東京・台東借地借家人組合1

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【判例】 テレビ受信障害 (東京簡易裁判所平成20年3月21日判決)

2009年07月03日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 判例紹介

 平成20年3月21日判決言渡 東京簡易裁判所
 平成19年(少コ)第3209号損害賠償請求事件(通常手続移行)


判       決

主        文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

                    事 実 及 び 理 由

第1 請求の趣旨
 被告は原告に対し,金59万8500円及びこれに対する平成20年1月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 請求原因及び原告(会社)の主張の要旨
 (1) 原告は,平成19年8月24日,訴外Aから,被告マンションに隣接する下記の借地権付き建物(以下「原告建物」という。 )を買い受けた。売買契約の際,原告建物に後記の被告マンションによるテレビの受信障害があることは,Aないし不動産仲介業者から原告には告知されなかった。


                         記
    所   在       東京都北区a町b丁目c番地
    家屋番号       d番e
    種   類       事務所  共同住宅
    構   造       鉄骨造  陸屋根  4階建  延床面積 m2335.8
                昭和63年2月29日新築


 (2) その後,被告マンションを原因とするテレビの受信障害が発生することが判明したため,管理会社である訴外株式会社Bに問い合わせたところ,原告建物が被告マンションによる受信障害の補償エリア内にあることがわかった。原告は被告(管理組合)に対し,受信障害を解消するための対応を依頼したが,被告は同年11月12日,対応できないとの回答をした。

 (3) 原告建物の前所有者であるAは,被告マンションの建設当時,受信障害について何らの説明も受けていない。原告建物はその所在地からして受信障害が発生する可能性が極めて高い地域にあり,被告は受信障害発生の有無を調査した上で,Aにその結果を告知する義務があったのにこれを怠った。被告マンションの建設当時と現在では近辺の状況は大きく変容しているが,原告建物の受信障害は被告マンションが原因であることは間違いなく,被告は依然として受信障害対策を講じる義務を負っている。

 (4) 原告の損害及び被告の責任
原告建物のテレビ受信障害を解消するための工事費用(地上デジタル放送の受信を前提とした見積)は59万8500円であり,これを被告マンションによる受信障害の損害賠償として請求する。

2 被告(管理組合)の主張の要旨
 (1) 被告マンション(12階建て,高さ36.6メートル)の建築主である訴外株式会社Cは,平成4年の建築当時,訴外D技術協会会員のE電設株式会社に「建造物によるテレビ受信障害調査報告書 」(乙1)を作成させ,テレビの受信障害が発生すると予測された地域の住民に対し建築主の費用負担で共同受信設備を設置し,従前どおりの地上アナログテレビ放送の電波を受信できるよう対策工事を行った(乙2,3)。

 (2) 原告建物には前記の対策工事は行っておらず,この地域にケーブルテレビが導入されたのは平成8年になってからであることからすると(乙4,5),平成4年の被告マンション建築当時にはテレビの受信障害が発生していなかったものと推認される。

 (3) 昭和51年3月6日付け郵政省電波監理局長通達(乙6)によれば,共同受信施設が設置された後 新たに受信障害地域に家屋を建築するなどした 後, 「住者」が共同受信施設の利用を希望する場合は,設置者は後住者に対してこれを利用させることが望ましく,その場合の付加的設備(引込線,保安器,屋内配線等)の費用は後住者が負担するのが適当とされている。被告マンションの共同受信施設が設置された約15年後に原告建物を購入した原告は前記の後住者にあたり,被告は原告が共同受信施設を利用することは許容するが,付加的設備の費用は原告が負担すべきである。

 (4) 原告が主張する本件工事費用は,地上デジタル放送の受信を前提としたものであって(乙8) ,工事費用としては過大である。被告マンションによるテレビの受信障害対策工事は地上アナログテレビ放送を受信するためのものであって,地上アナログテレビ放送を受信するためには,共同受信設備から原告建物の保安器までの引込線をひく工事費用の5万7750円で足りる(乙9 )。

本件の争点
 被告に,原告建物についてのテレビ受信障害対策工事ないしその費用負担の義務があるか。

第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 (1) 被告マンションは平成4年に建築に着手され 平成5年9月頃完成した (甲4) 。建築当時,建築主がテレビ受信障害調査を行い,テレビの受信障害が発生すると予測された地域の住民に対しその費用負担で共同受信設備を設置し,従前どおりの地上アナログテレビ放送の電波を受信できるよう対策工事を行ったが,原告建物は対策工事の対象とはされなかった(乙1,2,3 )。

 (2) その後,平成9年9月25日頃,原告建物の前所有者であるAはF株式会社が運営するケーブルテレビに加入した(甲4,乙4,5)。

 (3) 原告は,平成19年8月24日,Aから被告マンションに隣接する原告建物を買い受けた。その際,原告はAないし不動産仲介業者から受信障害の事実を知らされず,契約書,重要事項説明書等の関係書類にもその旨の記載はない(甲1,8,9 )。


2 被告のテレビ受信障害対策工事ないしその費用負担の義務
 (1) 前記認定した事実に基づいて,まず被告マンション建設当時に原告建物に既に受信障害が発生していたかどうかについて検討する。前記の受信障害の調査結果に基づいて周辺建物に広く対策工事が行われたにもかかわらず,原告建物がその対象とされなかったことが認められる。また,原告建物の前所有者であるAがケーブルテレビに加入した目的のひとつは,受信障害を解消するためであったと解することもできるが,その時期が被告マンション建設の約4年後である平成9年9月25日頃であることからすると,その頃までの間は,A及び原告建物の賃借人等からの受信障害のクレームはなく経過したものと推認される。これらの事実からすると,被告マンション建設当時においては,原告建物について対策工事による補償を必要とするほどの受信障害は発生していなかったと推認するのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。したがって,建設当時において,被告に,原告建物のテレビ受信障害対策工事をする義務はなかったものと認められる。

 (2) 被告マンション建設の約4年後である平成9年9月25日頃までに,Aがケーブルテレビ加入の必要を感じるに至った原因は,新たな建物の建築等による近辺の状況の変容が原因である可能性を否定できないというべきである。

 (3) 以上の経過によれば,原告は,被告マンション建設後約4年あまり経過した時点から受信障害が発生し始めたと解される地域にある原告建物を,さらにその後約10年経過した時点で購入した者であり,乙6号証の電波監理局長通達にいう「後住者」にあたると解するのが相当である。本件のようなテレビ受信障害を除去するための費用の公平負担の観点からすれば,後住者には受信障害の原因者が設置した共同受信施設の利用を無償で認め,同施設までのアクセスを確保するための引込線設置等の費用は,後住者が負担すべきであると解するのが相当である。そうすると,現時点においても被告に受信障害対策工事を行う義務はなく,共同受信施設までの引込線設置等の費用負担の義務もないと解される。


3 まとめ
 以上によれば,原告主張の工事費用の当否を議論するまでもなく,被告の義務違反を理由とする原告の損害賠償請求を認めることはできない。よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして, 主文のとおり判決する。

東 京 簡 易 裁 判 所 民 事 第 9 室

藤 岡 謙 三裁 判 官

 

東京・台東借地借家人組合

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