竹取翁と万葉集のお勉強

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後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻十七

2020年10月04日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
止遠末利奈々末幾仁安多留未幾
巻十七

久左久左乃宇多美川
雑歌三

歌番号一一九五
伊曽乃加美止以不天良尓満宇天々比乃久礼尓个礼者
与安个天満可利可部良武止天止々末利天己乃
天良尓部无世宇者部利止飛止乃徒遣者部利个礼者
毛乃以比己々呂三武止天以比者部利个留
伊曽乃神止以不天良尓満宇天々日乃久礼尓个礼者
夜安个天満可利可部良武止天止々末利天己乃
寺尓遍昭侍利止人乃徒遣侍个礼者
毛乃以比心見武止天以比侍个留
石の上といふ寺に詣でて日の暮れにければ、
夜明けてまかり帰らむとてとどまりて、この
寺に遍昭侍りと人の告げ侍りければ
物言ひ心見むとて言ひ侍りける

遠乃々己万知
小野小町
小野小町

原文 以者乃宇部尓多比祢遠寸礼者以止左武之己个乃己呂毛遠和礼尓加左奈无
定家 以者乃宇部尓旅祢遠寸礼者以止左武之苔乃衣遠我尓加左奈无
和歌 いはのうへに たひねをすれは いとさむし こけのころもを われにかさなむ
解釈 岩の上に旅寝をすればいと寒し苔の衣を我に貸さなん

歌番号一一九六
加部之 
返之 
返し

部无世宇
遍昭
遍昭

原文 与遠曽武久己个乃己呂毛者堂々比止部加左祢者宇止之以左布多利祢无
定家 世遠曽武久苔乃衣者堂々比止部加左祢者宇止之以左布多利祢无
和歌 よをそむく こけのころもは たたひとへ かさねはうとし いさふたりねむ
解釈 世を背く苔の衣はただ一重貸さねば疎しいざ二人寝ん

歌番号一一九七
保武己宇加部利美多末飛个留遠乃知/\者止幾於止呂部天
安利之也宇尓毛安良寸奈利尓个礼八佐止尓乃美
者部利天多天万川良世个留
法皇加部利見多末飛个留遠乃知/\者時於止呂部天
有之也宇尓毛安良寸奈利尓个礼八佐止尓乃美
侍天多天万川良世个留
法皇かへり見たまひけるを、後々は時衰へて
有りしやうにもあらずなりにければ、里にのみ
侍りてたてまつらせける

世可為乃幾美
世可為乃幾美
せかゐのきみ(清和院君)

原文 安不己止乃止之幾利志奴留奈个木尓八美乃加寸奈良奴毛乃尓曽安利个留
定家 逢事乃年幾利志奴留奈个木尓八身乃加寸奈良奴物尓曽有个留
和歌 あふことの としきりしぬる なけきには みのかすならぬ ものにそありける
解釈 逢ふ事の年ぎりしぬるなげ木には身の数ならぬ物にぞ有りける

歌番号一一九八
於无奈乃毛止与利安多尓幾己由留己止奈止以日天者部利个礼八
女乃毛止与利安多尓幾己由留己止奈止以日天侍个礼八
女のもとよりあだに聞こゆることなど言ひて侍りければ

比多利乃於本以万宇知幾三
左大臣
左大臣

原文 安多飛止毛奈幾尓八安良寸安利奈可良和可三尓八満多幾々曽奈良八奴
定家 安多人毛奈幾尓八安良寸有奈可良和可身尓八満多幾々曽奈良八奴
和歌 あたひとも なきにはあらす ありなから わかみにはまた ききそならはぬ
解釈 あだ人もなきにはあらず有りながら我が身にはまだ聞きぞならはぬ

歌番号一一九九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 美也飛止止奈良万本之幾遠美奈部之乃部与利幾利乃多知以天々曽久留
定家 宮人止奈良万本之幾遠女郎花乃部与利幾利乃多知以天々曽久留
和歌 みやひとと ならまほしきを をみなへし のへよりきりの たちいててそくる
解釈 宮人とならまほしきを女郎花野辺より霧の立ち出でてぞ来る

歌番号一二〇〇
加之己満留己止者部利天佐止尓者部利个留遠志乃比天
佐宇之尓万以礼利个留遠於本以万宇知幾三乃
奈止可遠止毛世奴奈止宇良美者部利个礼八
加之己満留事侍天佐止尓侍个留遠志乃比天
佐宇之尓万以礼利个留遠於本以万宇知幾三乃
奈止可遠止毛世奴奈止宇良美侍个礼八
かしこまる事侍りて里に侍りけるを、忍びて
曹司に参れりけるを、大臣の
などか、音もせぬなど恨み侍りければ

多以布 
多以布 
大輔

原文 和可美尓毛安良奴和可美乃加奈之幾尓己々呂毛己止仁奈利也志尓个无
定家 和可身尓毛安良奴和可身乃悲幾尓心毛己止仁成也志尓个无
和歌 わかみにも あらぬわかみの かなしきに こころもことに なりやしにけむ
解釈 我が身にもあらぬ我が身の悲しきに心もことになりやしにけん

