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私の「本づくり」第5話 :「北農」編集発行人となる

2021-12-06 09:37:37 | 恵庭散歩<本のまち、私の本づくり>

私の「本づくり」第5話

「北農」編集発行人となる(公益財団法人北農会2008-2012)

パラグアイから帰国後、公益財団法人北農会で働くことになった(2008年6月~2012年5月、常務理事)。ここでは農業技術誌「北農」の編集発行人として、企画、原稿募集、編集、校正、印刷、発送、会員・広告募集までの一連の業務(本づくり)を担った。

ところで、「北農」とはどんな雑誌なのか? 

◇「北農会」と「北農」の誕生

明治政府は、1869年(明2)北海道に開拓使を置き北海道開拓の第一用務は農業開発であるとした。開拓移住、欧米からの農業技術導入を進めるとともに、本道の気象条件に対応できる農業を確立するためには技術開発が大事であるとの認識で、亀田郡七飯村、上川郡旭川町、札幌郡白石村、十勝国帯広市に順次農事試験場を設け試験研究を推進した。

明治三十年代に入り農事試験場は「報告」「彙報」「時報」の出版物を発行することになった。「報告」は試験成績の学術的発表、「彙報」は試験結果を総合して記述した指導上の指針、「時報」は指導上特に必要と認められる事項の試験結果を平易に記述して農業者に情報提供することを目的にした。

農事試験場では、「試験成績を一番先に届けたいのは農家の圃場である」との意図で、不定期発行の「時報」を市町村役場や農会などにまとめて送り、訪ねてくる農家に持って帰ってもらうようにしていた。しかし、それも心もとなく、有効な配布方法はないかと議論していた折、「成績をまとめた資料は不定期でなく、月刊として速報し、実費で買ってもらう。そうすれば目を通すだろうし、大切にするに違いない」との提案があり、「北農」として発行することになった。

「北農」第1巻第1号は、1934年(昭9)1月1日付けで発行された。戦後まもない1950年(昭25)北海道農事試験場は国立と道立に分離されたが、「北農」は両場の成績を登載して普及に務め、北海道農業の発展に寄与してきた。当初は月刊であったが、現在は年4回発行し、2021年(令3)現在で通巻780号になる。

(安孫子孝次氏と「北農」第1巻第1号)

◇担当した「北農」巻号

編集発行人として関わったのは75巻3号(通巻726号)~79巻3号(通巻742号)の4年間である。農業試験場の研究情報がウエブ情報を含め多様な形で発信される中、本誌の位置づけは難しかったが、研究者自身が正確なデータに基づき執筆した責任ある情報としての価値を第一義とし、北海道農業が進むべき方向性を示す羅針盤のような位置づけになればと考えていた。併せて、読者対応を研究者、農業技術者、生産者だけでなく、実需や消費者との関りが生まれるような試みも模索した。

全国でも珍しい、北海道地域の農業技術誌。地味ではあるが、伝統の重みを感じる冊子である。本誌の編集に携わったことは良い体験だった。

◇「北農」の歴代発行人・編集人

「北農」は、1934年(昭9)創刊時には北海道農事試験場北農会が発行していたが、その後社団法人北農会、財団法人北農会、公益財団法人北農会と体制を変えて現在に至っている。事務所の場所も北海道農事試験場内から、北海道自治会館内、住友海上札幌ビル内、カミヤマビル内、ピア2・1ビルへと移転した。

歴代の「北農」編集発行人の名前を一覧表に示した。

◇「北農」への寄稿

*斎藤正隆・三分一敬・佐々木紘一・酒井真次・土屋武彦(1969):大豆優良品種「キタムスメ」について、北農 36(7)p1-13

*土屋武彦・三分一敬(1970):大豆品種の耐冷安定性の解析(2)大豆主要形質の気象要因に対する反応、北農 37(12)p37-40

*楠 隆・佐々木紘一・酒井真次・土屋武彦(1971):ドイツ連邦共和国における種子植物育種の発展その史的概説野菜類の品種改良と種子増殖および流通[翻訳]、北農 38(12)p40-51

