弱き者の生き方 大塚初重 五木寛之 毎日新聞社
戦争体験という過酷な人生を余儀なくされた人は多い。この二人も外地からの引き上げ、兵役での二度に渡る輸送船沈没に見舞われた経験を持つ。消し去れない負の遺産を以後の人生でどう処理するか、難しい問題である。五木氏は小説家として、大塚氏は考古学者として活動する中で原体験と向き合ってきたのである。特に大塚氏の苦学力行ぶりは、現代人が見失っている「努力」というものを再認識させてくれる。
本書のような対談形式のものを読んで癒され、元気をもらう人は多いのであろう。でもそれは他人の伝記を読むのと同じで、読後数日で消え去っていく感動であろう。それがこの手の本の限界だ。五木は50歳で作家を休業して、仏教の研究のため龍谷大学に入学している。その後、人生の生き方に関する本をたくさん出して部数を重ねている。仏教研究の成果を小説の形式で発表するのが作家の仕事と思うが、この作業は時間と想像力が必要なので、この方法は採らないのだろう。今や苦悩教の教祖の観がある。苦悩すればするほど本が売れて、お金が儲かるという理想的な仙境に安住している。羨ましい限りだ。