竹取翁と万葉集のお勉強

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後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻十九

2020年10月18日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
止遠末利己々乃末幾仁安多留未幾
巻十九

加礼加礼乃宇多 堂比乃宇多
離別歌(附 羈旅歌)

歌番号一三〇四
美知乃久尓部満可利个留飛止尓比宇知遠徒可者春
止天加幾川計者部利遣流
美知乃久尓部満可利个留人尓火宇知遠徒可者春
止天加幾川計侍遣流
陸奥へまかりける人に、火打ちをつかはす
とて、書きつけ侍りける

従良由幾
貫之
貫之(紀貫之)

原文 於里/\尓宇知天堂久比乃个不利安良者己々呂左寸可遠志乃部止曽於毛不
定家 於里/\尓打天堂久火乃煙安良者心左寸可遠志乃部止曽思
和歌 をりをりに うちてたくひの けふりあらは こころさすかを しのへとそおもふ
解釈 折々に打ちて焚く火の煙あらば心ざす香をしのべとぞ思ふ

歌番号一三〇五
安比之利天者部利个留飛止乃安徒万乃可多部満可利个留
尓佐久良乃者奈乃加多尓奴左遠之天川可八之个累
安比之利天侍个留人乃安徒万乃方部満可利个留
尓佐久良乃花乃加多尓奴左遠之天川可八之个累
あひ知りて侍りける人の東の方へまかりける
に、桜の花の形に幣をしてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 安多飛止乃堂武計尓於礼留佐久良者奈安不左可万天者知良寸毛安良奈无
定家 安多人乃堂武計尓於礼留佐久良花相坂万天者知良寸毛安良奈无
和歌 あたひとの たむけにをれる さくらはな あふさかまては ちらすもあらなむ
解釈 あだ人の手向けに折れる桜花相坂までは散らずもあらなん

歌番号一三〇六
止遠久満可利个留飛止尓武万乃者奈武計之者部利个留止己呂尓天
止遠久満可利个留人尓餞之侍个留所尓天
遠くまかりける人に餞し侍りける所にて

多知八奈乃奈保止毛
橘直幹
橘直幹

原文 於毛比也留己々呂者可利者左波良之遠奈尓部多川良无美祢乃之良久毛
定家 思也留心許者左波良之遠何部多川良无峯乃白雲
和歌 おもひやる こころはかりは さはらしを なにへたつらむ みねのしらくも
解釈 思ひやる心ばかりは障らじを何隔つらん峯の白雲

歌番号一三〇七
志毛川个尓満可利个留於无奈尓加々美尓曽部天
徒可者之遣流
志毛川个尓満可利个留女尓加々美尓曽部天
徒可者之遣流
下野にまかりける女に鏡に添へて
つかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 布多己也末止毛尓己衣祢止万寸可々美曽己奈留可个遠多久部天曽也留
定家 布多己山止毛尓己衣祢止万寸鏡曽己奈留影遠多久部天曽也留
和歌 ふたみやま ともにこえねと ますかかみ そこなるかけを たくへてそやる
解釈 二子山ともに越えねどます鏡そこなる影をたぐへてぞやる

歌番号一三〇八
之奈乃部満可利个留飛止尓多幾毛乃川可者寸止天
之奈乃部満可利个留人尓多幾物川可者寸止天
信濃へまかりける人に焚き物つかはすとて

春留可
春留可
するか(駿河)

原文 志奈乃奈留安佐万乃也末毛々由奈礼者布之乃个不利乃可比也奈可良无
定家 志奈乃奈留安佐万乃山毛々由奈礼者布之乃个不利乃可比也奈可良无
和歌 しなのなる あさまのやまも もゆなれは ふしのけふりの かひやなからむ
解釈 信濃なる浅間の山も燃ゆなれば富士の煙のかひやなからん

歌番号一三〇九
止遠幾久尓部満可利个留止毛多知尓飛宇知尓
曽部天川可八之个留
止遠幾久尓部満可利个留止毛多知尓火宇知尓
曽部天川可八之个留
遠き国へまかりける友だちに火打ちに
添へてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 己乃多比毛和礼遠和寸礼奴毛乃奈良八宇知美武多比尓於毛比以天奈无
定家 己乃多比毛我遠和寸礼奴物奈良八宇知見武多比尓思以天奈无
和歌 このたひも われをわすれぬ ものならは うちみむたひに おもひいてなむ
解釈 このたびも我を忘れぬ物ならばうち見むたびに思ひ出でなん

歌番号一三一〇
美也己尓者部利个留於奈己遠以可奈留己止止可者部利个无
己々呂宇之止天止々女遠幾天伊奈者乃久尓部万可利个礼八
京尓侍个留女子遠以可奈留事可侍个无
心宇之止天止々女遠幾天伊奈者乃久尓部万可利个礼八
京に侍りける女子をいかなる事か侍りけん、
心憂しとて留め置きて因幡国へまかりければ

武寸免
武寸免
むすめ(女)

原文 宇知寸天々幾美之以奈者乃川由乃美者幾衣奴者可利曽安利止多乃武奈
定家 打寸天々君之以奈者乃川由乃身者幾衣奴許曽有止多乃武奈
和歌 うちすてて きみしいなはの つゆのみは きえぬはかりそ ありとたのむな
解釈 うち捨てて君し因幡の露の身は消えぬばかりぞ有りと頼むな

