周知の通り後にブラジル音楽の伝道師として世界に羽ばたいていくことになるセルメン。本作はそんな彼がブレイクする数年前の1964年にPhillipsからリリースされた一枚です。セルメンというとブラジル音楽とソフトロックを組み合わせたような独特のアレンジの曲が有名で、各国に多くのフォロワーを生み出したポップス界の名アレンジャーというイメージが強いですが、実はそのキャリアのスタートはれっきとしたジャズ・ピアニスト。「ベッコ・ダス・ガハーファス」にあったナイト・クラブで夜な夜なピアノを弾いていたという過去を持つ人だったりします。ちなみに当時そこに集まっていた誰も彼もが、今ではジャズ・ボッサ界の伝説的人物ばかり。と言うわけで、本作もまた参加メンバーが凄いことになっています。ハウルジーニョやエディソン・マシャード、セバスチャン・ネトなどを含む3管セクステット編成での録音。もちろん悪いわけがありません。Os Cobrasやメイレレースのアルバムにも引けを取らないブラジル産ハードバップ。特にA-5のPrimitivoやB-5のNeurotico辺りはヨーロピアン・ジャズとも相性が良さそうな高速ジャズ・サンバ。あまり「らしさ」は感じられませんがジョビンによるアレンジが素晴らしいです。そして、個人的なお気に入りはA-4のDesafinado。ボサノヴァのスタンダードとして有名な曲ですが、数あるカヴァーの中でも5本の指には入るであろう名演。夜感漂うジャケットも素敵ですね。セルメンの作品ってだけでコアなジャズ・ファンには見落とされがちですが、そんな先見だけで敬遠するのはもったいなすぎる一枚。再発は良く見るので、是非一度聴いてみてください。ジャズ・サンバとしてのみならず純粋にジャズとして見ても文句なしに格好いい一枚ですよ。
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