歌番号一二〇一
飛止乃武寸女尓奈多知者部利天
人乃武寸女尓名多知侍天
人の女に名立ち侍りて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 与乃奈可遠志良寸奈可良毛川乃久尓乃奈尓八多知奴留毛乃尓曽安利个留
定家 世中遠志良寸奈可良毛川乃久尓乃奈尓八立奴留物尓曽有个留
和歌 よのなかを しらすなからも つのくにの なにはたちぬる ものにそありける
解釈 世中を知らずながらも津の国の名には立ちぬる物にぞ有りける

歌番号一二〇二
奈幾奈多知者部利个留己呂
奈幾奈多知侍个留己呂
なき名立たち侍りけるころ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 世止々毛尓和可奴礼幾奴止奈留毛乃八和不留奈美多乃幾寸留奈利个利
定家 世止々毛尓和可奴礼幾奴止奈留物八和不留涙乃幾寸留奈利个利
和歌 よとともに わかぬれきぬと なるものは わふるなみたの きするなりけり
解釈 世とともに我が濡衣となる物はわぶる涙の着するなりけり

歌番号一二〇三
左幾乃保宇於者之満左寸奈利天乃己呂己世知乃曽従
乃毛止尓川可八之个留
前坊於者之満左寸奈利天乃己呂五節乃師
乃毛止尓川可八之个留
前坊おはしまさずなりてのころ、五節の師
の許につかはしける

多以布 
多以布 
大輔

原文 宇遣礼止毛加奈之幾毛乃遠比多不留尓和礼遠也飛止乃於毛比寸川良无
定家 宇遣礼止毛悲幾物遠比多不留尓我遠也人乃思寸川良无
和歌 うけれとも かなしきものを ひたふるに われをやひとの おもひすつらむ
解釈 憂けれども悲しきものをひたぶるに我をや人の思ひ捨つらん

歌番号一二〇四
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 加奈之幾毛宇幾毛志利尓之比止川奈遠多礼遠和久止可於毛比寸川部幾
定家 悲幾毛宇幾毛志利尓之比止川名遠多礼遠和久止可思寸川部幾
和歌 かなしきも うきもしりにし ひとつなを たれをわくとか おもひすつへき
解釈 悲しきも憂きも知りにし一つ名を誰れを分くとか思ひ捨つべき

歌番号一二〇五
多以布可佐宇之尓安徒多々乃安曾无乃毛止部徒可八
之个留布美遠毛天多可部多利个礼八川可八之个留
大輔可佐宇之尓安徒多々乃朝臣乃毛止部徒可八
之个留布美遠毛天多可部多利个礼八川可八之个留
大輔が曹司に、敦忠朝臣のもとへつかは
しける文を持て違へたりければ、つかはしける

多以布 
多以布 
大輔

原文 三知志良奴毛乃奈良奈久尓安之比幾乃也末布三万与不飛止毛安利个利
定家 道志良奴物奈良奈久尓安之比幾乃山布三迷人毛安利个利
和歌 みちしらぬ ものならなくに あしひきの やまふみまよふ ひともありけり
解釈 道知らぬ物ならなくにあしひきの山踏みまどふ人もありけり

歌番号一二〇六
加部之 
返之 
返し

安徒多々乃安曾无
敦忠朝臣
敦忠朝臣(藤原敦忠)

原文 志良可之乃由幾毛幾衣尓之安之比幾乃也末知遠多礼可布三万与不部幾
定家 志良可之乃雪毛幾衣尓之葦引乃山地遠誰可布三迷部幾
和歌 しらかしの ゆきもきえにし あしひきの やまちをたれか ふみまよふへき
解釈 白橿の雪も消えにしあしひきの山路を誰れか踏みまどふべき

歌番号一二〇七
以飛知起利天乃知己止飛止尓川幾奴止幾々天
以飛知起利天乃知己止人尓川幾奴止幾々天
言ひ契りて後、異人につきぬと聞きて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 伊不己止乃堂可八奴毛乃尓安良万世八乃知宇幾己止々幾己江左良末之
定家 伊不事乃堂可八奴物尓安良万世八後宇幾事止幾己江左良末之
和歌 いふことの たかはぬものに あらませは のちうきことと きこえさらまし
解釈 言ふ事の違はぬ物にあらませば後憂き事と聞こえざらまし

歌番号一二〇八
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

以世
伊勢
伊勢

原文 於毛加个遠安飛三之加寸尓奈春止幾者己々呂乃美己曽志川女良礼个連
定家 於毛影遠安飛見之加寸尓奈春時者心乃美己曽志川女良礼个連
和歌 おもかけを あひみしかすに なすときは こころのみこそ しつめられけれ
解釈 面影を逢ひ見し数になす時は心のみこそ静められけれ

歌番号一二〇九
加之良志呂加利个留於无奈遠三天
加之良志呂加利个留女遠見天
頭白かりける女を見て

以世
伊勢
伊勢

原文 奴幾止女奴加美乃寸知毛天安也之久毛部尓个留止之乃加寸遠之留可那
定家 奴幾止女奴加美乃寸知毛天安也之久毛部尓个留年乃加寸遠之留可那
和歌 ぬきとめぬ かみのすちもて あやしくも へにけるとしの かすをしるかな
解釈 抜きとめぬ髪の筋もてあやしくも経にける年の数を知るかな