歌番号一三一一
以世尓満可利个留飛止止久以奈无止己々呂毛止
奈可留止幾々天堂比乃天宇止奈止々良寸留
物可良堂々武加美尓加幾天止良寸留奈遠八
武万止以比个留尓
伊勢尓満可利个留人止久以奈无止心毛止
奈可留止幾々天堂比乃天宇止奈止々良寸留
物可良堂々武加美尓加幾天止良寸留名遠八
武万止以比个留尓
伊勢にまかりける人、とく往なんと、心もと
なかると聞きて、旅の調度など取らする
ものから、畳紙に書きて取らする、名をば
馬といひけるに

原文 於之止於毛不己々呂者奈久天己乃多比者由久宇万尓武知遠於本世川留可奈
定家 於之止思心者奈久天己乃多比者由久馬尓武知遠於本世川留哉
和歌 をしとおもふ こころはなくて このたひは ゆくうまにむちを おほせつるかな
解釈 惜しと思ふ心はなくてこのたびは行く馬に鞭をおほせつるかな

歌番号一三一二
加部之 
返之 
返し

武万
武万
むま(馬)

原文 幾美可手遠加礼由久安幾乃寸恵尓之毛乃可比尓者奈川武万曽加奈之幾
定家 君可手遠加礼由久秋乃寸恵尓之毛乃可比尓者奈川武万曽加奈之幾
和歌 きみかてを かれゆくあきの すゑにしも のかひにはなつ うまそかなしき
解釈 君が手をかれ行く秋の末にしも野飼ひに放つ馬ぞ悲しき

歌番号一三一三
於奈之以部尓比左之宇者部利个留於无奈乃美乃々
久尓々於也乃者部利个留止不良日尓万可利个留尓
於奈之家尓比左之宇侍个留女乃美乃々
久尓々於也乃侍个留止不良日尓万可利个留尓
同じ家に久しう侍りける女の、美濃
国に親の侍りける、訪ぶらひにまかりけるに

布知八良乃幾与多々
藤原幾与多々
藤原きよたた(藤原清正)

原文 以末者止天多知可部利由久布留左止乃布和乃世幾知尓美也己和寸留奈
定家 今者止天立帰由久布留左止乃布和乃世幾知尓美也己和寸留奈
和歌 いまはとて たちかへりゆく ふるさとの ふはのせきちに みやこわするな
解釈 今はとて立ち帰り行くふるさとの不破の関路に都忘るな

歌番号一三一四
止遠幾久尓々満可利个留飛止尓多比乃久徒可者之
个留加々美乃波己乃宇良尓加幾川个天川可者之遣留
止遠幾久尓々満可利个留人尓多比乃久徒可者之
个留加々美乃波己乃宇良尓加幾川个天川可者之遣留
遠き国にまかりける人に、旅の具つかはし
ける、鏡の箱の裏に書きつけてつかはしける

於本久本乃能里与之
於本久本乃能里与之
おほくほののりよし(大窪則善)

原文 見遠和久留己止乃加多左尓万寸可々美可个者可利遠曽幾美尓曽部徒留
定家 身遠和久留事乃加多左尓万寸鏡影許遠曽君尓曽部徒留
和歌 みをわくる ことのかたさに ますかかみ かけはかりをそ きみにそへつる
解釈 身を分くる事の難さにます鏡影ばかりをぞ君に添へつる

歌番号一三一五
己乃多比乃以天多知奈无毛乃宇久於本由留止以比个礼八
己乃多比乃以天多知奈无物宇久於本由留止以比个礼八
このたびの出で立ちなん物憂くおぼゆる、と言ひければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 者徒可利乃和礼毛曽良奈留本止奈礼者幾美毛々乃宇幾多比尓也安留良无
定家 者徒可利乃我毛曽良奈留本止奈礼者君毛物宇幾多比尓也安留良无
和歌 はつかりの われもそらなる ほとなれは きみもものうき たひにやあるらむ
解釈 初雁の我も空なるほどなれば君も物憂き旅にやあるらん

歌番号一三一六
安比之利天者部利个留於无奈乃飛止乃久尓々満可利个留尓
徒可者之个留
安比之利天侍个留女乃人乃久尓々満可利个留尓
徒可者之个留
あひ知りて侍りける女の、人の国にまかりけるに
つかはしける

幾美多々乃安曾无
公忠朝臣
公忠朝臣(三統公忠)

原文 以止世女天己比之幾太日乃可良己呂毛本止奈久加部寸飛止毛安良奈无
定家 以止世女天己比之幾太日乃唐衣本止奈久加部寸人毛安良奈无
和歌 いとせめて こひしきたひの からころも ほとなくかへす ひともあらなむ
解釈 いとせめて恋しきたびの唐衣ほどなくかへす人もあらなん

歌番号一三一七
加部之 
返之 
返し、

於无奈



原文 可良己呂毛堂川日遠与曽尓幾久飛止者加部寸者可利乃本止毛己比之遠
定家 唐衣堂川日遠与曽尓幾久人者加部寸許乃本止毛己比之遠
和歌 からころも たつひをよそに きくひとは かへすはかりの ほともこひしを
解釈 唐衣裁つ日をよそに聞く人はかへすばかりのほども恋ひじを

歌番号一三一八
也由比者可利己之乃久尓部満可利个留飛止尓
佐遣太宇比个留川以天尓
三月許己之乃久尓部満可利个留人尓
佐遣太宇比个留川以天尓
三月ばかり、越国へまかりける人に
酒たうびけるついでに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 己比之久者己止徒天毛世无加部留左乃加利可祢者万川和可也止尓奈計
定家 己比之久者事徒天毛世无加部留左乃加利可祢者万川和可也止尓奈計
和歌 こひしくは ことつてもせむ かへるさの かりかねはまつ わかやとになけ
解釈 恋しくは事づてもせん帰るさの雁が音はまづ我が宿に鳴け

