東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【Q&A】 地代の増額請求と5年の短期消滅時効の成立

2012年02月02日 | 地代の減額(増額)

(問)30年前から地代の増額請求で話し合いがつかないまま地代を供託しています。地主が亡くなり、相続人となった長男の地主の代理人の弁護士から30年前からの地代の差額を支払えと請求されています。支払に応じないと裁判にかけるといわれています。どうしたらよいでしょうか。


(答)月払いの地代など賃料債権は民法169条の短期消滅時効により5年前の地代の増額は請求できません。

 地代の増額請求は、旧借地法12条により、地主と借地人との間で地代の増額について協議が成立しない場合は、借地人は相当と認める賃料の支払をもって、債務不履行として扱わないとしています。地主に相当額を提供し、受け取らない時は法務局に供託しておけばよいのです。地主がどうしても地代を値上げしたければ、調停を経て裁判を起こし、裁判で地代が確定し借地人が支払った相当額との差額が生じた場合には、年1割の利息をつけて支払わなければなりません。

 地主は、増額請求して5年間の間に地代増額請求の調停も裁判も起こさなかったわけですから、時効により地代の差額は請求できないことになります。

 時効とは、法律上の権利関係が長年決着がつかない状態にあると社会生活が安定しないことや、昔の出来事なので証拠がなくなっているということがあります。権利の行使を怠っていた債権者である地主は保護されなくても仕方がないということです。

 地主の代理人に対しては、30年間の差額は時効の成立で差額地代の請求には応じられない旨を内容証明郵便等で回答し、あらためて過去5年間の地代について固定資産税・都市計画税を調査し、相当額について協議に応じる意思がある旨を伝えましょう。内容証明郵便の書面の内容等については、組合や組合の顧問弁護士に相談して対応してください。

 

東京借地借家人新聞より


  以下の文章は東京・台東借地借家人組合。

 「地主は、増額請求して5年間の間に地代増額請求の調停も裁判も起こさなかったわけですから、時効により地代の差額は請求できないことになります」と回答しているが、説明に問題がある。「増額請求して5年間の間」と書いているが、30年前の地代増額請求をした時が消滅時効の起算点ではない。

 弁済期が定められた債権の消滅時効は弁済期が起算点になる。その翌日が起算日になり、そこから時効は進行する。起算点を取違えているから、「30年間の差額は時効の成立」という説明になる訳である。

  次の東京地裁の判例を読めば頷ける筈である。

 地主は昭和58年12月17日に、適正地代が地主の値上げ請求金額であることの確認請求訴訟を提起した。

借地人は「本件賃料債権は月払いであるから、民法169条の5年の短期消滅時効にかかる。したがって、地主が提訴した昭和58年12月17日より5年前までに支払期日の到来している昭和53年11月までの賃料債権は、時効によって消滅した」と反論して争った。

 裁判所は、「本件賃料債権は、民法169条(注1)所定の債権に該当する。

  ところで、借地法12条2項の趣旨は、賃料の増額請求があったときは、客観的に適正な賃料額に当然に増額の効果を生じ、賃借人はその額の支払義務を負うに至るのであるが、(中略)増額についての裁判が確定するまでの間は、賃借人は、自己が相当と認める賃料を支払う限り、遅滞の責を負わないものとしたのである。(中略)

 したがって、賃料債権自体は発生し、かつ、本来の賃料支払期日に履行期が到来しているものというべきである。

 賃貸人は、その支払を求める給付の訴又はその確定を求める確認の訴を提起して、消滅時効を中断することができ、又、給付判決が確定すれば強制執行をすることも妨げられないのであって、権利を行使するについて特段の障害があるものと解することはできない。

 したがって、右のような増額請求にかかる増加額についても、所定の弁済期から消滅時効が進行を始めるものと解するべきである。

 具体的な給付請求権が時効消滅した場合には、他に特段の必要のない限り、もはや確認の利益は失われるものと解すべきである。」と、5年前までの請求を棄却した。(東京地裁昭和60年10月15日判決、判例時報1210号61頁以下)。

 (註1) 民法169条「年またはこれより短い時期によって定めた金銭その他のもの物の給付を目的とする債権は、5年間行使しないときは、消滅する。」

 弁済期が定められた債権の消滅時効は弁済期が起算点になる(註2)。平成24年1月の時点を例に採れば、賃料の支払いが後払いの毎月末日払いの場合、弁済期はその月の末日であるから、1月31日である。この場合の起算点は1月31日である。

 但し、民法上の期間を算定するとき(日、週、月又は年によって期間を定めた場合)は初日を算入しない(民法140条)ということであるから、平成24年2月1日(起算日)から時効は進行する。このように請求されている地代の増額分は、毎月、毎月5年前の分が次々と時効で消滅していく。

 (註2) 民法144条「時効の効力は、その起算日にさかのぼる。」、民法166条「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。」 

 結論、判例によれば、増額地代の差額分は例えば、後払い地代の場合、平成24年1月の時点で検討すると、弁済期が平成23年12月末日で、そこが起算点になる。従って、平成24年1月1日が時効の起算日になる。その5年前の増額賃料債権が消滅時効により、消滅する。過去25年分の増額賃料債権に関しては既に時効消滅している。

  なお、時効の利益を受ける者は、消滅時効が成立したと主張する必要がある(註3)。これを時効の援用という。勿論、黙っていたのでは時効の利益を受けられない。そこで、証拠に残すためにも、内容証明郵便で時効の援用をする。内容は、「増額請求権は民法169条の短期消滅時効により弁済期から既に5年が経過し、平成*年*月以前の分に関しては既に時効により、増額賃料債権は消滅している。従って、消滅時効部分の支払請求には応じられない」という趣旨のことを書き、配達証明付きにして地主に送り届けておく。これで時効の援用と増額請求の支払拒否の通知は終了である。

 (註3) 民法145条「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」

 援用の時期は何時までにしなければ、援用権が無くなるということはないが、要は債権者から請求があったときに援用すればいい訳である。勿論、裁判との関係で最終期限はある。第2審の口頭弁論終結までに時効を援用しなければならない(大審院大正7年7月6日判決)。


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