しくなりがちでしたので、
一文一文が新鮮で、非常に勉強になります。

本当に有り難うございます。
今後ともお世話になります。
返信する

コメントを投稿

南米の大豆<豆の育種のマメな話>」カテゴリの最新記事