歌番号一三一九
世武由布保宇之乃以川乃久尓々奈可佐礼者部利个留尓
善祐法師乃伊豆乃久尓々奈可佐礼侍个留尓
善祐法師の伊豆の国に流され侍りけるに

以世
伊勢
伊勢

原文 王可礼天者以川安比身武止於毛布良无可幾利安留与乃以乃知止毛奈之
定家 別天者以川安比見武止思良无限安留与乃以乃知止毛奈之
和歌 わかれては いつあひみむと おもふらむ かきりあるよの いのちともなし
解釈 別れてはいつあひ見むと思ふらん限りある世の命ともなし

歌番号一三二〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 曽武可礼奴万川乃知止世乃本止与利毛止毛/\止多尓志多者礼曽世之
定家 曽武可礼奴松乃知止世乃本止与利毛止毛/\止多尓志多者礼曽世之
和歌 そむかれぬ まつのちとせの ほとよりも ともともとたに したはれそせし
解釈 そむかれぬ松の千歳のほどよりもともどもとだに慕はれぞせし

歌番号一三二一
加部之 
返之 
返し

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 止毛/\止志多不奈美多乃曽不美従者以可奈留以呂尓美衣天由久良无
定家 止毛/\止志多不涙乃曽不水者以可奈留色尓見衣天由久良无
和歌 ともともと したふなみたの そふみつは いかなるいろに みえてゆくらむ
解釈 ともどもと慕ふ涙の添ふ水はいかなる色に見えて行くらん

歌番号一三二二
天為之乃美可止於利為多万宇个留安幾己幾天武乃
加部尓加幾川个々留
亭子乃美可止於利為多万宇个留秋弘徽殿乃
加部尓加幾川个々留
亭子帝下りゐたまうける秋、弘徽殿の
壁に書きつけける

以世
伊勢
伊勢

原文 和可留礼止安比毛於之万奴毛々之幾遠美佐良无己止也奈尓可加奈之幾
定家 和可留礼止安比毛於之万奴毛々之幾遠見佐良无事也奈尓可加奈之幾
和歌 わかるれと あひもをしまぬ ももしきを みさらむことや なにかかなしき
解釈 別るれどあひも惜しまぬ百敷を見ざらん事や何か悲しき

歌番号一三二三
美可止美曽波奈之天於保武可部之
美可止御覧之天御返之
帝御覧じて、御返し

天為之乃美可止
亭子乃美可止
亭子のみかと(亭子帝)

原文 美比止川尓安良奴者可利遠々之奈部天由幾女久利天毛奈止可美左良无
定家 身比止川尓安良奴許遠々之奈部天由幾女久利天毛奈止可見左良无
和歌 みひとつに あらぬはかりを おしなへて ゆきめくりても なとかみさらむ
解釈 身一つにあらぬばかりをおしなべてゆきめぐりてもなどか見ざらん

歌番号一三二四
三知乃久尓部万可利个留飛止尓安不幾天宇之天
宇多恵尓加々世者部利个留
三知乃久尓部万可利个留人尓安不幾天宇之天
宇多恵尓加々世侍个留
陸奥へまかりける人に、扇調じて、
歌絵に書かせ侍りける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 王可礼由久三知乃久毛為尓奈利由个者止万留己々呂毛曽良尓己曽奈礼
定家 別由久道乃久毛為尓奈利由个者止万留心毛曽良尓己曽奈礼
和歌 わかれゆく みちのくもゐに なりゆけは とまるこころも そらにこそなれ
解釈 別れ行く道の雲居になり行けば止まる心も空にこそなれ

歌番号一三二五
武祢由幾乃安曾无乃武寸女美知乃久尓部久多利个留尓
宗于朝臣乃武寸女美知乃久尓部久多利个留尓
宗于朝臣の女、陸奥へ下りけるに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 以可天奈保加左止利也万尓美遠奈之天川由个幾多比尓曽者武止曽於毛不
定家 以可天猶加左止利山尓身遠奈之天川由个幾多比尓曽者武止曽思
和歌 いかてなほ かさとりやまに みをなして つゆけきたひに そはむとそおもふ
解釈 いかでなほ笠取山に身をなして露けき旅に添はむとぞ思ふ

歌番号一三二六
加部之 
返之 
返し

武祢由幾乃安曾无乃武寸女
宗于朝臣乃武寸女
宗于朝臣のむすめ(源宗于朝臣女)

原文 加左止利乃也万止多乃美之幾美遠々幾天奈良美多乃安女尓奴礼川々曽由久
定家 加左止利乃山止多乃美之君遠々幾天涙乃雨尓奴礼川々曽由久
和歌 かさとりの やまとたのみし きみをおきて なみたのあめに ぬれつつそゆく
解釈 笠取の山と頼みし君を置きて涙の雨に濡れつつぞ行く

歌番号一三二七
越止己乃以世乃久尓部万可利个留尓
越止己乃伊勢乃久尓部万可利个留尓
男の伊勢国へまかりけるに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 幾美可由久可多尓安利天不奈美多可者満川者曽天尓曽奈可部良奈留
定家 君可由久方尓有天不涙河満川者袖尓曽流部良奈留
和歌 きみかゆく かたにありてふ なみたかは まつはそてにそ なかるへらなる
解釈 君が行く方に有りてふ涙河まづは袖にぞ流るべらなる

