読書日和

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「よだかの片想い」島本理生

2016-07-10 15:21:25 | 小説
今回ご紹介するのは「よだかの片想い」(著:島本理生)です。

-----内容-----
顔に目立つ大きなアザがある大学院生のアイコ、24歳。
恋や遊びからは距離を置いて生きていたが、「顔にアザや怪我を負った人」をテーマにした本の取材を受け、表紙になってから、状況は一変。
本が映画化されることになり、監督の飛坂逢太と出会ったアイコは彼に恋をする。
だが女性に不自由しないタイプの飛坂の気持ちがわからず、暴走したり、妄想したり……。
一途な彼女の初恋の行方は!?

-----感想-----
語り手は前田アイコ。
アイコの顔には生れつきのアザがありずっと悩まされてきました。
小学校でも中学校でも高校でも嫌な思いをし、段々性格も鬱屈していきました。
高校に入ると地元の友達が少なく知らない子だらけになりアイコも少し気分を明るくしたのですが、やはりあざが原因で嫌な思いをします。
そこからはたまにクラスの男子と話す機会があってもばっさり切り捨てるような言い方をしたり素っ気ない態度を取ってしまったりして、その無愛想ぶりから野武士というあだ名が付きました。
アイコは国立大学の理学部物理学科に進学します。
期待して傷つくのはもう嫌だと思ったアイコは大学の四年間をほかの子たちのように恋や遊びに費やすこともなく、勉強に没頭していました。

顔のアザと聞いて、高校の弓道部で二学年上の先輩女子に顔に小さめのアザがある人が居たのを思い出しました。
私と同い年の男子部員が無邪気に「そのアザどうしたんですか」というようなことを聞き、先輩は気さくに「元からある」と答えていましたが、きっと同じことを色々な人に聞かれ、その都度答えてきたんだろうなと思いました。
気さくに答えた先輩は素晴らしいなと思います。

アイコにはまりえという中学時代からの友達がいます。
アイコが大学院に進んだ一年目の夏、神保町の出版社で働くまりえからメールが来ます。
メールの内容は次のようになっていました。

『今度、顔にアザや怪我のある人たちのルポルタージュを作ることになりました。顔は人間が最初に出会う部分です。多くの人たちに理解を深めてもらい、偏見のない社会を目指したいと思っています。ぜひ参加してもらえませんか?些少だけどインタビュー料と印税も出ます!』

ほかならぬまりえの頼みということでアイコは気が進まないながらもまりえの頼みを了承します。
そして神保町の出版社に行ってインタビューを受けるとアイコに今回の本の表紙になってほしいと頼まれ、後日写真撮影をすることになります。
その表紙に使われた写真がアイコの人生を変えることになります。
本の名前は『顔がわたしに教えてくれたこと』で、出版されると大きな話題になり映画化されることが決まります。
そしてその映画を撮る飛坂逢太監督とアイコの対談企画が持ち上がり対談をすることになります。
対談の後、飛坂が「今度みんなでお酒でも飲みに行かないか」と言い、後日渋谷の和食屋で飲み会が開催されました。
その飲み会で山口県の銘酒「獺祭(だっさい)」が登場し、私も最近まで山口県に住んでいて獺祭も飲んだことがあるのでこのお酒が登場したのはちょっと嬉しかったです。
アイコは飛坂に恋をしているという自分の気持ちに気付きます。

アイコのアザについて昔何か酷いことを言ったと思われる人物がアイコと両親の前に現れた後、母親が激怒しているのを見たアイコが心の中で思ったことは印象的でした。
誰のせいでもないのに、どうして人は誰かのせいにしなくちゃいられないのだろう。
たしかに生まれついてのアザは誰のせいでもないです。
ただし「母親のせいだ」と言うような人物はいるでしょうし、そのような人物に対しアイコの母親のように激怒するのも分かる話です。
誰のせいでもないことで争いが起きることにアイコは疲れているようでした。

アイコと飛坂が道を歩いている時の「雲が垂れ込めたまま暮れていく空には金色の夕暮れが滲んでいた」という描写は良かったです。
夕方、手前に雲がありその向こうに太陽が沈んでいく時、まさに金色の空模様になることがあります。

アイコは感覚がずれているところがあり、飛坂が「家まで送っていく」と言った時、「私は方向感覚がいいから一人で大丈夫です」と言い飛坂を驚かせる場面がありました。
女性の一人歩きが危険だから送っていくという意味なのにアイコにはそれが分からないようです。

やがてアイコは飛坂に告白します。
飛坂には「僕は気まぐれだし、思ったようにしか動けないから。付き合うと大変だし、苦労するよ?」と言われますがアイコは「大丈夫、私、頑丈ですから。あなたが、好きです」と言い、付き合うことになりました。

アイコはちょっとずれたところがあるため、飛坂とのデートでも面白い会話がありました。
アイコ本人は真面目に話しているつもりなのですがユーモアのある会話になっていました。

アイコと飛坂が付き合っていることを知ったアイコの母が飛坂にアイコのことを語る場面は印象的でした。
「アイコは、本当に良い意味で、普通に育ったの。性格も、価値観も、今時珍しいくらいに。ちょっと柔軟さに欠けるぐらい、意志が強くて、すごく頑丈そうに見えるけど、じつは強い石ほど意外と衝撃に脆いでしょう。この子は、繊細な子なんです」
人には感情が表に出やすい人もいれば、出ずらい人もいます。
なので表面上は大丈夫そうに見えても実際にはすごく精神的に疲れているということがあります。
アイコの母は自分の娘の「頑丈そうに見えるが内面は繊細」という特徴をきちんと理解していてさすが母親だと思いました。

飛坂と交際していくアイコですが、「私たちの距離は本当に以前よりも縮まっているのだろうか」と不安に思ったりもします。
そして飛坂とある若手女優のスキャンダルが発覚しアイコは衝撃を受けます。
「僕は気まぐれだし、思ったようにしか動けないから。付き合うと大変だし、苦労するよ?」と言われた時に「大丈夫、私、頑丈ですから」と言っていたアイコでしたが、やはりこのスキャンダルには愕然としていました。
二人の交際に暗雲が立ち込めることになります。

また、大学院の教授と研究室のメンバーで長崎に講演に行った時、アイコが「どうして私はこんなに男の人のことが分からないんだろう」と心の中で思う場面があります。
この時アイコは原田君という研究室の後輩と話していて、原田君が興味を示していたお土産を自分のお土産と一緒に買ってあげます。
アイコは原田君に対して余計なことをしてしまったかと思い「どうして私はこんなに男の人のことが分からないんだろう」と落ち込むのですが、この思いとは全く別次元のところで全然分かっていないなと思いました。
原田君はアイコのことが好きなのです。

不器用で少しずれたところのあるアイコが飛坂と出会い恋愛と向き合っていく物語はなかなか面白かったです。
小説のボリュームもちょうど良いくらいで、内容が暗くなかったのも良かったと思います。
顔のアザに悩まされて生きてきたアイコのこれからの未来は良いものになるのではと思える終わり方でした。


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