歌番号一二一〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 奈美加寸尓安良奴三奈礼八寸美与之乃幾之尓毛与良寸奈利也者天奈无
定家 浪加寸尓安良奴身奈礼八住吉乃岸尓毛与良寸奈利也者天奈无
和歌 なみかすに あらぬみなれは すみよしの きしにもよらす なりやはてなむ
解釈 浪数にあらぬ身なれば住吉の岸にも寄らずなりや果てなん

歌番号一二一一
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 徒幾毛世寸宇幾己止乃者乃於本可留遠者也久安良之乃加世毛布可奈无
定家 徒幾毛世寸宇幾事乃者乃於本可留遠者也久嵐乃風毛布可奈无
和歌 つきもせす うきことのはの おほかるを はやくあらしの かせもふかなむ
解釈 つきもせず憂き言の端の多かるを早く嵐の風も吹かなん

歌番号一二一二
以止志乃比天加多良比个留於无奈乃毛止尓川可八志个留
布美遠己々呂尓毛安良天於止之多利个留遠三川个天
徒可者之个留
以止志乃比天加多良比个留女乃毛止尓川可八志个留
布美遠心尓毛安良天於止之多利个留遠見川个天
徒可者之个留
いと忍びて語らひける女の許につかはしける
文を、心にもあらで落したりけるを見つけて
つかはしける

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 之末加久礼安利曽尓加与不安之多川乃布美遠久安止八奈美毛个多奈无
定家 嶋加久礼有曽尓加与不安之多川乃布美遠久跡八浪毛个多奈无
和歌 しまかくれ ありそにかよふ あしたつの ふみおくあとは なみもけたなむ
解釈 島隠れ有磯に通ふ葦田鶴の踏み置く跡は浪も消たなん

歌番号一二一三
武可之於奈之止己呂尓美也川可部之个留飛止止之己呂
以可尓曽奈止々比遠己世天者部利个礼八川可者之个留
武可之於奈之所尓美也川可部之个留人年己呂
以可尓曽奈止々比遠己世天侍个礼八川可者之个留
昔同じ所に宮仕へしける人、年ごろ、
いかにぞ、など問ひおこせて侍りければ、つかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 三者々也久奈幾毛乃々己止奈利尓之遠幾衣世奴毛乃八己々呂奈利个利
定家 身者々也久奈幾物乃己止成尓之遠幾衣世奴物八心奈利个利
和歌 みははやく なきもののこと なりにしを きえせぬものは こころなりけり
解釈 身は早くなき物のごとなりにしを消えせぬ物は心なりけり

歌番号一二一四
者良可良乃奈可尓以可奈留己止可安利个无川祢奈良奴
左万尓三衣者部利个礼八
者良可良乃奈可尓以可奈留事可安利个无川祢奈良奴
左万尓見衣侍个礼八
はらからの中に、いかなる事かありけん、常ならぬ
さまに見え侍りければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 武徒万之幾以毛世乃也末乃奈可尓佐部々多川留久毛乃者礼寸毛安留可奈
定家 武徒万之幾以毛世乃山乃中尓佐部々多川留雲乃者礼寸毛安留哉
和歌 むつましき いもせのやまの なかにさへ へたつるくもの はれすもあるかな
解釈 むつましき妹背の山の中にさへ隔つる雲の晴れずもあるかな

歌番号一二一五
於无奈乃以止久良部可多久者部利个留遠安比者奈礼
尓計累可己止飛止尓武可部良礼奴止幾々天
越止己乃川可者之个留
女乃以止久良部可多久侍个留遠安比者奈礼
尓計累可己止人尓武可部良礼奴止幾々天
越止己乃川可者之个留
女のいと比べがたく侍りけるを、あひ離れ
にけるが異人に迎へられぬと聞きて
男のつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 和可多女尓遠幾尓久加利之者之多可乃飛止乃天尓安利止幾久八末己止可
定家 和可多女尓遠幾尓久加利之者之多可乃人乃天尓有止幾久八末己止可
和歌 わかために おきにくかりし はしたかの ひとのてにありと きくはまことか
解釈 我がためにをきにくかりしはし鷹の人の手に有りと聞くはまことか

歌番号一二一六
久知奈之安留止己呂尓己比尓川可者之多留尓
以呂乃以止安之加利个礼八
久知奈之安留所尓己比尓川可者之多留尓
以呂乃以止安之加利个礼八
くちなしある所に乞ひにつかはしたるに、
色のいと悪しかりければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 己衣尓多天々以者祢止志留之久知奈之乃以呂八和可多女宇寸幾奈利个利
定家 声尓多天々以者祢止志留之久知奈之乃色八和可多女宇寸幾奈利个利
和歌 こゑにたてて いはねとしるし くちなしの いろはわかため うすきなりけり
解釈 声に立てて言はねどしるしくちなしの色は我がため薄きなりけり

