読書日記

いろいろな本のレビュー

中国汚染  相川 泰 ソフトバンク新書

2008-08-16 10:23:57 | Weblog

中国汚染  相川 泰 ソフトバンク新書


 中国の深刻な環境汚染の実態をレポしたもの。2005年に起きた吉林省の化学工場爆発事故とそれによる松花江汚染は、国際河川(ロシア側ではアムール川)の大規模汚染であることに加え、十日間にわたって汚染の事実が隠蔽され、二重の意味で世界を震撼させた。本書はこの事件を核に中国の環境汚染の核心に迫っている。汚染によって特に被害を被っているのは、汚染された水を使う農民だ。「がん」が多発する農村の傍には化学工場があることから原因ははっきりしているのに、それを指導できない地方政府の問題点が、指摘されている。すなわち公害企業はその地方の経済発展を担っているゆえに、閉鎖等の厳しい指導をすると税金(法人税)が入らなくなり、たちまち予算的に苦しくなるということと、地方の幹部が会社とつるんで私腹を肥やしているので、大目に見てしまうということだ。地方の行政は人民が直接選挙で選べる範囲は限定されており、幹部になると直接中央の指示で選ばれるので、民意が反映されることはない。この構造がネックになって中国全土で環境汚染が進行しているというわけだ。
 オリンピック会場の北京はスモッグに覆われ、アスリートから評判が悪い。北京一つをとってもこの状況なのだから、他は推して知るべしだろう。公害は1970年代から問題になっていたという本書の指摘があるが、それが表に出て来ないということがこの国の問題点だ。情報が公開されないという体制の問題が、ここへ来て大きな問題になっているのだ。体制の護持と民意の反映、この二つは光と影の関係であるがゆえに、同じ土俵に出てくることは難しいかも知れない。国民が資本主義の美酒の味を知ってしまった以上、政治体制だけを一党独裁でやるのはもはや無理ではないかと思う。14億人のうち7億人ぐらいが生き残ればそれで十分というのであれば話は簡単だが、そのような状況になれば、日本も生き残れないだろう。中国の環境問題はとりもなおさず日本の環境問題でもあるのだ。北東アジアの連帯とはまずこの一点に絞って議論すべきと考える。

中国が隠し続けるチベットの真実 ペマ・ギャルポ 扶桑社新書

2008-08-16 08:47:24 | Weblog

中国が隠し続けるチベットの真実 ペマ・ギャルポ 扶桑社新書


 チベットの騒乱は中国のチベット支配に対する矛盾が表面化したもので、当然の結果といえる。本書はチベット人から見た中国共産党のやり方に対する批判を述べたものだ。毛沢東は封建支配からチベットを解放するという大義名分で軍事介入し、支配したが、もともとチベット人だけの仏教国に封建支配もくそもない。毛にすればインドを牽制するためにもチベットは地勢的に重要な場所という認識があったのだろう。中国共産党の帝国主義的側面が一番悪い形で現れたものと言える。胡錦濤国家主席は若くして中央の政治局員となったが、チベット自治区の責任者として独立運動を徹底的に押さえ込んだ功績を認められたからと言われている。おりしもオリンピック開催に合わせて暴動が起きたのも何かの因果だ。
 チベットは青海省の西寧からラサまでの高原鉄道の開通で最近注目を浴びてきたが、著者によればチベットの鉱産物輸送や軍事的目的の為らしい。また開通によって漢人にビジネスチャンスを与えることになり、敬虔な仏教徒の多いこの地の人々を拝金主義の毒で麻痺させ、仏教を冒涜するやり口で経済発展の渦に巻き込もうとしていた矢先、この暴動が起こったのである。今の中国の経済発展は極貧の農民が急に大金を手にした時の感じに似ている。今までの貧しさに耐えてきた代償として豊かな生活を一気に手に入れたいという焦りの感情に分別も何も無くなっている。
 オリンピックを国家の威信を賭けて成功させようという強い意志は開会式を見て感じたが、その陰で水不足に悩む農民がどれだけ泣いていることか。式後の国家運営は多難を極めるであろうことは想像に難くない。異民族と農民問題、環境と経済格差問題、そこに政治体制と経済体制のねじれが加わると国家の舵取りは容易ではない。