マドリードではプリンシペ・ピオ(Principe Pio)駅前のホテルに滞在したので,高台の王宮(Palacio Real)へは,カンポ・デル・モーロ庭園を回り込むようにして,アルムデーナ大聖堂への坂を上った。王宮はこの大聖堂と向かい合い,アルマス広場(Plaza de Armas)を抱え込むように立っている。フランスのルーブル宮殿か,イタリア風というべきか,外観は明るくしかも重量感がある。王宮の東側にはオリエンテ広場(Plaza de Oriente)と王立劇場(Teatro Real),北側にはサバテイーニ庭園がある。
この場所はもともと回教徒が築いた城砦で,その後幾度か改修されるが,フェリペ二世は贅沢を好まず手直しをして使っていた。ブルボン王朝の出で初代国王となるフェリペ5世(ルイ十四世の孫)は,焼失した王宮跡にベルサイユの宮殿と庭を意識し,イタリアから建築家を呼び寄せて造らせたのが現在の王宮である。王宮は簡素なものでよいとしていたスペイン王室の伝統は,ここに覆ったのだという。なお,現在のフアンカルロス一世と王族はこの王宮には住まず郊外の宮殿に暮らしている。ただ,国の公式行事は今もこの王宮で行われる。
行事がないときは一部の部屋が一般公開されるということで,見学した(ガイド付きのグループ見学)。建物内部の写真撮影は禁止されているので紹介出来ないのが残念であるが,外部からは想像できない豪華絢爛さに驚く。収集した美術品や家具,天井や壁など荘厳な装飾は目を見張るばかりである。
王宮正面玄関を入って右側のサバテイーニが作った豪華な階段を上る。ECの加盟調印が行われた「列柱の間」,豪華な赤いビロードと銀糸で覆われた「玉座の間」,ゴージャスなシャンデリアやタペトリーが印象的な「饗宴の間」,磁器で飾られた「磁器の間」,ベルサイユ宮殿を真似て大きな鏡で飾られた「鏡の間」,ゴヤの絵が掛かったカルロス三世の居室「ガスパリーニの間」,美術品を集めた「東洋の間」など,王室の歴史に触れることができるだろう。150m四方の建物の中に2,700もの部屋があると聞いたが,これが権勢を誇り,中南米の大半を占有したことがあるスペイン王国の宮殿というものなのだろう。
左袖の建物にある王宮薬剤局(昔の調剤道具,処方箋などの展示した博物館)を見学し,サバテイーニ庭園からサン・ビセンテ坂を下った。ちなみに,サン・ビセンテ坂を反対側に進み高架橋をくぐれば,ドンキホーテの騎馬像が立つスペイン広場に出る。