読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「ガールズ・ブルーⅡ」あさのあつこ

2016-07-09 16:42:35 | 小説


今回ご紹介するのは「ガールズ・ブルーⅡ」(著:あさのあつこ)です。

-----内容-----
落ちこぼれ高校に通う理穂、美咲、如月も三年生になった。
高校最後の夏、周りは着々と進路を決めていくのに、三人は行く末をまだ決められない。
恋、友情、進学……
タイムリミットが迫る中、私たちの答えはどうしたら見つかるのだろう。
未来へ一歩を踏み出す姿を清々しく描いた大人気女子高生シリーズ第二弾。

-----感想-----
※「ガールズ・ブルー」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

前作の最後から一年後の8月初めから物語が始まります。
前作と同じく理穂が語り手で、そして今作も夏が舞台です。
理穂の家で飼っていた犬の染子が死に、一周忌になるとありました。
冒頭では理穂と如月の幼馴染関係が書かれていて、如月が「うーっす」という声とともに吉村家のダイニングキッチンに入ってきていました。

前作と同じく、この作品ではことわざや格言がよく出てきます。
「仲良きことは美しきかな」という格言が出てきて、その意味は「人と人が仲良くしている様子は、実に美しいものである」ですが、こういった格言が出てくると「これはどんな意味だったかな」と気になります。

美咲は「馬鹿じゃないの」が口癖で、今作でも序盤から毒舌ぶりを発揮していました。
ただ美咲の飾り気のない率直な言葉は時として胸に染み入ることがあります。
睦月はドラフト指名での契約金1億円を蹴って東京の私立大学に進学していました。
しかも野球推薦ではなく一般入試で入っていて、これが意外でした。
今作では桜の葉が夏の日差しに映える中、二人並んで話す場面があります。

染子は庭にある椎の木の下で夜中、誰にも看取られずに息を引き取りました。
染子の死について理穂は胸中で次のように述懐していました。
あたしは、染子があたしたちの眠りを妨げないようにそっと息を引き取ったと信じている。
理穂のこの感性は良いと思いました。
私はこの捉え方は好きです。

春の桜の時期の回想で興味深い表現がありました。
夕陽が満開の花々を照らし、桜の樹一本、一本が自ら発光しているかのように輝いていた。一年の内で、ほんの一時だけ、咲き誇る桜と沈もうとする陽光が創りあげる豪奢な風景だ。
これは良い表現だと思います。
上野公園でまさにこの景色を見たのを思い出しました。
そしてこの桜と夕陽の景色が見たくなりました。

中学生の頃、理穂、美咲、長原好絵(スウちゃん)の三人がこの桜を見に行っていた時、「もう夕方だから帰りなさい」と地域の補導部のおばさんに注意を受けました。
理穂は「おばさんの態度、悪すぎ」と激怒します。
スウちゃんが反発する理穂を引き離し、「大人とケンカしないで」と苦言を呈します。
「あたしたち何も悪いことしてないのに」を三回も繰り返して反論する理穂に対し、今度は美咲が苦言を呈します。
「悪いことしてない、してないって、何べん繰り返してんの」
「だって、してないもん」
「したでしょ」
「えっ、何を?」
「補導部のおばさんに逆らった」
「へ?それは、あっちの態度が悪いから」
「そんなこと通用しないの。補導部のおばさんに逆らうのは悪い事なの。学校的にはね。スウちゃんの言うとおり。親呼び出しも、充分ありよ」
そんなこと通用しないはそのとおりです。
たしかに桜を見に来ていただけで何も悪いことはしていませんが、おばさんが学校に「もう夕方なのに子供たちだけでいるから注意した」と言えばそれまでで、理穂に勝ち目はありません。
理穂は「あたしたち何も悪いことしてないのに」と繰り返していましたが、その言葉が学校には通用しないことが理穂には分からないようです。
むしろ普段は毒舌ばかりの美咲のほうが自分達の分の悪さを理解していておばさんに反発はしていませんでした。
理穂の不器用な面が分かるエピソードでした。

高校三年生の夏を迎え、理穂達は進路を決めないといけなくなります。
決めなければいけない。自分の未来をどうするのか、どうしたいのか、決めなければいけない。猶予の時間はあまり残されていないのだ。
これは心に迫る言葉でした。
理穂はなかなか自分の進路を決めることができずに悩みます。

理穂と睦月が二人並んで話していた時、理穂が桜について言っていることは印象的でした。
「葉っぱの桜ってこんなにきれいで、涼しいのに、誰も知らんぷりでしょ。花のときはどんちゃか騒いでさ。そーいうの、何か変だなって感じたの」
これは凄くよく分かります。
私も葉桜を風流に感じることがあり、最近では昨年の6月に上野公園で生い茂った葉桜の写真を撮っています。

理穂はおばあちゃん子なので、時々美咲が「化石言葉」と命名した言葉遣いをすることがあります。
ご時世、ご法度、不覚にも、にべもない、難儀だねえ、引導を渡す、などの言葉とのことです。
そしてここで化石言葉として紹介された言葉がこの後理穂の語りの中で次々と出てきたのが面白かったです。

やがて8月が終わり9月が始まります。
始業式の日、理穂は胸中で次のように語っていました。

制限時間(タイムリミット)が近づいている。
あたしたちの持ち時間は、どんどん失われている。
卒業までにあと半年ほどだ。

また、次の言葉が印象的でした。
みんな変わっていく。あたしたちは、いつまでも今のあたしたちではいられない。未来を決め、その未来に向かって別々にばらばらに動き出そうとしている。その胎動が始まっている。
やがて理穂も進路を決めて歩き出すことになります。
青春時代の中の一つ、高校生の時間は終わりが近づき、別れの時も近づいてきています。
自分の未来を見据えつつ、残り半年となった高校生の時間を大切にしてほしいと思いました。


※図書レビュー館(レビュー記事の作家ごとの一覧)を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 若鯱家の名物カレーうどん | トップ | 参議院選挙2016 取り戻した日... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