北海道で緑肥用大豆が栽培されたことがある。優良品種に登録されていたのは,「茶小粒」「早生黒千石」の2品種。いずれも晩生で小粒なため,子実収量は低いが,総体の乾物重は多かった。しかし,その後豆作比率が高まるにつれ,線虫被害が拡大するなどの理由から大豆の緑肥栽培はほとんどなくなった。だが,今後の状況次第で,利用する場面が出てくるかもしれない。
茶小粒:北海道農事試験場本場が収集した在来種で,1926年(大正15)に緑肥用大豆として優良品種に決定し栽培されたが,1984年(昭和59)に優良品種から除かれた。現在,栽培はなく,種子は独立行政法人農業生物資源研究所及び地方独立行政法人北海道総合研究機構等に,遺伝資源として保存されている。
葉形は円葉,花は赤紫色,毛は褐色で,莢は小さく黒褐色,子実は扁球形で,種皮色は褐色,百粒重が7~8gと極小粒である。主茎長は160cm前後と高く,茎葉の繁茂が旺盛で生育収量が多い。極晩生である。「茶小粒」は青刈り飼料用として使用されたこともあったが,ムギなどの間作緑肥として一時かなり普及した。熟期が遅いため,北海道では道南地方でないと採種できない。
早生黒千石:道内の種苗会社が「黒千石」という名前で販売していたものを,北海道農事試験場十勝支場(現,十勝農業試験場)が収集し,1941年(昭和16)暫定優良品種に決定した。栽培実態がなくなったため,1959年(昭和34)に優良品種から除かれた。現在,種子は独立行政法人農業生物資源研究所及び地方独立行政法人北海道総合研究機構等で,遺伝資源として保存されている。
葉形は円葉,花は赤紫色,毛は褐色で,莢は小さく黒褐色,子実は球形で,種皮色は黒くやや光沢があり,百粒重が10~11gと小粒,子葉色(種皮を剥いだ子実の中身,発芽のとき子葉として展開する)は緑である。主茎長は95cm内外と高く,十勝地方で開花期は8月中旬,成熟期は10月中旬となり極晩生である。(参照:北海道における豆類の品種,豆類基金協会)
ところで,最近になって北海道では「黒千石」大豆の栽培がみられ,加工食品の開発,販売が行われている。「黒千石」大豆は,その特性から判断して,上記の「早生黒千石」と同類の品種であろう。
「黒千石」大豆が注目されたのは,北海道大学遺伝子病制御研究所の田中沙智,西村孝司教授等の研究論文が端緒である。2008年に北海道大学遺伝子病制御研究所により免疫を担うリンパ球が刺激されて感染抵抗力やがんへの免疫を高め,アレルギー症状を抑えるインターフェロンγの生成を促す物質が発見された。新たな豆のパワーの発見である。他の黒大豆や豆類に同様の効果が認められる物質は発見されていないという。
また,2007年と2006年に日本食品分析センターが行った機能性成分分析結果では,他の黒大豆よりも「黒千石」のイソフラボンおよびポリフェノールの値が高かった。小粒のため,同量で比較すると黒色子実の表面積が大きく,また子葉の緑であることも関係しているかもしれないが。これを機に,道内各地で「黒千石」大豆への関心が高まり,事業運営母体として設立した黒千石事業協同組合などにより,安定供給が可能な生産体制の整備が進められている。
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