歌番号一三二八
堂比尓万可利个留飛止尓佐宇曽久徒加者寸止天
曽部天徒可者之个留
堂比尓万可利个留人尓佐宇曽久徒加者寸止天
曽部天徒可者之个留
旅にまかりける人に装束つかはすとて、
添へてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 曽天奴礼天和可礼者寸止毛可良己呂毛由久止奈以比曽幾多利止遠美武
定家 袖奴礼天別者寸止毛唐衣由久止奈以比曽幾多利止遠見武
和歌 そてぬれて わかれはすとも からころも ゆくとないひそ きたりとをみむ
解釈 袖濡れて別れはすとも唐衣行くとな言ひそ来たりとを見む

歌番号一三二九
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 和可礼地者己々呂毛由可寸可良己呂毛幾礼者奈美多曽佐幾尓多知个留
定家 別地者心毛由可寸唐衣幾礼者涙曽佐幾尓多知个留
和歌 わかれちは こころもゆかす からころも きれはなみたそ さきにたちける
解釈 別路は心も行かず唐衣着れば涙ざ先に立ちける

歌番号一三三〇
堂比尓満可利个留飛止尓於安布幾川可者寸止天
堂比尓満可利个留人尓扇川可者寸止天
旅にまかりける人に扇つかはすとて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 曽部天也累安布幾乃可世之己々呂安良波和可於毛不飛止乃天遠奈者奈礼曽
定家 曽部天也累扇乃風之心安良波和可思不人乃手遠奈者奈礼曽
和歌 そへてやる あふきのかせし こころあらは わかおもふひとの てをなはなれそ
解釈 添へてやる扇の風し心あらば我が思ふ人の手をな離れそ

歌番号一三三一
止毛乃利可武寸女乃美知乃久尓部万可利个留尓川可者之个留
友則可武寸女乃美知乃久尓部万可利个留尓川可
友則が女の陸奥へまかりけるにつかはしける

布知八良乃之計毛止可武寸女
藤原滋幹可武寸女
藤原滋幹かむすめ(藤原滋幹女)

原文 幾美遠乃美志乃不乃佐止部由久毛乃遠安比川乃也末乃者留个幾也奈曽
定家 君遠乃美志乃不乃佐止部由久物遠安比川乃山乃者留个幾也奈曽
和歌 きみをのみ しのふのさとへ ゆくものを あひつのやまの はるけきやなそ
解釈 君をのみしのぶの里へ行くものを会津の山のはるけきやなぞ

歌番号一三三二
徒久之部満可留止天幾与以己乃三与宇布尓遠久利个留
徒久之部満可留止天幾与以己乃命婦尓遠久利个留
筑紫へまかるとて、清子命婦に贈りける

遠乃々与之布留乃安曾无
小野好古朝臣
小野好古朝臣

原文 止之遠部天安比三留飛止乃和可礼尓者於之幾毛乃己曽以乃知奈利个礼
定家 年遠部天安比見留人乃別尓者於之幾物己曽以乃知奈利个礼
和歌 としをへて あひみるひとの わかれには をしきものこそ いのちなりけれ
解釈 年を経てあひ見る人の別れには惜しきものこそ命なりけれ

歌番号一三三三
天者与利乃本利个留尓己礼可礼武万乃者那武計
之个留尓加者良遣止利天
出羽与利乃本利个留尓己礼可礼武万乃者那武計
之个留尓加者良遣止利天
出羽より上りけるに、これかれ餞
しけるに、かはらけとりて

美奈毛堂乃和多留
源乃和多留
源のわたる(源済)

原文 由久佐幾遠志良奴奈美多乃可奈之幾八堂々女乃万部尓於川留奈利个利
定家 由久佐幾遠志良奴涙乃悲幾八堂々女乃万部尓於川留奈利个利
和歌 ゆくさきを しらぬなみたの かなしきは たためのまへに おつるなりけり
解釈 行く先を知らぬ涙の悲しきはただ目の前に落つるなりけり

歌番号一三三四
堂比良乃多可止遠可以也之幾奈止利天飛止乃久尓部
満可利个留尓和寸留奈止以部利个礼八太可止遠可
女乃以部留
平乃多可止遠可以也之幾名止利天人乃久尓部
満可利个留尓和寸留奈止以部利个礼八太可止遠可
女乃以部留
平高遠がいやしき名取りて人の国へ
まかりけるに、忘るなと言へりければ、高遠が
妻の言へる

多可止保可女
多可止保可女
たかとほかめ(平高遠妻)

原文 和寸留奈止以不尓奈可留々奈美多可者宇幾奈遠寸々久世止毛奈良奈无
定家 和寸留奈止以不尓奈可留々涙河宇幾奈遠寸々久世止毛奈良奈无
和歌 わするなと いふになかるる なみたかは うきなをすすく せともならなむ
解釈 忘るなと言ふに泣るる涙河憂き名をすすぐ瀬ともならなん

歌番号一三三五
安比之利天者部利个留飛止乃安可良左万尓己之乃久尓
部万可利个留尓奴左己々呂左寸止天
安比之利天侍个留人乃安可良左万尓己之乃国
部万可利个留尓奴左心左寸止天
あひ知りて侍りける人のあからさまに越の国
へまかりけるに、幣心ざすとて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 和礼遠乃美於毛日川留可乃宇良奈良波加部留乃也末者万止波左良末之
定家 我遠乃美思日川留可乃浦奈良波加部留乃山者万止波左良末之
和歌 われをのみ おもひつるかの うらならは かへるのやまは まとはさらまし
解釈 我をのみ思ひ敦賀の浦ならば鹿蒜の山はまどはざらまし

