東京・台東借地借家人組合1

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【判例】 更新料支払請求裁判 (東京地裁平成24年11月15日判決)

2012年12月04日 | 更新料(借地)判例

 判  例

東京地方裁判所 平成24年11月15日 判決言渡
平成22年(ワ)第41587号更新料等請求事件

 

           主           文

1 原告(賃貸人)の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

           事 実 及 び 理 由

第1 (賃貸人の)請求

 1 主位的請求

(1) 被告(賃借人)は、原告(賃貸人)に対し、247万6000円を支払え。

(2) 原告(賃貸人)と被告(賃借人)間の別紙物件目録記載1の土地の賃借権は普通建物所有を目的とする賃借権であることを確認する。

 2 予備的請求

  被告(賃借人)は、原告(賃貸人)に対し、別紙物件目録記載2の建物を収去して、同目録記載1の土地を明け渡せ。

第2 事案の概要 

  本件は、土地の所有者である原告が、その借地人である被告に対し、主位的に、被告所有の借地上の建物が普通(非堅固)建物(以下「普通建物」という。)であるとして、その確認と土地賃貸借契約更新に伴う更新料の支払いを求め、仮に同建物が堅固建物である場合には、予備的に、土地賃貸借契約の更新を拒絶するとして、同建物の収去、土地明渡を求める事案である。 

 1 前提事実(争いのない事実、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 賃貸人(原告の夫、以下Xという。)は、賃借人(被告の父、以下Yという。)に対し、昭和21年11月5日、別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)を賃貸した(以下「本件賃貸借契約」という。)。

(2) X(賃貸人)とY(賃借人)は、昭和41年11月5日、本件賃貸借契約を下記内容で更新した(甲3の1)。 

     賃貸借期間  同日から昭和61年11月4日まで

     賃     料  月額1860円

     目     的  普通建物所有

(3) Y(賃借人)は、X(賃貸人)に対し、昭和53年1月17日ころ、本件と地上の建物を耐火構造(簡易耐火構造)に建て替えることを申し出、X(賃貸人)は、承諾料85万6000円の支払いを条件に、これを承諾した(甲の2)。

(4) Y(賃借人)は、昭和53年12月12日、本件と地上に別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)を新築した(甲4)。

(5) X(賃貸人)とY(賃借人)は、昭和64年1月1日、本件賃貸借を下記内容で更新した(甲3の3)。

      賃貸期間  同日から昭和83年(平成20年)12月31日まで

      賃   料  月額2万3300円

      目   的  普通建物所有

(6) X(賃貸人)は、平成15年6月14日死亡し、原告が相続により本件土地の所有権を取得し、本件賃貸借契約の賃貸人の地位を承継した。

(7) Y(賃借人)は、平成16年2月24日死亡し、被告が相続により本件建物の所有権を取得し、本件賃貸借の賃借人の地位を承継した。

2 争点及び当事者の主張

  本件の争点は、①本件建物が堅固建物か否か、②本件建物が普通建物である場合に、借地法7条の適用があるか、③本件建物が堅固建物のである場合に、更新拒絶の正当事由があるのかである。

(1) 本件建物が普通建物である場合(借地法7条の適用の有無・更新料支払いの合意の有無)

【原告(賃貸人)の主張】

 ア 被告は本件建物が堅固建物であると主張しているが、本件建物は普通建物である。

 イ X(賃貸人)とY(賃借人)は、本件賃貸借契約において、更新料を支払うと口頭で合意していた。

 ウ 本件賃貸借契約は、普通建物を目的とするものであるから、昭和64年1月1日に更新された後、平成20年12月31日に期間が満了した。

 エ 更新料の額は、坪単価132万円の1割で計算すれば、247万600円となる。

 オ なお、本件建物は、昭和53年12月12日に建て替えられており、借地法7条によれば、普通建物については滅失の日から20年間借地権が存在することになるので、平成10年12月12日が満了日となるが、借地非訟事件及び不動産取引の実務では、借地法7条の適用はないとの取り扱いがなされており、上記のとおり、昭和64年1月1日契約更新により、平成20年12月31日に期間が満了したというべきである。

 カ よって、原告(賃貸人)は、被告(賃借人)に対し、更新料として247万6000円の支払を求め、さらに、本件賃貸借に基づく借地権が普通建物所有を目的とするものであることの確認を求める。

【被告(賃借人)の主張】

 ア 本件建物は堅固建物である。

 イ 借地法7条は、強行規定であり(同11条)、適用がないとする根拠がない。

 ウ 仮に、平成20年12月31日に期間満了を迎えたとしても、X(賃貸人)とY(賃借人)が、更新料を支払うと口頭で合意した事実はなく、更新料を求める根拠はない。

(2) 本件建物が堅固建物である場合(契約更新拒絶の正当事由の有無)