歌番号一二一七
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 堂幾川世乃者也加良奴遠曽宇良三川留見寸止毛遠止尓幾可武止於毛部八
定家 堂幾川世乃者也加良奴遠曽怨川留見寸止毛遠止尓幾可武止於毛部八
和歌 たきつせの はやからぬをそ うらみつる みすともおとに きかむとおもへは
解釈 たきつ瀬の早からぬをぞ恨みつる見ずとも音に聞かむと思へば

歌番号一二一八
飛止乃毛止尓布美徒可者之个留於止己飛止尓
三世个利止幾々天川可波之遣類
人乃毛止尓布美徒可者之个留於止己人尓
見世个利止幾々天川可波之遣類
人の許に文つかはしける男、人に
見せけりと聞きてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 美奈飛止尓布美々世个利奈美那世可者曽乃和多利己曽万川者安左个礼
定家 美奈人尓布美々世个利奈美那世河曽乃渡己曽万川者安左个礼
和歌 みなひとに ふみみせけりな みなせかは そのわたりこそ まつはあさけれ
解釈 みな人に文見せけりな水無瀬河その渡こそまづは浅けれ

歌番号一二一九
徒久之乃志良加波止以不止己呂尓寸美者部利个留尓
堂以尓乃不知者良乃於幾乃利乃安曾无乃満可利王多留川以天尓
美川堂部武止天宇知与利天己比者部利个礼者
美川遠毛天以天々与美者部利个留
徒久之乃志良加波止以不所尓寸美侍个留尓
大弐藤原於幾乃利乃朝臣乃満可利王多留川以天尓
水堂部武止天宇知与利天己比侍个礼者
水遠毛天以天々与美侍个留
筑紫の白河といふ所に住み侍りけるに、
大弐藤原興範朝臣のまかり渡るついでに、
水たべむとてうち寄りて、乞ひ侍りければ、
水を持て出でて、詠み侍りける

飛可幾乃遠宇奈
飛可幾乃嫗
ひかきの嫗(檜垣嫗)

原文 止之布礼者和可久呂加美毛志良可者乃美川者久武万天遠以尓个留可奈
定家 年布礼者和可久呂加美毛志良河乃美川者久武万天老尓个留哉
和歌 としふれは わかくろかみも しらかはの みつはくむまて おいにけるかな
解釈 年経れば我が黒髪も白河のみづはくむまで老いにけるかな

加之己尓奈多可久己止己乃武於无奈尓奈无者部利个留
加之己尓名多可久事己乃武女尓奈无侍个留
かしこに名高く事好む女になん侍りける

歌番号一二二〇
志曽久尓者部利个留於无奈乃於止己尓奈多知天加々累
己止奈无安留飛止尓以比左者久止以比者部利个礼八
志曽久尓侍个留女乃於止己尓奈多知天加々累
事奈无安留人尓以比左者久止以比侍个礼八
親族に侍りける女の、男に名立ちて、かかる
事なんある。人に言ひ騒げ、と言ひ侍りければ

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 加左寸止毛堂知止多知奈无奈幾奈遠八己止奈之久左乃加比也奈可良无
定家 加左寸止毛堂知止多知奈无奈幾奈遠八事奈之草乃加比也奈可良无
和歌 かさすとも たちとたちなむ なきなをは ことなしくさの かひやなからむ
解釈 かざすとも立ちと立ちなんなき名をば事なし草のかひやなからん

歌番号一二二一
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 加部利久累三知尓曽計左者万与不良无己礼尓奈寸良不者奈々幾毛乃遠
定家 帰久累道尓曽計左者迷良无己礼尓奈寸良不花奈幾物遠
和歌 かへりくる みちにそけさは まよふらむ これになすらふ はななきものを
解釈 帰り来る道にぞ今朝はまどふらんこれになずらふ花なきものを

歌番号一二二二
於无奈乃毛止尓布美徒加者之个留遠可部之己止毛
世寸之天乃知/\者布美遠三毛世天止利
奈无遠久止飛止乃徒遣々礼八
女乃毛止尓布美徒加者之个留遠返事毛
世寸之天乃知/\者布美遠見毛世天止利
奈无遠久止人乃徒遣々礼八
女の許に文つかはしけるを、返事も
せずして後々は、文を見もせで取り
なん置く、と人の告げければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 於保曽良尓由幾可不止利乃久毛知遠曽飛止乃布美々奴毛乃止以不奈留
定家 於保曽良尓行可不鳥乃雲地遠曽人乃布美々奴物止以不奈留
和歌 おほそらに ゆきかふとりの くもちをそ ひとのふみみぬ ものといふなる
解釈 大空に行き交ふ鳥の雲路をぞ人の文見ぬものと言ふなる

歌番号一二二三
幾乃寸个尓者部利个留於止己乃満可利加与者寸奈利尓个礼八
加能於止己乃安祢乃毛止尓宇礼部遠己世天者部利遣連者
以止己々呂宇幾己止可那止以比川可八之多利个留可部之己止尓
幾乃寸个尓侍个留於止己乃満可利加与者寸奈利尓个礼八
加能於止己乃安祢乃毛止尓宇礼部遠己世天侍遣連者
以止心宇幾己止可那止以比川可八之多利个留返事尓
紀伊介に侍りける男のまかり通はずなりにければ、
かの男の姉のもとに愁へおこせて侍りければ、
いと心憂きことかなと言ひつかはしたりける返事に