歌番号一三三六
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 幾美遠乃美以徒者多止於毛比己之奈礼者由幾々乃美知者々留計加良之遠
定家 君遠乃美以徒者多止思己之奈礼者由幾々乃道者々留計加良之遠
和歌 きみをのみ いつはたとおもひ こしなれは ゆききのみちは はるけからしを
解釈 君をのみ五幡と思ひ来しなれば行き来の道ははるけからしを

歌番号一三三七
安幾堂比満可利个留飛止尓奴左遠毛美知乃衣多
尓川个天徒可者之遣留
秋堂比満可利个留人尓奴左遠毛美知乃枝
尓川个天徒可者之遣留
秋、旅まかりける人に幣を紅葉の枝
につけてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 安幾布可久太比由久飛止乃多武計尓八毛美知尓万佐留奴左奈可利个利
定家 秋布可久太比由久人乃多武計尓八毛美知尓万佐留奴左奈可利个利
和歌 あきふかく たひゆくひとの たむけには もみちにまさる ぬさなかりけり
解釈 秋深く旅行く人の手向けには紅葉にまさる幣なかりけり

歌番号一三三八
尓之乃与无之与宇乃以川幾の美也乃奈可川幾乃美曽可久多利堂万比个留
止毛奈留飛止尓奴左川可者寸止天
西四条乃斎宮乃九月晦日久多利給个留
止毛奈留人尓奴左川可者寸止天
西四条の斎宮の九月晦日下りたまひける、
供なる人に幣つかはすとて

多以布 
多以布 
大輔

原文 毛美知者遠奴左止多武計天知良之川々安幾止々毛尓也由可武止寸良无
定家 毛美知者遠奴左止多武計天知良之川々秋止々毛尓也由可武止寸良无
和歌 もみちはを ぬさとたむけて ちらしつつ あきとともにや ゆかむとすらむ
解釈 もみぢ葉を幣と手向けて散らしつつ秋とともにや行かむとすらん

歌番号一三三九
毛乃部万可利个留飛止人尓川可八之个留
毛乃部万可利个留人尓川可八之个留
ものへまかりける人につかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 満知和比天己比之久奈良八堂川奴部久安止奈幾美川乃宇部奈良天由个
定家 満知和比天己比之久奈良八堂川奴部久安止奈幾水乃宇部奈良天由个
和歌 まちわひて こひしくならは たつぬへく あとなきみつの うへならてゆけ
解釈 待ちわびて恋しくならば訪ぬべく跡なき水の上ならで行け

歌番号一三四〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

於久留於本幾於本以万宇知幾三
贈太政大臣
贈太政大臣

原文 己武止以比天和可留々多尓毛安留毛乃遠志良礼奴計左乃満之天和比之左
定家 己武止以比天和可留々多尓毛安留物遠志良礼奴計左乃満之天和比之左
和歌 こむといひて わかるるたにも あるものを しられぬけさの ましてわひしき
解釈 来むと言ひて別るるだにもある物を知られぬ今朝のましてわびしさ

歌番号一三四一
加部之 
返之 
返し

以世
伊勢
伊勢

原文 佐良者与止和可礼之止幾尓以者万世八和礼毛奈美多尓於本々礼奈末之
定家 佐良者与止別之時尓以者万世八我毛涙尓於本々礼奈末之
和歌 さらはよと わかれしときに いはませは われもなみたに おほほれなまし
解釈 さらばよと別れし時に言はませば我も涙におぼほれなまし

歌番号一三四二
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 者留可寸美者可奈久多知天和可留止毛可世与利保可尓多礼可止不部幾
定家 春霞者可奈久多知天和可留止毛風与利外尓多礼可止不部幾
和歌 はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき
解釈 春霞はかなく立ちて別るとも風より外に誰れか問ふべき

歌番号一三四三
加部之 
返之 
返し

以世
伊勢
伊勢

原文 女尓美恵奴可世尓己々呂遠多久部徒々也良八加寸三乃和可礼己曽世女
定家 女尓見恵奴風尓心遠多久部徒々也良八加寸三乃和可礼己曽世女
和歌 めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ
解釈 
目に見えぬ風に心をたぐへつつやらば霞の別れこそせめ
歌番号一三四四
加比部万可利个留飛止尓川可八之个留
加比部万可利个留人尓川可八之个留
甲斐へまかりける人につかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 幾美可与者徒留乃己本利尓安恵天幾祢左多女奈幾与乃宇多可比毛奈久
定家 君可世者徒留乃己本利尓安恵天幾祢定奈幾与乃宇多可比毛奈久
和歌 きみかよは つるのこほりに あえてきね さためなきよの うたかひもなく
解釈 君が世は都留の郡にあえて来ね定めなき世の疑ひもなく

歌番号一三四五
布祢尓天毛乃部万可利个留飛止尓川可八之个留
舟尓天物部万可利个留人尓川可八之个留
舟にて物へまかりける人につかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 遠久礼寸曽己々呂尓乃利天己可留部幾奈美尓毛止女与布祢美衣春止毛
定家 遠久礼寸曽心尓乃利天己可留部幾浪尓毛止女与舟見衣春止毛
和歌 おくれすそ こころにのりて こかるへき なみにもとめよ ふねみえすとも
解釈 遅れずぞ心に乗りて漕がるべき浪に求めよ舟見えずとも

