今まで紹介した記念碑の範疇から外れるが,本項では開拓時以来ずっと信仰の対象であった石仏,地蔵尊について述べる。
「地蔵」は菩薩の一つで,「大地が全ての命を育む力を蔵するように,苦悩する人々を大慈悲の心で救済する」との意で名付けられたとされる。この「地蔵菩薩」は最も弱い立場の人々を最優先で救済する菩薩であるとされ,絶大な信仰の対象となってきた。
日本における民間信仰では,「道祖神」としての性格を持つと共に,子供の守り神として信奉されてきた。一般的には,親しみを込めて「お地蔵さん」と呼ばれるように,各地の路傍に数多く祀られている(歴史が浅い北海道は少ない)。そして,地蔵には「寒かろう」と帽子を被せたり,前垂れを着せたりなど,身近な信仰対象になっている。恵庭では,島松沢と中恵庭に地蔵尊があるが,両地区とも古道の要所であることから,道祖神の意味合いが有ったのかもしれない。
なお,六地蔵は仏教の六道輪廻(地獄道,餓鬼道,畜生道,修羅道,人道,天道)の思想に基づくもので,六道のそれぞれを6種の地蔵が救う(或いは,地蔵菩薩は六道全てに隔てなく慈悲を注ぐ)とする説から生まれたものである。旅立つ迷える集生(餓鬼)を救済するために,六地蔵は墓地の入り口などに祀られる場合が多い。恵庭でも,寺院の入り口に六地蔵が祀られている例がある(特に禅寺)。
更に近年,交通事故が多発するようになると,被害者の供養鎮魂と交通安全を祈願して「交通安全地蔵」が建立されるようになった。
1.鈴木家の「地蔵」(昭和35年4月建立,恵庭市島松沢)
2.山神(昭和28年7月12日建立,恵庭市島松沢)
3.六地蔵(昭和4年建立,昭和26・平成9年移転改修,恵庭市上山口)
4.広隆寺「八十八か所地蔵」(恵庭市文京町「広隆寺」内)
5.大安寺「六地蔵」(恵庭市大町町「大安寺」内)
6.龍仙寺「六地蔵」(恵庭市有明町「龍仙寺」内)
7.交通安全地蔵(昭和32年4月建立,恵庭市島松沢)
8.交通安全守護地蔵尊(昭和33年建立,平成20年7月改築,恵庭市和光町)
9.交通安全の碑(恵庭市上山口)
1.鈴木家の「地蔵」(昭和35年4月27日建立,恵庭市島松沢)
国道36号線から島松沢に下った左手に,「交通安全地蔵」「馬頭観音」「山神」と並んで祀られている(写真は2014.12.14撮影)。台石に「鈴木」と彫られているので,鈴木家が祀ったものであろう。
2.山神(昭和28年7月12日建立,恵庭市島松沢)
国道36号線から島松沢に下った左手に,「交通安全地蔵」「馬頭観音」等と並んで祀られている(写真は2013.10.19,2014.12.1.4撮影)。「山神」は地蔵とは異なるが,本項に含めた。
「山神」とは本来山に宿る神の総称であり,山で働く人々にとっては守護神,里で働く農民にとっては「田神」であり祖霊としても祀られてきた。また,炭鉱などでも安全祈願の対象として祀られていた。この島松沢では,大正時代から「島松軟石」の切り出しが行われていたので,山で働く人々が安全祈願を込めて建立したと伝えられている。
3.六地蔵(昭和4年建立,昭和26・平成9年移転改修,恵庭市上山口)
漁川に沿って走る「川沿大通り」は,中恵庭地区で道道600号島松千歳線と交差する。信号のある交差点の角に「六地蔵」が祀られている(写真は2014.12.4,12.12撮影)。かつて,子供を亡くした親が供養のため一体の地蔵を祀ったのが始まりだと言う。やがてその思いは周囲の人々に広がり,日々の暮らしの安寧と五穀豊穣を願って,昭和4年(1929)に六地蔵を祀り,中恵庭町内会の人々は毎年8月24日に祭礼を行っている。