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 幾乃久尓乃奈久左乃者万八幾美奈礼也己止乃以不可比安利止幾々川留
定家 幾乃久尓乃奈久左乃者万八君奈礼也事乃以不可比有止幾々川留
和歌 きのくにの なくさのはまは きみなれや ことのいふかひ ありとききつる
解釈 紀伊国の名草の浜は君なれや事の言ふかひ有りと聞きつる

歌番号一二二四
春美者部利个留於无奈美也川可部之者部利个留遠止毛多知奈利个留
於无奈於奈之久留万尓天川良由幾可以部尓万宇天幾多利
个里徒良由幾可女満良宇止尓安留之世无止天
万可利於利天者部利个留本止尓加乃於无奈遠於毛比可个天者部利
遣礼者志乃日天久留万尓以礼者部利遣留
春美侍个留女宮川可部之侍个留遠止毛多知奈利个留
女於奈之久留万尓天川良由幾可家尓万宇天幾多利
个里徒良由幾可女満良宇止尓安留之世无止天
万可利於利天侍个留本止尓加乃女遠思可个天侍
遣礼者志乃日天久留万尓以礼侍遣留
住み侍りける女、宮仕へし侍りけるを友だちなりける
女、同じ車にて貫之が家にまうで来きたり
けり。貫之が妻、客に饗応せんとて、
まかり下りて侍りけるほどに、かの女を思ひかけて侍り
ければ、忍びて車に入れ侍りける


従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 奈美尓乃美奴礼川留物遠布久加世乃堂与利宇礼之幾安万乃川利布祢
定家 浪尓乃美奴礼川留物遠吹風乃堂与利宇礼之幾安万乃川利舟
和歌 なみにのみ ぬれつるものを ふくかせの たよりうれしき あまのつりふね
解釈 浪にのみ濡れつるものを吹く風の便りうれしき海人の釣舟

歌番号一二二五
越止己乃毛乃尓万可利天布多止世許安利天万宇天
幾多利个留遠本止部天乃知尓己止奈之比尓
己止飛止尓奈多川止幾々之波末己止奈利个利止
以部利个礼者
越止己乃物尓万可利天布多止世許有天万宇天
幾多利个留遠本止部天乃知尓己止奈之比尓
己止人尓奈多川止幾々之波末己止奈利个利止
以部利个礼者
男の物にまかりて、二年ばかり有りてまうで
来たりけるを、ほど経て後に、ことなしびに
異人に名立つと聞きしはまことなりけりと
言へりければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 美止利奈留万川本止寸幾者以可天可者志多波者可利毛々美知世左良无
定家 緑奈留松本止寸幾者以可天可者志多波許毛々美知世左良无
和歌 みとりなる まつほとすきは いかてかは したははかりも もみちせさらむ
解釈 緑なる松ほど過ぎばいかでかは下葉ばかりも紅葉せざらん

歌番号一二二六
奈幾於无奈与従乃美己乃々知乃和左世武止
天本多以之乃寸々遠奈无美幾乃於本以万宇知幾三毛止女者部留止
幾々天己乃寸々遠々久留止天久者部者部利个留
故女四乃美己乃々知乃和左世武止天
本多以之乃寸々遠奈无右大臣毛止女侍止
幾々天己乃寸々遠々久留止天久者部侍个留
故女四内親王の後のわざせむとて、
菩提寺の数珠をなん右大臣求め侍ると
聞きて、この数珠を贈るとて、加へ侍りける

志无衣无保宇之
真延法師
真延法師

原文 於毛比以天乃个无利也万佐武奈幾飛止乃本止个尓奈礼留己乃美々波幾美
定家 思以天乃煙也万佐武奈幾人乃本止个尓奈礼留己乃美々波君
和歌 おもひいての けふりやまさむ なきひとの ほとけになれる このみみはきみ
解釈 思ひ出での煙やまさむ亡き人の仏になれるこのみ見ば君

歌番号一二二七
加部之 
返之 
返し

美幾乃於本以万宇知幾三
右大臣
右大臣

原文 美知奈礼留己乃美堂従祢天己々呂左之安利止美留尓曽祢遠者満之个留
定家 道奈礼留己乃身尋天心左之有止見留尓曽祢遠者満之个留
和歌 みちなれる このみたつねて こころさし ありとみるにそ ねをはましける
解釈 道なれるこの身尋ねて心ざし有りと見るにぞ音をばましける

歌番号一二二八
佐多女多留女毛者部良寸比止利布之遠乃美寸止
於无奈止毛多知乃毛止与利堂者不礼天者部利个礼者
佐多女多留女毛侍良寸比止利布之遠乃美寸止
女止毛多知乃毛止与利堂者不礼天侍个礼者
定めたる妻も侍らず、一人臥しをのみすと、
女友だちの許より戯れて侍りければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 伊川己尓毛三遠者々奈礼奴可个之安礼者布春止己々止尓比止利也者奴留
定家 伊川己尓毛身遠者々奈礼奴影之安礼者布春止己々止尓比止利也者奴留
和歌 いつこにも みをははなれぬ かけしあれは ふすとこことに ひとりやはぬる
解釈 いづこにも身をば離れぬ影しあれば臥す床ごとに一人やはぬる

