敷金(保証金)返還が不確実と予想される場合は
家賃の不払で実質的な敷金回収を
(問) 引越を考えているが、噂によると家主は全く敷金を返さないことで有名らしい。敷金は家賃の3箇月分を差入れている。自衛策として引越日の3箇月前に家主に文書で解約予告を行い、3箇月分の家賃を不払を実行し、退去する。未払い家賃は敷金で精算してもらうという方法で何か問題があるのか。
(答) 敷金の回収見込みが無い場合に、家賃の不払を実行して実質上敷金を回収する方策を是認する賃借人にとっては画期的な最高裁判決(2002年3月28日)がある。この判決は「判例紹介」に掲載されているので参照。
尚、最高裁判決の全文は こちらから
〈事実の概要〉
裁判は抵当権者(信託銀行)が物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえ,取立権に基づき滞納家賃の支払等を求めた事案
①A所有の建物をBが賃借し、それをYに転貸していた。Yは家賃100万円、敷金1000万円でBと転貸借契約を結んでいた。
②Yの入居前からA所有の建物は信託銀行によって抵当権が設定されていた。
③Aの経済的破綻が心配でYはBに対して平成10年3月30日に6箇月後に退去するという契約解除を通告し、敷金の回収目的から一方的に6箇月分の家賃の支払を停止した。
④Aの借入金の返済がストップしたので信託銀行は、抵当権者の物上代位権を行使して、平成10年6月YからBへの賃料債権を差押えた。
⑤Yは家賃(600万円)を未払いのまま9月30日に建物を退去した。
⑥信託銀行は差押え家賃を支払えとYを提訴した。
裁判の争点は、賃貸借契約が終了し、目的物が明け渡された場合における敷金の賃料への充当は、物上代位権の行使によって妨げられるか否かがで争われた。
Yは裁判で未払い賃料は、建物明渡時に敷金によって当然に充当され消滅するものであると主張した。
最高裁は「賃料債権等の面からみれば,目的物の返還時に残存する賃料債権等は敷金が存在する限度において敷金の充当により当然に消滅することになる。このような敷金の充当による未払い賃料等の消滅は、敷金契約から発生する効果であって相殺のように当事者の意思表示を必要とするものでないから、民法511条によって上記当然消滅の効果が妨げられないことは明らかである」とした。
従って、「敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押えた場合においても、当該賃貸借契約が終了し、目的物が明け渡されたときは、賃料債権は、敷金の充当によりその限度で消滅する」と賃借人は抵当権者に主張することができるとしてYの主張を容れて最高裁は信託銀行を敗訴させた。
この最高裁の判決は、一方的な家賃の不払によって実質的に敷金を回収する方策を認めたもので評価出来る。明渡しが完了すれば、未払いの賃料債権は相殺の意思表示を待たずに預託されている敷金の限度で充当され、当然に賃料債権が清算される。これは敷金契約から発生する効果である。
結論、相談者は敷金の範囲内であれば、家賃の不払を実行して敷金の回収を行っても何ら問題は無い。
なお、最高裁判決は敷金の特殊性を考慮したものであって、単なる一般債権の場合には当て嵌まらない。
注意として、建物賃貸借契約書には解約予告をする場合、「乙(借主)が本契約を解除しようとしたときは、甲(貸主)に対し解除予定日の*か月前に書面により解除する旨の通知を知ることによって本契約を解除することができる」と書面で行うように書かれていることが多い。
従って、後日トラブルにならないためにも、特約されている解約予告期間前までに配達証明付き内容証明郵便で送付する。
東京・台東借地借家人組合
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