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判例紹介
抵当権が設定されている建物の賃借人がこの賃借建物を転貸していた場合において、賃借人(転貸人)が転借人に対して有する転貸料について、抵当権者がなした抵当権に基づく物上代位による債権差押命令の申立が認められた事例 (東京高裁平成11年4月19日判決。判例時報1691号74頁)
(事案の概要)
XはA所有の建物(以下本件建物という)に根抵当権を設定したが、その後、YがAから本件建物を賃借し、Yはさらに本件建物をBに転貸した。Xは、YがBに対して有する転貸料の支払請求権(転貸料債権)について根抵当権に基づく物上代位による債権差押命令を申立て、この申立が認められた。そこで、Yは、この債権差押命令に対して不服申立(執行抗告)をし、根抵当権に基づく物上代位は抵当不動産の賃借人が有する転貸料債権には及ばないと主張して争った。
(判決の要旨)
本判決は、「抵当権者(本件ではXのこと)は、抵当権設定者(本件ではAのこと)が目的物を第三者(本件ではYのこと)に賃貸することによって賃料債権を取得した場合には、民法304条を準用する同法372条により、上記賃料債権について抵当権を行使することができる(最高裁判所平成元年10月27日判決)ところ、民法304条1項の「債務者」には、抵当不動産の所有者(A)及び第三取得者のほか、抵当不動産を抵当権設定の後に賃借した者(Y)も含まれ、したがって、抵当権設定後の賃借人(Y)が目的不動産を転貸した場合には、その転貸料債権に対しても抵当権に基づく物上代位権が及ぶと解するのが相当である」とした上で、本件については、「抗告人(Y)は、本件建物に根抵当権が設定された後、本件建物の所有者であるAから賃借したものであるから、これを転貸したことにより取得する転貸料債権には、根抵当権に基づく物上代位権が及ぶというべきである」として、Yがした本件抗告を棄却した。
(説明)
バブル経済の崩壊に伴う不動産価格の暴落により抵当不動産の換価では債権の回収が不可能になったため、債権回収のための抵当権者による抵当不動産の賃料の差押が増加している。本件判決でも摘示しているように、最高裁判所は平成元年10月27日判決で抵当権に基づく抵当不動産の賃料の差押ができることを認めた。
問題は、本件のように抵当不動産の賃借人がこれを転貸して得ている転貸賃料についても差押ができるかであるが、これについては非定説・肯定説・限定肯定説と学説・裁判例が区々に別れている。
裁判例は限定肯定説を取っているが、執行実務としては、東京地裁では本件判決同様、原則として賃貸借が抵当権設定後である場合に限定して肯定し、大阪地裁では所有者と賃借人が実質的に同一と認められる場合等に限定して肯定するなど裁判所によって区々の扱いがなされているようである。いずれにせよ、賃料の差押命令が裁判所から送達されてきた場合には、借地借家人組合や弁護士など専門家に相談して対処するのが無難である。
(2000.02.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
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