歌番号一二二九
世武左為乃奈可尓寸呂乃幾於以天者部利止幾々天
由幾安幾良乃美己乃毛止与利比止幾己比尓
川可八之多礼者久波部天川可者之个留
前栽乃奈可尓寸呂乃木於以天侍止幾々天
由幾安幾良乃美己乃毛止与利比止木己比尓
川可八之多礼者久波部天川可者之个留
前栽の中に棕櫚の木生ひてはべると聞きて
行明親王のもとより一木乞ひに
つかはしたれば、加へてつかはしける

志无衣无保宇之
真延法師
真延法師

原文 加世之毛尓以呂毛己々呂毛加者良祢八安留之尓々多留宇部幾奈利个利
定家 風霜尓色毛心毛加者良祢八安留之尓々多留宇部木奈利个利
和歌 かせしもに いろもこころも かはらねは あるしににたる うゑきなりけり
解釈 風霜に色も心も変らねばあ主人に似たる植ゑ木なりけり

歌番号一二三〇
加部之 
返之 
返し

由幾安幾良乃美己
行明乃美己
行明のみこ(行明親王)

原文 也万布可美安留之尓々太留宇部幾遠者美衣奴以呂止曽以不部可利个留
定家 山深美安留之尓々太留宇部木遠者見衣奴色止曽以不部可利个留
和歌 やまふかみ あるしににたる うゑきをは みえぬいろとそ いふへかりける
解釈 山深み主人に似たる植ゑ木をば見えぬ色とぞ言ふべかりける

歌番号一二三一
於保為奈留止己呂尓天飛止/\佐遣多宇部个留川以天尓
大井奈留所尓天人/\佐遣多宇部个留川以天尓
大井なる所にて人々酒たうべけるついでに

奈利比良乃安曾无
奈利比良乃朝臣
なりひらの朝臣(在原業平)

原文 於保為可者宇可部留不祢乃加々利飛尓遠久良乃也万毛奈乃三奈利个利
定家 大井河宇可部留舟乃加々利火尓遠久良乃山毛名乃三奈利个利
和歌 おほゐかは うかへるふねの かかりひに をくらのやまも なのみなりけり
解釈 大井河浮かべる舟の篝火に小倉の山も名のみなりけり

歌番号一二三二
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 安春可々八和可三比止川乃布知世由部奈部天乃与遠毛宇良美川留可奈
定家 明日河和可身比止川乃布知世由部奈部天乃世遠毛怨川留哉
和歌 あすかかは わかみひとつの ふちせゆゑ なへてのよをも うらみつるかな
解釈 飛鳥河我が身一つの淵瀬ゆゑなべての世をも恨みつるかな

歌番号一二三三
於毛不己止者部利个留己呂之可尓万宇天々
思事侍个留己呂志賀尓万宇天々
思ふ事侍りけるころ、志賀に詣でて

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 与乃奈可遠以止比可天良尓己之加止毛宇幾三奈可良乃也末尓曽安利个留
定家 世中遠以止比可天良尓己之加止毛宇幾身奈可良乃山尓曽有个留
和歌 よのなかを いとひかてらに こしかとも うきみなからの やまにそありける
解釈 世の中を厭ひがてらに来しかども憂き身ながらの山にぞ有りける

歌番号一二三四
知々波々者部利个留飛止乃武寸女尓志乃比天加与比者部利个留遠
幾々川个天加宇之世良礼者部利个留遠川幾比部天加久礼和多利計連止
安女布利天衣万可利以天者部良天己毛利為天者部利个留遠
知々波々幾々川个天以可々者世武止天
由留春与之以比天者部利个礼者
知々波々侍个留人乃武寸女尓志乃比天加与比侍个留遠
幾々川个天加宇之世良礼侍个留遠月日部天加久礼和多利計連止
雨布利天衣万可利以天侍良天己毛利為天侍个留遠
知々波々幾々川个天以可々者世武止天
由留春与之以比天侍个礼者
父母侍りける人の女に忍びて通ひ侍りけるを
聞きつけて、勘事せられ侍りけるを月日経て隠れ渡りけれど、
雨降りてえまかり出で侍らで、籠もりゐて侍りけるを、
父母聞きつけて、いかがはせむとて、
許すよし言ひて侍りければ

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 志多尓乃美者比和多利川留安之乃祢乃宇礼之幾安女尓安良八留々加奈
定家 志多尓乃美者比渡川留安之乃祢乃宇礼之幾雨尓安良八留々哉
和歌 したにのみ はひわたりつる あしのねの うれしきあめに あらはるるかな
解釈 下にのみはひ渡りつる葦の根のうれしき雨にあらはるるかな

歌番号一二三五
飛止乃以部尓満可利多利个留尓也利美川尓多幾以止
於毛之呂可利个礼者加部利天川可者之个留
人乃家尓満可利多利个留尓也利水尓多幾以止
於毛之呂可利个礼者加部利天川可者之个留
人の家にまかりたりけるに、遣水に滝いと
おもしろかりければ、帰りてつかはしける