*砂田喜與志・三分一敬・奈良隆・高橋健治・酒井真次・土屋武彦・紙谷元一(1986):大豆育種年限短縮用温室について(1)温室の改築と主要施設、北農 53(6)p1-9

*酒井真次・土屋武彦・砂田喜與志・伊藤武・紙谷元一(1986):大豆育種年限短縮用温室について(2)改築温室における大豆の生育、北農 53(7)p1-7

*伊藤武・佐々木紘一・土屋武彦・紙谷元一・砂田喜與志(1987):畑作物耐冷性検定のための細霧冷房装置について(2)大豆の生育・収量に及ぼす細霧冷房装置の特徴、北農 54(5)p46-53

*土屋武彦・白井和栄・湯本節三・田中義則・冨田謙一(1991):だいず新品種「カリユタカ」、北農 58(4)p74

*川岸康司・土屋武彦・土屋俊雄(1992):夏どりレタスの栽培技術 第1報 品種群による生育特性の差異、北農 59(2)p40-46

*川岸康司・土屋武彦・土屋俊雄(1992):夏どりレタスの栽培技術 第2報 生育・収量に及ぼすペーパーポットの大きさと育苗日数の影響、北農 59(4)p67-71

*湯本節三・土屋武彦・白井和栄・田中義則・冨田謙一(1992):だいず新品種「大袖の舞」、北農 59(4)p86

*土屋武彦(1993):平成4年度主要農作物作況[分担執筆]、北農 60(1)p73-103

*土屋武彦(1993):畑作農業研究21世紀への展望、北農60(4)p4-422

*土屋武彦(1994):平成5年度主要農作物作況 [分担執筆]、北農 61(1)p77-107

*土屋武彦(1995):平成6年度主要農作物作況 [分担執筆]、北農 62(1)p62-92

*土屋武彦(1996):大豆生産と品質北農会第4回フオーラム、北農 63(2)p12-35

*土屋武彦(1997):巻頭言「農業の時代」、北農 64(1)p1

*土屋武彦(1999):北国で花開いた南国大豆の難裂莢性遺伝子コンバイン収穫向き品種誕生までの30年、北農 66(3)p95-97

*黒崎英樹・湯本節三・松川勲・土屋武彦・冨田謙一・白井和栄・田中義則・山崎敬之・鈴木千賀・角田政仁(2002):早熟・複合抵抗性のコンバイン収穫向きだいず新品種「ユキホマレ」、北農 69(1)p30-41

*土屋武彦(2005):パラグアイの農業最近の話題、北農 72(1)p101-106

*土屋武彦(2006):パラグアイ事情、北農 73(3)p277-280

*土屋武彦(2008):編集後記、北農75(3)p268、75(4)p265

*土屋武彦(2008):菊地晃二著「段丘土壌と農業」十勝平野をどう生かすか、北農75(4)p92

*八戸三千男・三分一敬・土屋武彦(2008):身近になった農業試験場、北農75(4)p351-357

*土屋武彦(2009):編集後記、北農76(1)p133、76(2)p270、76(3)p414、76(4)p524

*土屋武彦(2010):編集後記、北農77(1)p129、77(2)p242、77(3)p350、77(4)p462

*土屋武彦(2010):喜多村啓介ほか編集「大豆のすべて」、北農77(2)p232

*土屋武彦(2010):田辺安一著「ブナの林が語り伝えること」プロシア人R・ガルトネル七重村開墾顛末記、北農77(4)p452

*土屋武彦(2011):編集後記、北農78(1)p131、78(2)p244、78(3)p365、78(4)p485

*土屋武彦(2012):編集後記、北農79(1)p135、79(2)p256、79(3)p386

*土屋武彦(2014):「北農」は捨てがたい存在ツールとして使おう、北農81(3)p214-215

なお、「北農」は1934年(昭9)の創刊号から数えて88年、2021年(令3)現在88巻780号となる。既刊号の総目次、全記事DVDは公益財団法人北農会HPで閲覧出来る。

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