読書日和

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「村上海賊の娘 上巻」和田竜

2018-03-16 19:22:31 | 小説


今回ご紹介するのは「村上海賊の娘 上巻」(著:和田竜)です。

-----内容-----
難波(なにわ)の海に立ちはだかるのは、戦国最強の信長軍。
和睦が崩れ、信長に攻め立てられる大坂本願寺。
海路からの支援を乞われた毛利家は、「海賊王」こと村上武吉を頼ろうとした。
その娘、景(きょう)は海賊働きに明け暮れ、地元では嫁のもらい手のない悍婦(かんぷ)で醜女(しこめ)だった……。
木津川合戦の史実に基づく歴史巨篇。
第11回本屋大賞受賞作。

-----感想-----
※「村上海賊の娘 下巻」感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

冒頭、一向宗(現在の浄土真宗あるいは真宗)本願寺派の本山、大坂本願寺が窮地に陥ります。
顕如(けんにょ)という人が十一世門主(トップ)を務める大坂本願寺は織田信長と6年前から和睦を繰り返しながら戦っていました。
僧侶が信長と戦えるのかとも思いますが、この時代の僧侶は武装しています。
また、鉄砲傭兵集団雑賀(さいか)党の首領、鈴木孫市(まごいち)が坊官(門主の側近)の下間頼龍(しもつまらいりゅう)に頼まれて雑賀衆1千を率いて大坂本願寺に入っています。

信長は大坂本願寺の地を西国の押さえになる重要な場所と見ていて、そこに城を築くために場所を明け渡すように求めますが本願寺は断わります。
頼龍がまずい対応をして信長に「本願寺側から和議を破棄した」という口実を与えてしまい、周りに次々と砦を築かれます。
唯一砦のなかった南にも天王寺砦を築かれ、大坂本願寺は孤立して兵糧攻めに遭います。

頼龍が顕如に「門徒一万五千の兵で天王寺砦を攻め潰しましょう」と言う場面があり、そんなに兵力があるとは驚きました。
宗教が武装すると戦国大名級の勢力になるのだなと思います。

頼龍の天王寺砦を攻め落とすという言葉に孫市は反対します。
兵法書の古典「孫子」には城を落とすには10倍の兵力が必要とあり、天王寺砦には少なくとも五千以上の兵がいます。
これを落とすには10倍の五万の兵力が必要で、一万五千では落とせずに戦が長引き、兵糧攻めもされている大坂本願寺側が不利と孫市は見ています。

孫市の大坂本願寺を明け渡したほうが良いのではという言葉に、顕如は代々受け継いできた土地を捨てることはできないと言います。
孫市は「ならば海しかない」と言い、毛利家を頼ろうと言います。


小早川家の当主で43歳の小早川隆景(たかかげ)は毛利家の当主、毛利輝元に呼ばれて大坂本願寺の使者が来ている安芸郡山城(あきこおりやまじょう)に向かいます。
吉川家の当主、吉川元春は隆景より三つ上の兄で、二人は安芸の小領主から中国地方10ヵ国の覇者になった亡き毛利元就の次男と三男です。
元就は5年前に他界し、嫡男の隆元は13年前に早世していて、隆元の嫡男で23歳の輝元が当主です。
元春は武勇、隆景は知略で天下に名を轟かせ、頼りない輝元を強力に補佐するこの二人は「毛利の両川(りょうせん)」と呼ばれています。

郡山城で大坂本願寺の使者の話を聞くと、十万石(一万五千トン)の兵糧の提供を頼まれます。
毛利家はこれまで織田家とも大坂本願寺とも良好な関係でしたが、「これほどの兵糧を大坂本願寺に入れれば、信長から敵視されること確実」とありました。

毛利家の10ヵ国領有に対し信長はこの時20ヵ国近くを領有していて、隆景は毛利家と大坂本願寺が組むだけでは勝てないと見ます。
信長と戦うには信長が恐れる越後の上杉謙信がどう動くかが重要で、一向宗と確執のある謙信が和睦して大坂本願寺と組んで信長と戦うこともあり得るとありました。
もし謙信と大坂本願寺が信長を倒した場合、何もせずにいた毛利家は天下の笑い者になり威信は地に堕ちるとあり、10ヵ国の領地を持つ大々名の毛利家でも安泰ではないのが戦国時代なのだと思います。

また信長は毛利家と仲良くしながら裏では領地を切り崩すべく暗躍してもいます。
元春は信長は天下を狙い、大坂本願寺は狙っていないため、毛利家が山陰山陽の主であり続けるためには大坂本願寺に味方するほかないと言います。

隆景の家臣で警固衆(けごしゅう、水軍のこと)の古強者の乃美宗勝が十万石の兵糧を運ぶために村上海賊を頼ろうと言います。
村上海賊は「因島(いんのしま)村上」「能島(のしま)村上」「来島(くるしま)村上」の三家から成り、三家を総称して三島(さんとう)村上と呼ばれ、瀬戸内海を往来する船から帆別銭(ほべちせん)という通行料を徴収しています。
三島村上の中で能島村上が最大の勢力で「海賊の王」と呼ばれています。
毛利家は因島村上と来島村上は意のままに動かせますが唯一能島村上だけは動かせず、兵糧を運ぶには能島村上の当主、村上武吉(たけよし)の説得が必要です。
乃美宗勝と毛利家直属の警固衆の長、児玉就英が能島に向かいます。

