中国汚染 相川 泰 ソフトバンク新書
中国の深刻な環境汚染の実態をレポしたもの。2005年に起きた吉林省の化学工場爆発事故とそれによる松花江汚染は、国際河川(ロシア側ではアムール川)の大規模汚染であることに加え、十日間にわたって汚染の事実が隠蔽され、二重の意味で世界を震撼させた。本書はこの事件を核に中国の環境汚染の核心に迫っている。汚染によって特に被害を被っているのは、汚染された水を使う農民だ。「がん」が多発する農村の傍には化学工場があることから原因ははっきりしているのに、それを指導できない地方政府の問題点が、指摘されている。すなわち公害企業はその地方の経済発展を担っているゆえに、閉鎖等の厳しい指導をすると税金(法人税)が入らなくなり、たちまち予算的に苦しくなるということと、地方の幹部が会社とつるんで私腹を肥やしているので、大目に見てしまうということだ。地方の行政は人民が直接選挙で選べる範囲は限定されており、幹部になると直接中央の指示で選ばれるので、民意が反映されることはない。この構造がネックになって中国全土で環境汚染が進行しているというわけだ。
オリンピック会場の北京はスモッグに覆われ、アスリートから評判が悪い。北京一つをとってもこの状況なのだから、他は推して知るべしだろう。公害は1970年代から問題になっていたという本書の指摘があるが、それが表に出て来ないということがこの国の問題点だ。情報が公開されないという体制の問題が、ここへ来て大きな問題になっているのだ。体制の護持と民意の反映、この二つは光と影の関係であるがゆえに、同じ土俵に出てくることは難しいかも知れない。国民が資本主義の美酒の味を知ってしまった以上、政治体制だけを一党独裁でやるのはもはや無理ではないかと思う。14億人のうち7億人ぐらいが生き残ればそれで十分というのであれば話は簡単だが、そのような状況になれば、日本も生き残れないだろう。中国の環境問題はとりもなおさず日本の環境問題でもあるのだ。北東アジアの連帯とはまずこの一点に絞って議論すべきと考える。