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財団法人北農会, 「北農」発刊と「安孫子賞」「北農賞」表彰

2011-12-22 13:57:23 | 恵庭散歩<本のまち、私の本づくり>

北海道に「財団法人北農会」という小さな団体があるhttp://www9.ocn.ne.jp/~hokunou/)。

それほど名前が知られていないが,長い間の地味な仕事と実績で,北海道の農業関係者に高く評価されている。その歩みを振り返ってみよう。

北農会は,1934年(昭9)「北海道農事試験場北農会」として設立された。その後,1944年(昭19)に「社団法人北農会」,1966年(昭41)には「財団法人北農会」となり今日に至る。さらに時代の要請を受け,20126月公益財団法人としての認可を受け,新たな活動を開始した。

 

◆「北農会」と「北農」の誕生:明治政府は,1869年(明2)北海道に開拓使を置き北海道開拓の第一用務は農業開発であるとした。開拓移住,欧米からの農業技術導入を進めるとともに,本道の気象条件に対応できる農業を確立するためには技術開発が大事であるとの認識で,亀田郡七飯村,上川郡旭川町,札幌郡白石村,十勝国帯広市などに順次農事試験場を設け試験研究を推進した。

明治三十年代に入り農事試験場は「報告」「彙報」「時報」の出版物を発行することになった。「報告」は試験成績の学術的発表,「彙報」は試験結果を総合して記述した指導上の指針,「時報」は指導上特に必要と認められる事項の試験結果を平易に記述して農業者に情報提供することを目的にした。

 

農事試験場では,「試験成績を一番先に届けたいのは農家の圃場である」との意図で,不定期発行の「時報」を市町村役場や農会などにまとめて送り,訪ねてくる農家に持って帰ってもらうようにしていた。しかし,それも心もとなく,有効な配布方法はないかと議論していた折,「成績をまとめた資料は不定期でなく,月刊として速報し,実費で買ってもらう。そうすれば目を通すだろうし,大切にするに違いない」との提案があり,「北農」として発行することになった。

 

「北農」第1巻第1号は,1934年(昭911日付けで発行された。それまで試験場が発行する普及向きの印刷物「時報」には試験担当者の氏名がなかったが,「北農」では担当者名を記すことになり,これにより生産現場と研究者の間が近づいたという。戦後まもない1950年(昭25)北海道農事試験場は国立と道立に分離されたが,「北農」は両場の成績を登載して北海道農業の発展に寄与してきた。2012年(平241月発刊で「北農」は通巻740号になる。北農会の事業として現在も続いている。

 

「北農賞」の誕生1940年(昭15),安孫子孝次場長は退任し,北農会会長も交代した。浦上啓太郎新会長は,前会長に対し北農会から記念品代にと金一封を贈呈した。安孫子前会長は北農会の台所事情も分かっていたので,それをそっくり北農会の発展のために役立てて欲しいと寄付された。浦上会長は,これを基金として,若い研究員を対象に「北農」掲載論文の中から営農に寄与したと認められる論文を表彰する制度を発足させたいと考え,1110日紀元二千六百年奉祝式典に農事試験場を代表して出席した場長は,その日桑山覺幹事長に北農賞受賞規定の起草を命じた。127日に授賞規定が決済され,1228日玉山豊ら審査委員6名を委嘱,翌年124日審査委員会,32日には「第1回北農賞」の授与式を行った。東京朝日新聞北海道版に「初の北農賞-農試が劃期的の壮挙」と題し,受賞者石井誠夫,加藤静夫両氏の事績と写真が掲載されている。

回を重ね,北農賞は平成23年で第72回を数える。第72回の表彰は,論文部門で松本直幸氏,品種育成部門で水稲「ゆめぴりか」育成グループ,技能部門で平直樹氏が授賞された。

 

「安孫子賞」の誕生:安孫子場長は試験場を退任後も,道農会(農業会)会長として北海道農業の発展に尽力され,誰云うとなく「農民の父」と称えられた。その後,道農会で安孫子会長の指導と薫陶を受けた人々の発起により,「安孫子さんの名で北海道農業に献身されている人々をねぎらい,励ましたい」と,1960年(昭35)財団法人安孫子顕彰会を設立,「安孫子賞」が創設された。第1回安孫子賞の栄誉に輝いたのは,松井清行,松岡儀男,松尾栄の三氏。顕彰会は1980年(昭55)に解散し事業は北農会に委譲され,平成6-8年には協賛会からの寄託を受け「安孫子賞・北農賞表彰事業特別基金」創設,現在に至る。安孫子賞創設から52年,平成23年には菊地 博,二弊 昭,村上寛貢さんの三氏が授賞された。先人の熱い思いは連綿と引き継がれている。

 

参照:土屋武彦 2011「編集後記北農(第79巻第1号)に加筆。

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