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判例紹介
賃借人が建物修繕費を支出したことが、建物賃貸人からの賃料増額請求にあたり考慮すべき事項であるとはいえないとされた事例 (大阪地裁平成元年12月25日判決、判例タイムズ748号)
(事案)
家主は、複数の賃貸建物の借家人6人に対して、昭和63年6月1日以降の家賃増額を請求した。借家人等は、建物は戦前に築造され、現在では老朽化が進み、修繕を必要とする部分が各所にあり、それにもかかわらず、家主は本件建物を修繕しなかったので、借家人らが自分の費用で屋根、壁、塀等を修繕してきた。
だから、このことは賃料額決定に際して考慮されるべきである、と争った。なお、従前賃料と値上げの額がいくらかだったかは、掲載からは不明。
(判決要旨)
被告らは、原告が本件各建物の修繕を怠っていたので、被告らあ自らの出損で修繕してきたという事実を賃料額決定に際して考慮すべきである旨主張する。
本件各建物について修繕が必要な部分があることや、被告らが本件各建物を修繕してきたことの証拠はあるし、本件各建物がいずれも戦前に築造されたことは当事者間に争いがない。
しかしながら、仮に被告らが自らの支出で修繕をしたとしても、そのことは適正賃料の相当性の判断に影響を及ぼすべき特殊な事情に当たらない。
(説明)
賃料と修繕の関係については、いろいろな問題がある。
①家主の値上げ請求に対して、建物の修繕がされていないことを理由に値上げ額を争う場合。
②同じく、賃借人が修繕したことを理由に値上げ額を争う場合。
③同じく、賃借人が行った修繕の費用を逆請求をして争う場合。
④修繕をしない家主に対して、借家人が家賃の値下げ請求をして争う場合。
⑤家賃値上げの機会とは関係なく、賃借人が行った修繕費を家主に請求する場合。
⑥借家人行った修繕の費用を、賃料から差引いてしまう場合。
本件は②の場合であるが、本判決は、賃借人が修繕をしても家賃を安くする理由にはならないと判断した。修繕費は別途請求すればよいという考え方であり、裁判例の中では一般的なものである。
(1991.04.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
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