歌番号一三四六
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 布祢奈久者安万乃可八万天毛止女天武己幾川々之本乃奈可尓幾衣寸八
定家 舟奈久者安万乃河万天毛止女天武己幾川々之本乃奈可尓幾衣寸八
和歌 ふねなくは あまのかはまて もとめてむ こきつつしほの なかにきえすは
解釈 舟なくは天の河まで求めてむ漕ぎつつ潮の中に消えずは

歌番号一三四七
布祢尓天毛乃部万可利个留飛止
舟尓天物部万可利个留人
舟にて物へまかりける人

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 加祢天与利奈美多曽々天遠宇知奴良寸宇可部留布祢尓乃良武止於毛部八
定家 加祢天与利涙曽袖遠宇知奴良寸宇可部留舟尓乃良武止思部八
和歌 かねてより なみたそそてを うちぬらす うかへるふねに のらむとおもへは
解釈 かねてより涙ぞ袖をうち濡らす浮かべる舟に乗らむと思へば

歌番号一三四八
加部之 
返之 
返し

以世
伊勢
伊勢

原文 遠左部徒々和礼者曽天尓曽世幾止武留布祢己寸之本尓奈左之止於毛部八
定家 遠左部徒々我者袖尓曽世幾止武留舟己寸之本尓奈左之止於毛部八
和歌 おさへつつ われはそてにそ せきとむる ふねこすしほに なさしとおもへは
解釈 押さへつつ我は袖にぞせき止むる舟越す潮になさじと思へば

歌番号一三四九
止遠幾止己呂尓万可留止天於无奈乃毛止尓川可者之个留
止遠幾所尓万可留止天女乃毛止尓川可者之个留
遠き所にまかるとて女のもとにつかはしける

従良由幾
貫之
貫之(紀貫之)

原文 和春礼之止己止尓武寸日天和可留礼者安比美武万天者於毛日三多留奈
定家 和春礼之止己止尓武寸日天和可留礼者安比見武万天者思日見多留奈
和歌 わすれしと ことにむすひて わかるれは あひみむまては おもひみたるな
解釈 忘れじとことに結びて別るればあひ見むまでは思ひ乱るな


多比乃宇多
羇旅歌

歌番号一三五〇
安留飛止以也之幾奈止利天止宇止宇三乃久尓部満可留止天
者川世可者遠和多留止天与美者部利个留
安留人以也之幾名止利天遠江国部満可留止天
者川世河遠和多留止天与美侍个留
ある人いやしき名取りて遠江国へまかるとて
初瀬河を渡るとてよみ侍りける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 者川世可者和多留世佐部也尓己留良无与尓寸美可多幾和可三止於毛部者
定家 者川世河和多留世佐部也尓己留良无世尓寸美可多幾和可身止思部者
和歌 はつせかは わたるせさへや にこるらむ よにすみかたき わかみとおもへは
解釈 初瀬河渡る瀬さへや濁るらん世に住みがたき我が身と思へば

歌番号一三五一
多和礼之万遠美天
多和礼之万遠見天
たはれ島を見て

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 奈尓之於者々安多尓曽於毛不堂者礼之万奈美乃奴礼幾奴以久与幾川良无
定家 名尓之於者々安多尓曽思堂者礼之万浪乃奴礼幾奴以久与幾川良无
和歌 なにしおはは あたにそおもふ たはれしま なみのぬれきぬ いくよきつらむ
解釈 名にし負はばあだにぞ思ふたはれ島浪の濡衣いく夜着つらん

歌番号一三五二
安徒万部万可利个留尓寸幾奴留可多己比之久於本衣
个留本止尓可者遠和多利个留尓奈美乃多知
遣累遠三天
安徒万部万可利个留尓寸幾奴留方己比之久於本衣
个留本止尓河遠和多利个留尓奈美乃多知
遣累遠見天
東へまかりけるに、過ぎぬる方恋しくおぼえ
けるほどに、河を渡りけるに、浪の立ち
けるを見て

奈利比良乃安曾无
業平朝臣
業平朝臣(在原業平)

原文 伊止々之久寸幾由久可多乃己比之幾尓宇良也末之久毛可部留奈美可奈
定家 伊止々之久寸幾由久方乃己比之幾尓宇良山之久毛帰浪哉
和歌 いととしく すきゆくかたの こひしきに うらやましくも かへるなみかな
解釈 いとどしく過ぎ行く方の恋しきにうら山しくも帰る浪かな

歌番号一三五三
志良也万部万宇天个留尓美知奈可与利多与利乃
飛止尓川个天徒可者之个留
志良山部万宇天个留尓美知中与利多与利乃
人尓川个天徒可者之个留
白山へまうでけるに道中より便りの
人につけてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 美也己満天遠止尓布利久留志良也万者由幾川幾可多幾止己呂奈利个利
定家 宮己満天遠止尓布利久留白山者由幾川幾可多幾所奈利个利
和歌 みやこまて おとにふりくる しらやまは ゆきつきかたき ところなりけり
解釈 都まで音に降り来る白山は行き着きがたき所なりけり