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 堂幾川世尓多礼之良多万遠美多利个无比呂不止世之尓曽天八比知尓幾
定家 堂幾川世尓誰白玉遠美多利个无比呂不止世之尓袖八比知尓幾
和歌 たきつせに たれしらたまを みたりけむ ひろふとせしに そてはひちにき
解釈 滝つ瀬に誰れ白玉を乱りけん拾ふとせしに袖はひちにき

歌番号一二三六
保武己宇与之乃々多幾美曽葉奈之个留於保武止毛尓天
法皇与之乃々多幾御覧之个留御止毛尓天
法皇吉野の滝御覧じける御供にて

美奈毛堂乃々保留乃安曾无
源昇朝臣
源昇朝臣

原文 以徒乃万尓布利川毛留良无三与之乃々也万乃可比与利久川礼於川留由幾
定家 以徒乃万尓布利川毛留良无三与之乃々山乃可比与利久川礼於川留雪
和歌 いつのまに ふりつもるらむ みよしのの やまのかひより くつれおつるゆき
解釈 いつの間に降り積もるらんみ吉野の山の峡より崩れ落つる雪

歌番号一二三七
保武己宇与之乃々多幾美曽葉奈之个留於保武止毛尓天
法皇与之乃々多幾御覧之个留御止毛尓天
法皇吉野の滝御覧じける御供にて

保武己宇乃於保美宇堂
法皇御製
法皇御製

原文 美也乃太幾武部毛奈尓於比天幾己衣个利於川留志良安和乃堂満止比々計八
定家 宮乃太幾武部毛名尓於比天幾己衣个利於川留志良安和乃玉止比々計八
和歌 みやのたき うへもなにおひて きこえけり おつるしらあわの たまとひひけは
解釈 宮の滝むべも名におひて聞こえけり落つる白泡の玉と響けば

歌番号一二三八
也万布美之波之女个留止幾
山布美之波之女个留時
山踏みし始めける時

曽宇志也宇部无世宇
僧正遍昭
僧正遍昭

原文 以万左良尓和礼者加部良之太幾三川々与部止幾加寸止々波々己多部与
定家 今更尓我者加部良之太幾見川々与部止幾加寸止々波々己多部与
和歌 いまさらに われはかへらし たきみつつ よへときかすと とははこたへよ
解釈 今更に我は帰らじ滝見つつ呼べど聞かずと問はば答へよ

歌番号一二三九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 堂幾川世乃宇徒万幾己止尓止女久礼止奈保多川祢久留与乃宇幾女か奈
定家 瀧川世乃宇徒万幾己止尓止女久礼止猶尋久留世乃宇幾女哉
和歌 たきつせの うつまきことに とめくれと なほたつねくる よのうきめかな
解釈 滝つ瀬の渦巻ごとにとめ来れどなほ尋ねくる世の憂きめかな

歌番号一二四〇
者之女天加之良於呂之者部利个留止幾毛乃尓加幾
徒遣者部利个留
者之女天加之良於呂之侍个留時毛乃尓加幾
徒遣侍个留
初めて頭下ろし侍りける時、物に書き
つけ侍りける

部无世宇
遍昭
遍昭

原文 堂良知女者加々礼止天之毛武者多万乃和可久呂可美遠奈天寸也安利个无
定家 堂良知女者加々礼止天之毛武者多万乃和可久呂可美遠奈天寸也有个无
和歌 たらちめは かかれとてしも うはたまの わかくろかみを なてすやありけむ
解釈 たらちめはかかれとてしもむばたまの我が黒髪を撫でずや有りけん

歌番号一二四一
美知乃久尓乃加美尓満可利久多礼利个留尓堂計久満乃
末川乃加礼天者部利个留遠三天己末川遠宇部徒
加世者部利天尓武者天々乃知万多於奈之久尓々万可利
奈利天加乃左幾乃尓武尓宇部之末川松遠美者部利天
美知乃久尓乃加美尓満可利久多礼利个留尓堂計久満乃
松乃加礼天侍个留遠見天己末川遠宇部徒
加世侍天任者天々乃知又於奈之久尓々万可利
奈利天加乃左幾乃任尓宇部之松遠見侍天
陸奥守にまかり下れりけるに、武隈の
松の枯れて侍りけるを見て、小松を植ゑつ
かせ侍りて、任果てて後、又同じ国にまかり
なりて、かの前の任に植ゑし松を見侍りて

布知八良乃毛止与之乃安曾无
藤原毛止与之乃朝臣
藤原もとよしの朝臣(藤原元善)

原文 宇部之止幾知幾利也志个无多計久万乃末川遠布多々比安日美川留可奈
定家 栽之時契也志釼多計久万乃松遠布多々比安日見川留哉
和歌 うゑしとき ちきりやしけむ たけくまの まつをふたたひ あひみつるかな
解釈 植ゑし時契りやしけん武隈の松を再び逢ひ見つるかな

