【問】 保証金200万円を払って店舗を借りました。契約は、期間3年で保証金は年1割ずつ償却し、更新時に償却分を補充することになっています。償却分は払わなければならないのでしょうか。
【答】 一口に保証金といっても、その性質は一様ではなく、①敷金の性質をもつもの、②権利金の性質をもつもの、③更新料の性質をもつもの、④建設協力金としての性質をもつもの、⑤貸金としての性質をもつもの、⑥即時解約金としての性質をもつものなど様々です。勿論、これらの性質を幾つか併せ持つものも多くあります。
従って、契約書にどのような性質をもつ保証金かが書いてあればそれを基準に判断することになりますが、通常は保証金とだけ書いてある契約書がほとんどです。この場合は、様々な状況を考慮して、その保証金がどの性質をもつかを判断することになります。
あなたの場合、償却され補充される部分の保証金は、②権利金もしくは③更新料の性質をもつものと考えられます。
まず、家主と合意の上で契約を更新する場合(合意更新の場合)には、②③のいずれの場合にも償却分を補充する義務があると考えられます。なぜなら、保証金の補充を条件として更新する途を任意に選択した以上、その約束を特別な事情(例えば、その金額が合理的・常識的な範囲を超えるときは、暴利行為として民法第90条により無効になると考えられます)がない限り、借地借家法上当然に無効とする根拠がないからです。
次に、家主との合意によらずに借地借家法に定められた法定更新によって契約が更新された場合には、保証金の性質によって異なる取扱いがされる可能性があります。
②の権利金の性質をもつ保証金の場合、法定更新の場合に償却部分の保証金を実質は前払賃料であるとして、家主からの償却分の補充請求を認めた判決があります(東京高裁昭和56年9月30日判決)。
また、契約の時に、更新時には賃料の8か月分相当の保証金を支払うという約束をしたのに借家人がこれを支払わなかった場合に、この保証金が低額賃料の補充及び営業利益の対価という性質を持ち更新後の契約の重要な要素で家主・借家人間の信頼関係を維持する基盤を形成しているという理由で借家契約の解除を認めた判決もあります(東京地裁昭和59年12月26日判決)。
しかし、借地借家法の定めでは、家主に更新拒絶について正当事由が認められない限り、借家契約は従前と同一の条件で当然に更新されることになっており、保証金の補充・更新料の支払いなどは更新の条件になっていないことを考えると、これらの判決には問題があります。
③の更新料の性質をもつ保証金の場合、原則として補充義務はないとする説が有力で、これに沿う判決もあります(東京地裁昭和56年4月27日判決)。
ただし、前記の東京地裁昭和59年12月26日判決の保証金を実質的には更新料であると考える見解もあり、注意を要します。
なお、あなたに契約上不利な事態が生じている場合(例えば、建物が著しい老朽化や賃料不払その他契約違反などがあった場合など)には、家主の更新拒絶が認められる可能性があります。このようなときは、償却分の補充をして契約関係を安定させた方が安心です。
また保証金の性質は、最終的には裁判所が決定することで、償却分の補充義務についても考え方が分かれています。補充を拒絶するかどうかは、種々の状況を見て慎重に決定することが重要です。
東借連常任弁護団解説
「Q&A あなたの借地借家法」
(東京借地借家人組合連合会編)より
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