【原告(賃貸人)の主張】 

 ア 本件建物は、昭和53年12月12日に建て替えられているが、その際に本件建物が堅固建物となったとすれば、借地法7条により、建て替え後30年を経た平成20年12月12日に借地権の期間が満了する。

 イ 原告(賃貸人)は、被告に対し、平成21年1月5日通知書で本件土地の使用継続について異議を述べた。

 ウ 原告(賃貸人)による更新拒絶には次のとおり正当事由がある。

 原告(賃貸人)の長男は、昭和35年生まれであって、妻と長女(小学校3年生)、長男(小学校1年生)の4人で、原告(賃貸人)の住所地から17から18分のところに1戸建て住宅を月22万5000円の家賃で賃借して、原告(賃貸人)所有の不動産を管理している。

 原告(賃貸人)は、本件土地から徒歩5分程度の至近距離に居住しているものであるが、現在78歳で要介護の状況にある。

 原告(賃貸人)としては、本件土地の返還を受けて、長男に自宅建物を建築させ、安心して将来にわたり、長男夫婦から介護を受けられるようにしたいと希望している。

 Y(賃借人)は、本件建物に建て替えるにあたって、普通建物に建て替えると偽って堅固な建物に建て替えたものであって、そのような事実は正当事由に斟酌されるべきである。

 原告(賃貸人)は、正当事由の補完として、1000万円及び20%を限度とする裁判所の裁量による増額の給付を申し出る。

【被告(賃借人)の主張】

 原告(賃貸人)による更新拒絶には正当事由がない。

 原告(賃貸人)、その長男、次男は、本件土地の近隣に複数の土地建物を所有しており、本件土地を自己使用する必要性がない。

 他方、被告(賃借人)及びその親族は、祖父母の代から70年近く本件土地で居住してきたものであり、現在は、心筋梗塞を患ったこともある祖母(74歳)とともに、被告(賃借人)夫婦、次男(22歳)、長女(20歳)とともに本件建物を生活の本拠としており、他にめぼしい不動産を所有していない。

 また、被告(賃借人)は、本件建物1階で建築プロデュース業を約20年営んできた。

 このように、被告(賃借人)は、本件土地を自己使用する必要性が高く、原告(賃貸人)がいくら補完金を給付しても、正当事由が存在するとは到底いえない。

第3 当裁判所の判断

 1 本件建物が堅固建物か否か

(1) 前記前提事実、文中引用の証拠及び弁論の全趣旨からすれば、
①本件建物は昭和53年1月17日ころに耐火構造(簡易耐火構造)に建て替えるために建築されたものであること、
②不動産登記簿上に建物の構造として鉄骨造陸屋根4階建とされていること(甲4)、
③建物の外観上も鉄骨造陸屋根4階建と矛盾する点はないこと(乙1の1、2)、
④本件建物の設計図面には、部材の使用材料として鉄骨が用いられており、その形状として種々のH型鋼が指示されていること(乙3の10)、
⑤梁と柱に同鉄骨を使用するよう指示されていること(乙3の8、9)、
⑥同図面には鉄骨を溶接するよう指示があり(乙3に10)、また、住宅として使用する建物であることからすれば、本件建物は堅固建物であると認められる。

(2) そして、借地法7条における堅固建物と普通建物の区別は新築された建物についての区別であって本来の借地権が目的としていた建物についての区別ではないと解すべきであるから、堅固建物を目的とした借地権として更新されたと認められる。

(3) 本件建物の前の建物がいつ解体されて滅失したかは証拠上判然としないが、本件建物が昭和53年12月12日に建て替えられているから、遅くとも同日までに滅失したというべきであり、同日を借地法7条の起算日と認めるのが相当である(当事者も明示的に争っていない。)。

(4) また、原告は、本件建物が普通建物であれば借地法7条が適用されず、堅固建物であれば適用されるべきであると主張するが、同条は、片面強行法規であって(同法11条)、土地所有者である原告の上記恣意的な主張は認められないというべきであり、同法7条の適用がある。

(5) したがって、普通建物を前提とする原告(賃貸人)の主位的請求はいずれも理由がないというべきである。

 2 契約更新拒絶の正当事由の有無

(1) 上記のとおり、本件建物は堅固建物であると認められるところ、原告(賃貸人)は、本件賃貸借契約に基づく借地権は、平成20年12月12日に満了したところ、被告が本件土地を使用継続しているため、平成21年1月5日に異議を述べたと主張している。

