東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【判例紹介】 地主が立退料8億円支払うことで明渡の正当事由が認められた事例

2007年03月10日 | 土地明渡(借地)

 判例紹介

 地主である私立大学が、印刷材料製造販売会社に対し、立退料8億円を支払うことにより借地明渡の正当事由が認められた事例 (東京地裁昭和63年11月14日判決、判例時報1324号61頁以下)

 (事案)
 地主である私立大学は、昭和26年4月、本件土地を買い受けたが、右土地は以前から印刷材料製造販売会社の代表者が借地していた。

 本件と地売買後、右当事者間に、本件土地と、堅固建物所有目的、期間を昭和27年12月13日から30年間として賃貸借する旨の調停が成立した。

 その後、右会社代表は右会社に対し、本件借地権を譲渡し、結局本件土地の借地人が右会社になった。

 地主大学側は、昭和57年12月13日の期間満了に際し、借地人会社に対して、本件土地の使用継続についてあらかじめ異議を述べ、正当事由として、「地主大学は私立大学として学生数の増加に伴う必要校舎面積の確保のために本件敷地を利用する必要性がある。」とし、「立退料金3億円 または裁判所の決定する金員の支払を受けるのと引換」に、本件の土地の明渡しを求めた。

 これに対し、借地人会社は、長年にわたり本件土地上の建物を、本社、営業所、事務所、工場として使用してきた者であり、今尚、会社にとって重要な業務の一部のために使用し、本件建物には引続き取引先その他の関係者が多数出入りしており、会社のシンボル的な存在として本件と地上の建物を必要とすると主張した。

 (判示)
 裁判所は双方の本件建物敷地利用の必要性について、精細に検討した上でそのいずれがより必要性があるとも断定できないとし、ただ、借地人会社が本件土地を必要とする理由は専ら業務遂行上のものであって経済的対価を、地主大学が支払うことによって大学側の必要性が借地人会社の必要性を上回るとして、地主大学が借地人会社に対して8億円の立退料(本件土地の更地価格約19.5億円に借地権割合である80%を乗じた借地権価格の約5割に相当する)を支払うのと引換えに借地の明渡しをするよう判示した。

 (短評)
 本訴において、原告が本訴の申立において、「3億円または裁判所の決定する金額」を申し出たことに対し、裁判所は、原告の申し出た金額をはるかに超える立退料を定めまでして、借地明渡の正当事由を具備するものとしたが、これは立退料の金額を増額することによって正当事由を具備する方向で考慮したものであって、本来正当事由判断における金員の役割を誤ったものというべきである。また、近時、地主の方から何が何でも明渡しを求めるために、「裁判所の決定する金額」を申し出ることがあるが、これは、正当事由について借地非訟的考え方を持ち込むことであり、最高裁判所の『格段の相違のない範囲内』の考え方とも逸脱しているものといえる。      

(1990.03.)      

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

東京・台東借地借家人組合

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