◆アルゼンチンGM大豆の導入経緯
アルゼンチンでは,1996年にGM大豆の一般栽培が開始され,その後急速に拡大した。現在では少なくとも98%がGM大豆であると推定されている。同国は,ラテンアメリカの中でGM作物の導入を好意的に進めた国として位置づけられ,GM大豆の普及では米国より先行した。監督官庁は農牧水産省で,農業バイオテクノロジー国家諮問委員会が科学的環境リスク調査を実施,食品の安全性については保健衛生・農業品質管理局のガイドラインに従うことになっている。
2002年INTA Marcos Juarez国立農業技術研究所を訪問したときの情報によれば,「GM大豆の育種は民間との共同研究で進めている。新品種のロイヤリテイは種子1袋(40kg, 15ドル)当り特許所有会社1.8ドル,INTAが1.0ドルとなっている。会社の取り分が高い」とのことであった。しかし,生産者がGM大豆を栽培する際のロイヤリテイ費用については,ヨーロッパの港で陸揚げ時に徴収する提案もなされているが,同国政府との間で同意されていない。また,同研究所のLatanzi場長は「GM大豆の導入により雑草防除費が1ヘクタール当り80ドルから25ドルに減少した。1戸当りの作付面積は拡大したが,農家戸数が減少しており(25%減)社会的問題もある」と指摘した。
◆ブラジルGM大豆の導入経緯
ブラジルはGM大豆導入に慎重な姿勢をとってきた。すなわち,1997年モンサント社が「RR」の販売を申請し,翌年に国家バイオ安全技術委員会が安全性を認めると,消費者団体や環境保護団体が栽培の禁止を求めて提訴し,勝訴した(1998)。以降,GMOを支持する農牧省や生産団体と,反対する環境省,消費者・環境保護団体,零細農家組織,NGO等が対立し,訴訟が繰り返され,政治問題化した。
こうした中,実際にはアルゼンチン及びパラグアイから非合法的にGM大豆が導入され,リオグランデドスル州等では急速に浸透した。結果として膨大なGM大豆の在庫を国内に抱えることになった政府は,やむなく在庫大豆に限って販売を認可,自家採取種子について翌年の生産・販売を限定付きながら認め(2003年,大統領暫定令113号,131号),その後も2004年産種子の利用,2005年産GM大豆の販売認可など,なし崩し的に認可することになる(大統領暫定令223号)。
一方,2005年10月には,GMO非汚染州を標榜するパラナ州が州内へのGM大豆持込を禁止し,最大の輸出港であるパラナグア港への搬入路を閉鎖するなど強行措置をとったことから,連邦法との衝突,隣接州からの訴訟など混乱を生じた。また,パラグアイ産大豆のトラック搬送が阻止されるなど国際問題に発展したのもこの頃である。
2005年11月,ルーラ大統領は8か月の議論の後「バイオセキュリテイ法」にサインし,GMOは合法化された。この国の潜在的な耕作可能面積を考慮すると,GMO解禁が国際競争力を高め,米国を抜き世界最大の大豆生産・輸出国になる可能性がある。
◆パラグアイGM大豆の導入経緯
1997年にアルゼンチンから非合法的に導入され,南部のイタプア県を中心に栽培は急速に拡大した。当初は,低収で旱魃に弱いなど適応性の低さが指摘されたが,新品種の導入が進むにつれ生産も安定してきている。GM大豆栽培の認可を求める農牧省及び生産者と,これに反対する環境省,環境団体,小農組織等が対立して政府の対応は遅れていたが,2001年には試験栽培の認可,2004年になって初めて商業品種登録簿への登録が承認された。
一方,2005年3月には,2004/05年以降生産されるGM大豆の流通段階で1トン当り3.22ドルをロイヤリテイとして支払うことを,大豆生産者団体が特許所有会社と約束した。この額は5月のシカゴ相場に対応して決められるため,2006/07年産では4ドルを超えている。なお,この額の10%をバイオ技術振興のための研究基金とすることも決められ,遅れていた法的環境整備も動き出している。
参照:土屋武彦2008「南米大豆の生産動向とGM大豆」グリーンテクノ情報4(2) 53-58
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