豆の育種のマメな話

◇北海道と南米大陸に夢を描いた育種家の落穂ひろい「豆の話」
◇伊豆だより ◇恵庭散歩 ◇さすらい考
 

カリンバ遺跡のトクサ、恵庭の花-32

2022-06-13 18:03:27 | 恵庭散歩<花のまち、花だより、自然観察>

「砥草」スギナの近縁種

恵庭公園(恵庭市駒場)の谷で湧出したユカンボシ川に沿って下り、恵南柏木通りに面する辺り(公園東端)の窪みにトクサの群落が見られる。かつて仲間と一緒に「歩こう会」と称して散策していた折に、北海道で初めてトクサ群落に出会った場所。その後しばらくはトクサの群生を見かけなかったが、今春(2022年)カリンバ遺跡保護地を訪れた際トクサの群生を見た(写真、道路から観察できる)。

 (左:カリンバ遺跡のトクサ)

トクサは日本庭園で鑑賞用に植えられることもあるが、石炭紀(およそ3憶5千万年前)から存在する太古のシダ植物と言われる。石炭紀の大気は酸素の濃度が高かったため稲妻などによる野火のリスクは現在よりもはるかに高く、トクサは耐火性のケイ酸を蓄積することで野火から生き延びるよう進化したと考えられているそうだ。縄文人やアイヌの人々が道具や装飾品を磨くのにトクサを使っていたとも考えられる。カリンバのトクサは約3,000年前から代を経て綿々と生き延びて来たのだろうか。

地下茎から枝分かれせず真っすぐ伸びる茎は、太さ6mmほどで中空だが高さは1mにもなる。茎の表面には60本近い溝が縦に走り、表面はザラつき、これが砥石代わりになるため「砥草」と命名されたと言われる。また、「歯磨草」との別名もある(歯磨に使ったのだろう)。アイヌ語ではトクサを「シプシプ」と呼ぶが、これも物を磨く際の擬態語に由来。英名のScouring rush(磨き草)も語源は同じである。

 

子供の頃、生家の水場近くにトクサが植えられていた。祖父が「この草はサビ落としに使う」と教えてくれたので、錆びたナイフを擦ってみたら綺麗になった。紙やすりの代用なのだと納得した少年時の記憶を思い出す。茎を引っ張ると、節の部分からスッポリ抜けるのが面白く遊んだこともあった。

トクサが砥石代わりになるのは、茎の表皮細胞壁にプラントオパール*と呼ばれるケイ酸(シリカ)が含まれているため。生のままでも植木鋏や爪を研ぐことに使えるが、秋に刈り取ったトクサを煮て乾燥したものは紙やすりのように柔らかくて使いやすくなる。現代でも弓矢の仕上げ、高級柘植櫛や漆器の仕上げ工程で使われているそうだ。

俳句の世界で「トクサ(木賊)刈る」が秋の季語。高浜虚子は「谷水を踏まへて刈りし木賊かな」「木賊皆刈られて水の行方かな」「木賊刈る翁に飛べり黒蜻蛉」と詠んでいる。この事からも、生活の中にトクサを刈る風習が根づいていたと思われる。研磨剤のほかに生薬としても利用された。

*プラントオパール:遺跡調査で植生環境を推定する手段として利用される。

(上:恵庭公園のトクサ)

◆トクサ(砥草、木賊、学名:Equisetum hyemale

シダの仲間、トクサ科トクサ属。北半球の温帯地域に分布。日本では北海道から本州中部にかけての山間の湿地に自生する。

地下茎が横に伸び、地上茎を直立させる。茎は触るとザラついた感じがし、引っ張ると節で抜ける。節の部分にあるギザギザは退化した鞘状の葉。6~8月頃になると茎の先端にツクシの頭部のような胞子葉群(胞子嚢穂、長さ1cmほどの楕円形で緑色から黄色に変わる)をつけ、ここに胞子ができる。日本庭園ではよく植えられるが、スギナ(ツクシ)の近縁種で繁茂しやすいためスギナ同様に厄介な雑草となる(参照:植木ぺデイアほか)。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする