元号が改まった2019年5月の或る日、伊豆の田舎を訪れた。墓参と生家の周りの草刈りなど家の管理が目的である。築66年目の家屋は中学・高校時代を過ごした思い出の建物であるが、両親が亡くなってから既に10年以上が経ちだいぶ傷んでいる。山で育てた檜や杉材を選んで切り出し、畜舎には硬い椎材を使い、家具も特別に設えるなど先祖のこだわりを考えると、そろそろ何とかしようと思うが取り壊すにしても決心がつかず管理を続けている。
集落は高齢化が進み、空き家となった家が多い。昭和の時代には、自分で石垣を積み造成した棚田に稲穂が揺れ、里山も手入れが行き届き、子供らの遊ぶ声が賑やかであったが、今は村人に会うことも少なく、鶯の声だけが谷間に大きく響いている。耕作を止めた水田には茅が繁茂している。栗や蜜柑の樹も枯れ始めている。
裏山から毎夜のごとく数頭のイノシシが出てくるため、山肌は崩れ獣道が形成される。イノシシは野草の球根を掘り、栗の実を漁り、水溜まりで泥んこになって水浴する。そのためか、子供の頃至る所で見かけたはヤマユリを、今は見ることもない。人間の減少に反比例するように、イノシシ、シカ、サルなど野生動物が増えているのだ。この場所で農業を営むには電柵や金網を張り巡らし獣の食害を守るしか術がないが、大変なことになったものだ。
イノシシが夜な夜な出てきて遊んだ痕跡は、生家を訪れる度に見ていたので別段驚くこともなかったが、今回は玄関先にまとまった糞を見つけた。野兎? 鹿? と周囲を見渡すと、柊(ひいらぎ)など庭木の若芽が食べられている。鹿の食害に間違いあるまいと写真を撮った。
野生鳥獣の農作物被害状況については、農林水産省が都道府県の調査を集計して公表している。平成29年度農産物被害は総額で164億円、内訳はシカ55億円、イノシシ48億円、サル9億円となっている。被害総額は平成22年度の240億円をピークに減少傾向にある。平成14年の「鳥獣の保護管理並びに狩猟の適正化に関する法律」施行や各都道府県の鳥獣被害対策が功を奏しているのだろう(耕地面積自体の減少も考えられる)。それにしても莫大な被害だ。因みに、静岡県の農産物被害は総額で3億2千万円(平成29年度)、中でもイノシシの被害が多い。
また、野生鳥獣による森林被害も問題となっている。森林被害面積は6,000haを越え、シカによる被害が全体の3/4を占めるという。行き届かなくなった山林管理の結果でもあると言えようか。
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