歌番号一三五四
奈可波良乃武祢幾可美乃々久尓部万可利久多利者部利个留
尓美知尓於无奈乃以部尓也止利天以比川幾天佐利可多久
於保衣个礼者布川可美川可者部利天也武己止奈幾己止尓与利
天満可利多知个礼者幾奴遠川々美天曽礼可宇部尓
加幾天遠久利者部利个留
奈可波良乃武祢幾可美乃々久尓部万可利久多利侍个留
尓美知尓女乃家尓也止利天以比川幾天佐利可多久
於保衣个礼者二三日侍天也武己止奈幾事尓与利
天満可利多知个礼者幾奴遠川々美天曽礼可宇部尓
加幾天遠久利侍个留
中原宗興が美濃国へまかり下り侍りける
に道に女の家に宿りて、言ひつきて去りがたく
おぼえければ、二三日侍りてやむごとなき、事により
て、まかりたちければ、絹を包みてそれが上に
書きて贈り侍りける

奈可者良乃武祢幾
中原宗興
中原宗興

原文 也万佐止乃久左者乃川由毛志个可良无美乃之呂己呂毛奴者寸止毛幾与
定家 山佐止乃草者乃川由毛志个可良无美乃之呂衣奴者寸止毛幾与
和歌 やまさとの くさはのつゆも しけからむ みのしろころも ぬはすともきよ
解釈 山里の草葉の露も繁からん蓑代衣縫はずとも着よ

歌番号一三五五
止左与利満可利乃本利个留布祢乃宇知尓天美
者部利个留尓也万乃者奈良天川幾乃奈美乃奈可与利
以徒留也宇尓美衣个礼者武可之安倍乃奈可末呂可
毛呂己之尓天布利左計美礼者止以部留
己止遠於毛比也利天
土左与利満可利乃本利个留舟乃宇知尓天見
侍个留尓山乃者奈良天月乃浪乃奈可与利
以徒留也宇尓見衣个礼者武可之安倍乃奈可末呂可
毛呂己之尓天布利左計見礼者止以部留
己止遠思也利天
土左よりまかり上りける舟のうちにて見
侍りけるに、山の端ならで月の浪の中より
出づるやうに見えければ、昔安倍仲麿が
唐土にて「ふりさけ見れば」と言へる
ことを思ひやりて

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 美也己尓天也万乃者尓美之川幾奈礼止宇美与利以天々宇美尓己曽以礼
定家 宮己尓天山乃者尓見之月奈礼止海与利以天々海尓己曽以礼
和歌 みやこにて やまのはにみし つきなれと うみよりいてて うみにこそいれ
解釈 都にて山の端に見し月なれど海より出でて海にこそ入れ

歌番号一三五六
保宇己宇乃美也乃多幾止以不止己呂美八曽奈之个留於保武止毛尓天
法皇宮乃多幾止以不所御覧之个留御止毛尓天
法皇、宮の滝といふ所御覧じける御供にて

春可者良乃美幾乃於本以万宇知幾三
菅原右大臣
菅原右大臣

原文 美川比幾乃志良以止者部天遠留波多者多比乃己呂毛尓多知也可左祢无
定家 水比幾乃志良以止者部天遠留波多者旅乃衣尓多知也可左祢无
和歌 みつひきの しらいとはへて おるはたは たひのころもに たちやかさねむ
解釈 水引きの白糸はへて織る機は旅の衣に裁ちや重ねん

歌番号一三五七
美知末可利个留川以天尓比久良之乃也万遠万可利者部利天
道末可利个留川以天尓比久良之乃山遠万可利侍天
道まかりけるついてに、ひくらしの山をまかり侍りて

春可者良乃美幾乃於本以万宇知幾三
菅原右大臣
菅原右大臣

原文 飛久良之乃也満知遠久良美左与布遣天己乃寸恵己止尓毛美知天良世留
定家 飛久良之乃山知遠久良美左与布遣天己乃寸恵己止尓毛美知天良世留
和歌 ひくらしの やまちをくらみ さよふけて このすゑことに もみちてらせる
解釈 ひぐらしの山路を暗み小夜更けて木の末ごとに紅葉照らせる

歌番号一三五八
者徒世部万宇川止天也万乃部止以不和多利尓天与三者部利个留
者徒世部万宇川止天山乃部止以不和多利尓天与三侍个留
初瀬へ詣づとて山の辺といふわたりにてよみ侍りける

以世
伊勢
伊勢

原文 久左万久良堂比止奈利奈者也万乃部尓志良久毛奈良奴和礼也々止良无
定家 草枕堂比止奈利奈者山乃部尓志良久毛奈良奴我也々止良无
和歌 くさまくら たひとなりなは やまのへに しらくもならぬ われややとらむ
解釈 草枕旅となりなば山の辺に白雲ならぬ我や宿らん

歌番号一三五九
宇知止乃止以不止己呂遠
宇知止乃止以不所遠
宇治殿といふ所を

以世
伊勢
伊勢

原文 美川毛世尓宇幾奴留止幾者志可良美乃宇知乃止乃止毛美恵奴毛美知八
定家 水毛世尓宇幾奴留時者志可良美乃宇知乃止乃止毛見恵奴毛美知八
和歌 みつもせに うきたるときは しからみの うちのとのとも みえぬもみちは
解釈 水もせに浮きぬる時はしがらみの内の外のとも見えぬもみぢ葉

歌番号一三六〇
宇美乃本止利尓天己礼可礼世宇衣宇之者部利个留川以天尓
海乃本止利尓天己礼可礼世宇衣宇之侍个留川以天尓
海のほとりにて、これかれ逍遥し侍りけるついでに

己末知
己末知
こまち(小野小町)

原文 者奈左幾天美奈良奴毛乃者和多川宇三乃加左之尓左世留於幾川志良奈美
定家 花左幾天美奈良奴物者和多川宇三乃加左之尓左世留於幾川白浪
和歌 はなさきて みならぬものは わたつうみの かさしにさせる おきつしらなみ
解釈 花咲きて実ならぬ物はわたつうみのかざしに挿せる沖つ白浪

