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判例紹介
建物所有を目的とする土地賃貸借契約における建物への抵当権設定禁止の特約を無効であるとした事例 (浦和地裁60年9月30日判決、判例時報1179号103頁以下)
(事案)
AはBから建物所有の目的で借地をする際、地上建物には抵当権を設定することが出来ず、若し、これに反した場合には無催告で契約解除ができるという特約をしていた。
しかるに、Aは第三者Cに対し、建物について代物弁済の予約、抵当権、停止条件付貸借権の各設定登記(仮登記も含む)をしたほか、各種権利に基づく所有権移転請求権をAから別の第三者Dに譲渡した。
そこで、Bは、Aの行為が特約に反するものとしてそして、権利移転は、賃貸借契約における信頼関係を破壊するという理由で、契約解除し建物収去土地明渡を求めた事案である。
(判例要旨)
(1)本件契約は、建物所有目的の土地の賃貸借契約であるから、借地法の適用を受けるものであるところ、本件特約は、抵当権の設定行為を禁止するものであり、借地法第9条の3が保護している建物競売等の場合の賃借権の譲渡許可の裁判を競落人等が受け得ることにより、借地人が容易に建物に抵当権を設定しえ、金員を借入し得るという借地人の利益を予め放棄させる意味を有するものである。
(2)同法9条の3は、借地法の片面強行法規性を定める同法11条には掲げられていないが、それは、単に同法9条の3が競落人等と貸地人との関係を定めているもので、貸地人と借地人が同法9条の3が定める競落人等の権利を奪う合意としても、その合意の効力が競落人等には及ばないからというに過ぎず、同法9条の2が定める譲渡転貸の許可の裁判の場合に比べて、抵当権を設定しようとする借地人の利益を軽く扱っているからではない。
(3)従って、同法9条の3が定める建物の競落以前の段階たる借地人の抵当権設定そのものを禁止する本件特約には、同法11条の趣旨が及び、本件特約は、借地人が所有建物に抵当権を設定して金員を借入れようとすることを妨げる点において借地権者に不利益であるといえるから、無効であるといわなければならない。
(4)以上のとおり、本件特約は、原告の危惧により付与されたものに留まり、被告の本件特約に反する行為も抵当権を設定し、それが第三者に譲渡されたというに過ぎず、本件土地の利用状態に変化はないから、前記判示の本件特約が無効である旨の判断を左右しない。
また、本件特約は、借地法9条の3及び11条の趣旨により無効であり、同法は、貸地人の、特定の借地人との信頼関係を保ち続ける利益と借地人の所有建物の利用の利益を調整する目的を有する法規であるから、同法により無効とされる特約に反する行為及び抵当権の移転登記と信頼関係を破壊する行為ということはできない。
(短評)
本事案は地主側に特約を必要とする過去の経緯があったが、その経緯を問わず特約の内容自体が無効であるとしたところに意義がある。事案としても珍しいので参考までに紹介した。判決趣旨には異論がない。
(1986.10.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
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