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判例紹介
転貸人が転借人において賃料を払わないことを理由に賃貸人に家賃の支払いを拒否したため、賃貸人が契約を解除した事例で、転借人の賃料支払い能力がなくなった事情が転貸人に責任があるかどうかは、解除の転借人に対する対抗力に影響がない。 (東京地裁平成4年5月11日判決、判例タイムズ831号164頁以下)
(事案)
X=建物所有者・賃貸人 Y①=転貸人 Y②=転借人
XはY①に建物を賃貸しY②はXの承諾の下にY①から建物を転借していたところ、Y①は、Y②が賃料の支払いをしないことを理由に、Xに対する賃料の支払いをしなかった。そこで、XはY両名に対し、契約解除して建物の明渡等を求めた。
Y②は、Y①が自分の倒産を意図して、自らの資力から充分に家賃の支払いができるのに、あえて支払いを怠り、XもY①に対する家賃の履行を求めることなく馴れ合い的に契約を解除したものであり、賃借権の放棄又は合意解除に類似するものであって、解除はY②に対抗できないと争った事案。
(判旨)
「Y②は、Y①はY②の倒産をもくろみ、保証人的立場にあるにもかかわらず、その資力からすれば容易にな賃料支払いをあえて怠っており、XもY①に対し賃料支払いの履行を真摯に求めることなく馴れ合い的に本件解除を行った旨主張する。しかし、賃借人が任意に賃料支払いを履行しないとき、賃貸人はそれだけで解除をなしえるし、これを転借人に対抗しうるというべきであって、それ以上に法的な履行強制手段等を講じた上でなければ、契約解除を転借人に対抗できないというものではない」
「もっとも、Y①は賃貸借の継続の意思を失っているために賃料の不払いを続けているという観点からみれば賃借権の放棄に類する面がないとはいえないが、Y①の賃料不払いの原因となっているのはY②の賃料不払いなのであるから、信義則上、Xに対し、賃貸借契約の解除が転借人に対抗できないと主張することは許されない。もともとY②は直接Xに対し賃料支払義務を怠っているのであって(民法613条1項)自己の転借権を保全するためには、Xに直接賃料を支払えばよいのである。そして、転借人が賃料支払い能力を失った事情が、賃借人に責任のあるものであるかどうかは、賃借人の賃料不払いを理由とする解除権の転借人に対する対抗力の有無を左右するものではないと解すべきである。」
(寸評)
本件はY①が賃料差額も得ておらず、当初からY②に使用させるもので、契約にあたりXが、賃借人の地位を上場企業又はこれに準ずる企業に限定していたため、Y①はY②のために賃借人になっていた事案。
判旨に異論はない。しかし、馴れ合い的な賃料の不払いがなされる場合もあり、その場合には、結論を異にすると思われる。特に転借人が賃借人に家賃を支払っているのに、賃借人が支払いをしない場合にまで本判決の結論を無条件に認めるべきか、検討の余地はあり得る。
(1994.07.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
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