英国ジャズ繋がりでもう一枚。元はデューク・エリントン楽団の花形テナー奏者であったPaul Gonsalvesが、60年代に入って渡欧した後にリリースしたのが本作です。一応Decca傘下のVocalionというレーベルからリリースされていて、バックミュージシャンもいずれもイギリスの人たちばかりなのですが、なぜか録音はスイスにて行われている模様。この辺の事情は手元に資料がないのでちょっと良く分からないです。Gilles Petersonがコンピに入れていたA-1のタイトル曲が、ヨーロッパのジャズDJの間ではわりと古くから知られている定番ナンバー。いわゆるキラー曲ではないものの、ちょっとボッサなビートと円やかなテナーが気持ちいいマイナー・ブルースで、僕自身も以前にミックスCDに収録したこともある名曲です。もちろんオリジナルからではなく、ジャイルスのコンピからの収録でしたが…。と言うのも、この盤のオリジナルって本当にとんでもないレア&高額盤で、我々のような小市民の手の届く代物ではないんですよね。今回のユニヴァーサル再発で、こうやって普通に聴けるようになって嬉しい限りです。さて、今回ようやく始めてアルバムを通して聴いてみたわけですが、他のアルバムと同じようにゴンザルベスのテナーはやはり円やか。文字通り円熟したという印象の演奏ですね。聴いていて耳馴染みがいいので、年配の方々が好むのも良く分かる名演。別段尖ったところはないものの、古き良きジャズと言った雰囲気です。ちなみに個人的にお気に入りはA-4のIf I Should Lose You。どこか悲壮感漂うミディアムな演奏がダンディーです。最もオリジナルに手を出す気は毛頭ありませんが…。
以前紹介したThe Jazz Five、そして先のJimmy Deucharに続いて3枚目の紹介となる英Jasmineレーベルの再発盤。後に元Emcee Fiveの主要メンバーであるIan Carrと双頭コンボを結成し、モード~フリーなジャズを追求していくことになるDon Rendellによる55年のアルバムです。最もこの頃の彼のプレイは後年のそれと違い、非常に穏やかでハートウォームなスタイルですが…。そのせいかマイナー・コードで展開するようないわゆるヨーロピアン的な展開は望めず、比較的凡庸なスタイルの曲が多め。アフロキューバンで始まるM-15のFrom This Moment On辺りはジャズDJも比較的に好みそうですが、そのコード展開とワンホーンの野暮ったさから、フロアでのプレイは難しいでしょう。最もプロのミュージシャンを両親に持ち、幼い頃から音楽の英才教育を受けている彼のこと、その演奏力の高さには文句のつけようもありませんけれどね。さて全体的にはこのように微妙な作品なのですが、実はこのCDには表題作以外にも何枚かのEP及びLPからの曲が収録されています。このうち注目なのはセクステットで演奏された6曲。基本的には表題作と同じような雰囲気ながら、管楽器が増えているせいか割と今の世代にも聴きやすい仕上がりになっています。特に華やかに3管で華やかにスウィングするM-4のDidn't Weは、夜ジャズ<裏>にも収録されたナンバーで、これからの季節にも良く似合う暖かく上品な一曲。やっぱり管が増えただけで雰囲気がグッと変わりますね。クラブでプレイ出来るような曲ではないですけれど、家聴きには充分すぎるほどに素敵です。