歌番号一三六一
安徒万奈留飛止乃毛止部満可利个留三知尓佐可美乃
阿之可良乃世幾尓天於无奈乃美也己尓万可利乃本利个留
尓安比天
安徒万奈留人乃毛止部満可利个留道尓佐可美乃
阿之可良乃世幾尓天女乃京尓万可利乃本利个留
尓安比天
東なる人のもとへまかりける道に、相模の
足柄の関にて、女の京にまかり上りける
に逢ひて

之无世為保宇之
真静法師
真静法師

原文 安之可良乃世幾乃也万知遠由久飛止者志留止志良奴毛宇止可良奴可奈
定家 安之可良乃世幾乃山地遠由久人者志留止志良奴毛宇止可良奴哉
和歌 あしからの せきのやまちを ゆくひとは しるもしらぬも うとからぬかな
解釈 足柄の関の山路を行く人は知るも知らぬも疎からぬかな

歌番号一三六二
保宇己宇止遠幾止己呂尓也万布美之多末宇天美也己尓
加部利多万不尓多比也止利之太末宇天於保武止毛
尓佐布良不堂宇曽久宇多与万世堂万比个留尓
法皇止遠幾所尓山布美之多末宇天京尓
加部利多万不尓多比也止利之太末宇天御止毛
尓佐布良不道俗宇多与万世給个留尓
法皇、遠き所に山踏みしたまうて京に
帰りたまふに、旅宿りしたまうて、御供
にさぶらふ道俗歌よませ給ひけるに

之也宇世以之也宇保宇
僧正聖宝
僧正聖宝

原文 飛止己止尓遣不/\止乃美己比良留々美也己知可久毛奈利尓个留可奈
定家 人己止尓遣不/\止乃美己比良留々宮己知可久毛成尓个留哉
和歌 ひとことに けふけふとのみ こひらるる みやこちかくも なりにけるかな
解釈 人ごとに今日今日とのみ恋ひらるる都近くもなりにけるかな

歌番号一三六三
止左与利尓武者天々乃本利者部利个留尓布祢乃宇知尓天
川幾遠美天
土左与利任者天々乃本利侍个留尓舟乃宇知尓天
月遠見天
土左より任果てて上り侍りけるに、舟のうちにて
月を見て

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 天累川幾乃奈可留々美礼者安満乃可八以川留三那止者宇美尓曽安利个留
定家 天累月乃奈可留々見礼者安満乃河以川留三那止者海尓曽有个留
和歌 てるつきの なかるるみれは あまのかは いつるみなとは うみにそありける
解釈 照る月の流るる見れば天の河出づる港は海にぞ有りける

歌番号一三六四
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

天以之為无乃於保美宇多
亭子院御製
亭子院御製

原文 久差万久良毛美知武之呂尓加部多良波己々呂遠久多久毛乃奈良万之也
定家 草枕紅葉武之呂尓加部多良波心遠久多久物奈良万之也
和歌 くさまくら もみちむしろに かへたらは こころをくたく ものならましや
解釈 草枕紅葉むしろに代へたらば心を砕く物ならましや

歌番号一三六五
美也己尓於毛不飛止者部利天止遠幾止己呂与利加部利万宇天幾
个留美知尓止々万利天奈可川幾者可利尓
京尓思不人侍天止遠幾所与利加部利万宇天幾
个留美知尓止々万利天九月許尓
京に思ふ人侍りて、遠き所より帰りまうで来
ける道に留まりて、九月ばかりに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 於毛不飛止安利天加部礼者以川之可乃川万々川与為乃己衛曽可奈之幾
定家 思不人安利天加部礼者以川之可乃川万々川与為乃己衛曽可奈之幾
和歌 おもふひと ありてかへれは いつしかの つままつよひの こゑそかなしき
解釈 思ふ人ありて帰ればいつしかの妻待つ宵の声ぞ悲しき

歌番号一三六六
美也己尓於毛不飛止者部利天止遠幾止己呂与利加部利万宇天幾
个留美知尓止々万利天奈可川幾者可利尓
京尓思不人侍天止遠幾所与利加部利万宇天幾
个留美知尓止々万利天九月許尓
京に思ふ人侍りて、遠き所より帰りまうで来
ける道に留まりて、九月ばかりに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 久左万久良由不天者可利八奈尓奈礼也徒由毛奈美多毛越幾可部利川々
定家 草枕由不天許八奈尓奈礼也徒由毛奈美多毛越幾可部利川々
和歌 くさまくら ゆふてはかりは なになれや つゆもなみたも おきかへりつつ
解釈 草枕結ふてばかりは何なれや露も涙も置きかへりつつ

歌番号一三六七
美也乃多幾止以不止己呂尓保宇己宇於者之末之多利
个留尓於保世己止安利天
宮乃多幾止以不所尓法皇於者之末之多利
个留尓於保世己止安利天
宮の滝といふ所に法皇おはしましたり
けるに仰せ言ありて

曽世以保宇之
素性法師
素性法師

原文 安幾也万尓万止不己々呂遠見也多幾乃堂幾乃志良安和尓計知也者天々武
定家 秋山尓万止不心遠見也多幾乃堂幾乃志良安和尓計知也者天々武
和歌 あきやまに まとふこころを みやたきの たきのしらあわに けちやはててむ
解釈 秋山にまどふ心を宮滝の滝の白泡に消ちや果ててむ

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