 そこで、本件賃貸借契約が法定更新されているか否か、借地法4条1項但し書きに規定する正当事由が存するか検討する。

(2) 原告(賃貸人)による本件土地の使用の必要性

 原告(賃貸人)は、
①要介護状況にあるところ、原告(賃貸人)の自宅から徒歩5分程度の至近距離にある本件土地を被告から返還してもらいたい、
②原告(賃貸人)の自宅から17ないし18分程度の借家に住む原告(賃貸人)の長男に、本件土地上に自宅を建築させ、長男夫婦から介護を受けられるようにするため、本件土地を使用する必要性があると主張する。

 この点、証拠(証人原告の長男、文中引用の証拠)及び弁論の全趣旨によれば、
①原告(賃貸人)は79歳で寝たきりではないが定期的に病院に行く必要があり、原告の長男が送っていること、
②原告(賃貸人)は、浅草A丁目に所在する223平方メートルある自宅マンションに次男と2人で居住していること(乙5)、
③次男は独身で原告の介護を行うのは困難であること、
④原告(賃貸人)と長男は、浅草周辺に土地を所有し、少なくも70から80人程度の借地人に土地を貸すなどしていること、
⑤このうち、少なくても、原告(賃貸人)は、浅草B丁目に所在する6階建てのマンション1棟(乙7)を、浅草B丁目に所在する3筆の不動産(乙11の2ないし4)を所有していること、
⑥原告(賃貸人)の長男は浅草A丁目、同B丁目に宅地を所有していること(乙11の5、12の2)、
⑦原告(賃貸人)の次男は原告(賃貸人)が居住するマンションに6室と駐車場を所有していること(乙6、13に1、2)、
⑧原告(賃貸人)は、もともと、被告に対して、更新料の支払いを求めており(甲6)、
⑨これに対して被告(賃借人)が本件建物が堅固建物であると主張して更新料の支払いを拒否したことから、初めて異議を述べたこと(甲8の1)が認められる。

 そうすると、
①原告(賃貸人)は一定の介護を要するとはいえ、病院の送迎等のために通いで対応可能な程度の状況にあり、常時介護の必要が切迫しているわけではないこと、
②原告(賃貸人)及びその子らは、多数の不動産を原告の自宅付近に所有していること、
②原告(賃貸人)の長男は、現状でも、原告の自宅とさほど遠くない場所に居住しており、更に近隣に転居する方が便利であるとしても、不動産を賃借したり、あるいは、原告が居住するマンションで同居したり、別室を確保したりするなど、代替手段があり、本件土地に自宅を新築する必然性がないこと、
③原告(賃貸人)はもともとは、更新料の支払があれば被告(賃借人)に本件土地を使用継続を認める意向だったことが認められ、原告(賃貸人)に本件土地の使用を必要とする事情はかなり乏しいといわざるをえない。

(3) 被告(賃借人)による本件土地の使用の必要性

 証拠(乙8、10、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、
①被告(賃借人)は、74歳の母親、妻、2人の子供の5人で本件建物に居住していること、
②被告(賃借人)の祖父母の代に遡ると遅くとも戦後間もなくして同所で居住していること、
③被告(賃借人)は本件土地周辺には不動産を有していないこと、
④被告(賃借人)は平成5年から本件建物の1階でインテリアの会社を経営していることが認められれ、本件土地を自宅土地、会社として現に使用し、今後も使用する必要があると認められる。

(4) 上記からすれば、被告(賃借人)に本件土地を自己使用する必要性が認められるのに対し、原告(賃貸人)にはその必要性がほとんど認められない

 また、本件建物が堅固建物であるのに、建築時には非堅固であることを前提としていたとしても、昭和53年に建てた建物の性質がいかなるものであるかは、平成20年12月段階での正当事由の判断において、斟酌すべき事由にはならないというべきであるし、建築後30年も原告及びその被相続人は何等異議を述べてこなかったのであるから、なおさら正当事由を基礎づける事情とはならないというべきである。

 そうすると、そもそも、金銭的な補償をもってしても、正当事由を補完することはできないというべきである。

 以上からすれば、正当事由を認められない。

(5) したがって、本件賃貸借契約は法定更新されているから、原告(賃貸人)の明渡請求は理由がなく、予備的請求も認められない。

  よって、原告(賃貸人)の請求は、いずれも理由がないから、主文のとおり判決する。


   東京地方裁判所民事第25部

            裁 判 官        西   村          修

 

 

東京・台東借地借家人組合

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