歌番号一二四二
布之美止以不止己呂尓天曽乃己々呂遠己礼可礼与三个留尓
布之美止以不所尓天曽乃心遠己礼可礼与三个留尓
伏見といふ所にて、その心をこれかれ詠みけるに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 寸可者良也布之美乃久礼尓三和多世八加寸美尓満可不遠者川世乃也末
定家 菅原也伏見乃久礼尓見和多世八霞尓満可不遠者川世乃山
和歌 すかはらや ふしみのくれに みわたせは かすみにまかふ をはつせのやま
解釈 菅原や伏見の暮に見わたせば霞にまがふ小初瀬の山

歌番号一二四三
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 己止乃者毛奈久天部尓个留止之川幾尓己乃者留多尓毛者奈八佐可奈无
定家 事乃者毛奈久天部尓个留年月尓己乃春多尓毛花八佐可奈无
和歌 ことのはも なくてへにける としつきに このはるたにも はなはさかなむ
解釈 言の葉もなくて経にける年月にこの春だにも花は咲かなん

歌番号一二四四
三乃宇礼部者部利个留止幾徒乃久尓々満可利天寸三
者之女者部利个留尓
身乃宇礼部侍个留時徒乃久尓々満可利天寸三
者之女侍个留尓
身の愁へ侍りける時、津国にまかりて住み
始め侍りけるに

奈利比良乃安曾无
業平朝臣
業平朝臣(在原業平)

原文 奈尓者徒遠遣不己曽美川乃宇良己止尓己礼也己乃与遠宇三和多留布祢
定家 奈尓者徒遠遣不己曽美川乃浦己止尓己礼也己乃世遠宇三和多留舟
和歌 なにはつを けふこそみつの うらことに これやこのよを うみわたるふね
解釈 難波津を今日こそ御津の浦ごとにこれやこの世を憂みわたる舟

歌番号一二四五
止幾尓安者寸之天三遠宇良美天己毛利者部利个留止幾
時尓安者寸之天身遠宇良美天己毛利侍个留時
時に遇はずして身を恨みて籠もり侍りける時

布无也乃也寸比天
文室康秀
文屋康秀

原文 之良久毛乃幾也止留美祢乃己末川者良恵多志个々礼也日乃比可利美奴
定家 白雲乃幾也止留峯乃己松原枝志个々礼也日乃比可利見奴
和歌 しらくもの きやとるみねの こまつはら えたしけけれや ひのひかりみぬ
解釈 白雲の来宿る峯の小松原枝繁けれや日の光見ぬ

歌番号一二四六
己々呂尓毛安良奴己止遠以不己呂於止己乃於保幾尓
加幾川計者部利个留
心尓毛安良奴己止遠以不己呂於止己乃扇尓
加幾川計侍个留
心にもあらぬことを言ふころ、男の扇に
書きつけ侍りける


止左
土佐
土左

原文 三尓左武久安良奴毛乃可良和比之幾者飛止乃己々呂乃安良之奈利个利
定家 身尓左武久安良奴物可良和比之幾者人乃心乃嵐奈利个利
和歌 みにさむく あらぬものから わひしきは ひとのこころの あらしなりけり
解釈 身に寒くあらぬものからわびしきは人の心の嵐なりけり

歌番号一二四七
己々呂尓毛安良奴己止遠以不己呂於止己乃於保幾尓
加幾川計者部利个留
心尓毛安良奴己止遠以不己呂於止己乃扇尓
加幾川計侍个留
心にもあらぬことを言ふころ、男の扇に
書きつけ侍りける

止左
土佐
土左

原文 奈可良部八飛止乃己々呂毛三留部幾遠川由乃以乃知曽加奈之可利个累
定家 奈可良部八人乃心毛見留部幾遠川由乃以乃知曽加奈之可利个累
和歌 なからへは ひとのこころも みるへきを つゆのいのちそ かなしかりける
解釈 ながらへば人の心も見るべきを露の命ぞ悲しかりける

歌番号一二四八
飛止乃毛止与利比左之宇己々知和川良日天本止/\
之久奈无安利川留止以比天者部利个礼八
人乃毛止与利比左之宇心地和川良日天本止/\
之久奈无安利川留止以比天侍个礼八
人の許より、「久しう心地わづらひて、ほとほと
しくなんありつる」と言ひて侍りければ

加武為无乃於保幾美
閑院大君
閑院大君

原文 毛呂止毛尓以左止者以者天志天乃也末以可天可比止利己衣无止者世之
定家 毛呂止毛尓以左止者以者天志天乃山以可天可比止利己衣无止者世之
和歌 もろともに いさとはいはて してのやま いかてかひとり こえむとはせし
解釈 もろともにいざとは言はで死出の山いかでか一人越えんとはせし

歌番号一二四九
川幾与尓加礼己礼之天
月夜尓加礼己礼之天
月夜にかれこれして

加武川計乃美祢於
加武川計乃美祢於
かむつけのみねを(上野峯雄)

原文 遠之奈部天美祢毛多比良尓奈利奈々无也末乃者奈久八川幾毛加具礼之
定家 遠之奈部天峯毛多比良尓奈利奈々无山乃者奈久八月毛加具礼之
和歌 おしなへて みねもたひらに なりななむ やまのはなくは つきもかくれし
解釈 おしなべて峯も平らになりななん山の端なくは月も隠れじ

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