御堂の壁には,改築の沿革が記されている。即ち,「没(沿の間違い)革,この地蔵尊は,昭和四年に先人達が,厳しい開拓時代を経て農業基礎も経済状態も安定してきたことから,婦人たちを含めた地域の皆さん方によって,概ね恵庭神社管内に居住する人々の守護尊として,五穀豊穣,家内安全などを願って浄財募り労力奉仕などによって建立されたものですが,その後,昭和二十六年に天災によって尊舎が破壊し,全面道路の南側五十米程離れていたものを,この地に移転復元したものです。建立以来,毎年八月二十四日を祭礼日と決め,戦前は全地域によって盛会な例祭が行われていたのですが,戦後は中恵庭町内会が継承して参りましたが,近年に至り建立爾来六十八年余を経た堂舎は腐食,破損も甚だしく,改修についての意向が高まり,町内会の総意によって寄付を募り改築することになり,株式会社宮崎組の施工によって完成したものであります。平成九年七月,中恵庭町内会,改築世話人水野信弘ら11名」「なお建立当初の記録が改築前の堂壁に縁辺額に掲載されていたが,永い間,風に漂されて文字が消滅して読みとることが出来ず判明したもののみ謄写します。(以下,発起人,施工,寄進人氏名,解読できないもの世話人名などが記載されている)」とある。また,別面の堂壁には地蔵尊堂寄付金者芳名が記されている。
4.広隆寺「八十八か所地蔵」(恵庭市文京町「広隆寺」内)
恵庭市文京町4丁目,高野山真言宗弘隆寺がある。金毘羅大権現(弘法大師・波切不動明王)を本尊とする寺院である。八十八か所地蔵尊が四列に並び祀られている(写真は2014.12.5撮影)。
5.大安寺「六地蔵」(恵庭市大町町「大安寺」内)
恵庭市大町町4丁目,曹洞宗永平寺派天瑞山大安寺の山門を抜けた左手に,「六地蔵」ほかいくつかの地蔵が祀られている(写真は2014.12.5撮影)。
6.龍仙寺「六地蔵」(恵庭市有明町「龍仙寺」内)
恵庭市有明町3丁目,柏木戸磯通りに面した龍仙寺境内に「六地蔵」が祀られている(写真は2014.12.10撮影)。柏木戸磯通りから良く見えるので,ご存知の方も多いだろう。雪が降った翌日に訪れたら,地蔵はすっかり防寒姿であった。
7.「交通安全地蔵」(昭和32年4月20日建立,恵庭市島松沢)
国道36号線から島松沢に下った左手に,「馬頭観音」「山神」「地蔵」と並んで祀られている(写真は2014.12.14撮影)。台石正面には「献納,昭和三十二年四月二十日建立」と刻まれ,両サイドには発起人と賛助者の氏名が彫られている。
8.交通安全守護地蔵尊(昭和33年建立,平成20年7月改築,恵庭市和光町)
恵庭市和光町1丁目,旧国道36号線に面して「交通安全守護地蔵尊」が祀られている(写真は2014.12.14撮影)。傍らの碑石に建立の由来が書かれているので転記する。
「地蔵尊建立の由来,昭和二十八年札幌千歳間国道三十六号線通称弾丸道路が完全舗装となり,交通量の増大と共に交通事故も激増しました。特に国道とユカンボシ川の交差付近では短期間に十数名の悲惨な死亡事故が発生し地域住民に衝撃を与え,死者の鎮魂と交通事故の根絶を願い地蔵尊の建立を計画しました。当時の小磯本通農事実行組合の有志が発起人となり,後援恵庭町,恵庭交通安全協会,協賛近郊住民一同,札幌千歳間沿線企業,個人多数の浄財と関係者のご奉仕により,昭和三十三年完成したものであります。以来五十年地蔵尊は交通安全運動の象徴として交通事故防止を願いご鎮座されています。平成二十年七月吉日,交通安全守護地蔵尊護持会」
なお,裏面には五十周年事業に関わった役員氏名が記されている。
9.交通安全の碑(恵庭市上山口)
国道36号線から,天融寺脇の「川沿大通り」を少し入った所に「交通安全の碑」が建っている。道路がカーブし,交通事故発生の恐れが危惧されるような場所だ。交通安全を願う碑である。
お地蔵さんの写真を撮りながらふと思った,「路傍の地蔵に手を合わせ,花を手向ける慣習が,今の日本に残っているだろうか」と。そう言えば,海外の旅の途中で,教会や墓地の前を通るとき運転手は必ず十字を切っていた・・・。