(前回からの続き)
前回、欧州中央銀行(ECB)の量的緩和策(QE)にかかる資産購入プログラムが今年に入って縮小されたことに関連し、「もうたくさん」といったドイツのような国々もあれば、反対に「もっと派手にやってくれないと困る」といったギリシャのような国々もあるなど、同じユーロ圏内でもQEに対する思いがまったく違っている様子について綴りました。このあたりが反映されているデータの典型例は先にご紹介の国債価格(長期金利)となりますが、ここでもう一つ、住宅価格を挙げておきたいと思います。
上は独、蘭、仏、西、伊、そしてギリシャのユーロ圏6か国の、2010年第1四半期から2017年第4四半期までの各四半期ごとの住宅価格の推移をみたものです(出典:ieconomics.com)(ECBのQEが開始された直前の2015年第1四半期の値を「100」としています)。これを見ると、QE(長期金利の押し下げ誘導)は「もうたくさん」つまり住宅バブルが発生しているところと、「もっと派手にやってくれないと困る」つまりいまも資産デフレが進行中のところの差がはっきりと分かります。
前者の代表は、もちろんドイツ。同国ではQEが始まるずっと前、つまり2010年あたりからほぼ一貫して住宅価格が上昇トレンドを描いています。ということは、住宅市場はそもそも過熱気味で、むしろ金融を引き締めるくらいがちょうどよいくらいだったはず。そんなときに逆の金融緩和策が実行されてしまったら当然、バブルが膨張してしまうわけです。実際、ECBのQEが始まった当時(2015年第1四半期)から現在(2017年第4四半期)までの3年弱の間の通算上昇率は2割近くに、2010年初頭からでは同45%に達しています。
ドイツほどではないものの、オランダもまたドイツに近い状況となっています。同国の住宅価格は2009年ごろにピークを打った後、南欧諸国の債務危機等の影響もあって徐々に下降、2013~2014年にかけてボトムをつけています。上記QE後は少しずつ上げ幅が大きくなり、直近では急激に上昇し、QE開始から現在までの通算上昇率は約17%とドイツに次いで大きくなっています。
フランスとスペインの住宅価格はQE開始の少し前あたりで底に至り、QEが始まってからは徐々に上がってきました。QE後の通算上昇率は7~8%くらいで、QEの価格押し上げ効果がそれなりに表れてきたものと思われます。
これらに対し、QEの後もさえない展開となっているのはギリシャとイタリアの2か国。両国の不動産価格はともに上記危機の直前あたりに高値を記録した後は一貫して下がり続けています。とくにギリシャの住宅価格の下げはきつく、QE直前の価格は2008年頃の6割程度に落ち込んでいます。さらに両価格とも、本来ならばQEによって押し上げられそうにもかかわらず、それから3年近くたったいまでもイタリアは98くらい、ギリシャは94くらいと、同スタート時点よりも下がってしまっています・・・