武吉の娘の景(きょう)は20歳で、この字は小早川隆景から「景」を貰っています。
醜女の悍婦(気の強い女の人)として有名な景はかなり腕の立つ海賊で、悪党達の乗る船を一人で制圧してしまいます。
この船は大坂本願寺に向かう門徒達が乗った船で、悪党達に乗っ取られていたところを景に不審船として制圧されます。
景の頭は凄く単純で、悪党達の頭領の言い分を一時はそのまま信じてしまいますが、武勇に秀でているので悪党達の正体を見抜いて片っ端から倒します。
海賊の兵が景を「姫様」と呼んだ時の、源爺(げんじい)という門徒の孫の留吉(とめきち)の言葉が面白かったです。
姫様といえば、この世の者とは思えぬ淑やかさだと聞くが、目の前の女はこの世の者とは思えぬ荒々しさである。こんな女が姫であっていいものか。

景の暴れぶりは能島に向かう乃美宗勝と児玉就英も船上から見ていて、景は美形の就英の姿を見て途端に好きになります。
しかし就英の方は景の暴れぶりを見て「何という醜女、何という悍婦か」と不快感を募らせます。

能島に戻った景が来島の吉継(よしつぐ)伯父がまるで女子として扱ってくれないことに文句を言う場面も面白かったです。
「オレだって姫なんだぞ」
「お前のような姫御前がいるか!」

気の強い景ですがこの吉継伯父と、景を見れば説教をする23歳の兄の元吉を苦手としています。
元吉に女子が海賊働きをしたことがばれ説教になり、景が適当に聞き流していた場面も面白かったです。
景が登場すると笑ってしまうような展開が何度もありました。

元吉が景に、父の武吉が景と児玉家との婚儀を望んでいると言います。
景にとっては大歓迎なのですが「どうしようかな~」ともったいぶったことを言うと元吉が激怒していて面白かったです。

能島城で児玉就英、乃美宗勝、因島の村上吉充(よしみつ)、来島の村上吉継、能島の村上武吉が集まって大坂本願寺に兵糧を運び入れるかの話し合いが行われます。
武吉は隆景がどう考えているかを聞きます。
これは知略を天下に轟かせる隆景の考えは気になるのだと思います。
武吉は毛利家に味方すると言いますが、娘の景を児玉就英に輿入れさせるのが条件と言います。
しかし就英は「あのような醜女の悍婦を誰がもらえるものか」と激怒して出て行ってしまいます。

源爺や留吉達は大坂本願寺に兵糧を入れ、自らも兵になろうとしています。
源爺は景に上乗せ(海賊が乗ることで通行証の代わりになること)してもらって大坂本願寺に行こうとしますが断られたため、おだてることにします。
景の顔は南蛮人に似ていると言い、堺という国際港都を有する泉州(現在の大阪府の南西部)の人は南蛮人に慣れているため、景の顔を美しいと思う人も多くいると言います。
景はそれを聞いてすっかり舞い上がり、源爺達を送り届けてから泉州に行くことにします。
景の乗せられやすい性格も面白いです。

就英と宗勝が郡山城に戻ると評定(ひょうじょう)が開かれ、元春が就英に「おのれは嫁を貰うに美醜を問うか」と聞きます。
元春は戦を見据えた政略で嫁を貰うのに美醜を問わなかった人で、その本人を前に「問います」とは言えないため、「美醜など、問いませぬ」と言います。
すると元春は「なら、能島の景姫を嫁にもらえるな」と言い、武勇を天下に轟かせる元春らしい豪快なやり方で一気に話をまとめてしまいます。


源爺達と一緒に景も乗った船は順調に進み、ついに海の遥か先に大坂本願寺が見えてきます。
すると織田家家臣の太田兵馬が乗った巨大船に行く手を阻まれ、その船には泉州の海賊も乗っていました。
織田家家臣と聞いて源爺達一向宗の門徒は震え上がりますが、景は早くもお目当ての泉州の海賊に会って胸が躍ります。
続々と姿を現す海賊達は景を見て美人だと歓声を上げ、景は嬉しくなります。
しかし太田兵馬が景を殺そうとしてきたため討ち取ります。
これに呑気に寝ていた泉州淡輪(たんのわ)の海賊衆、眞鍋家の当主、眞鍋七五三兵衛(しめのひょうえ)は大慌てします。
「太田の阿呆、首級(くび、討ち取った首のこと)になってもうてるやんけ」といったいかにも大坂な言葉が面白かったです。

真鍋家は信長に従っていて、七五三兵衛達は大坂本願寺の包囲戦に動員されようとしていました。
太田は織田家の使者として眞鍋家に来ていたため、それが首級になって帰るのはかなりまずいです。
すると景は、ちょうど船で景を追ってきた弟の景親(かげちか)を人質として差し出し、自ら天王寺砦に行き申し開きをすると言います。
大坂本願寺方の木津砦に行く源爺達を送り届けてから天王寺砦に向かいます。

泉州には「半国の触頭(ふれがしら)」というものがあり、上下二つに割った泉州を「沼間(ぬま)家」「松浦(まつら)家」の二つの家がそれぞれ代表しています。
泉州侍達は触頭を中心にまとまっていましたが、真鍋家がどちらにも属さない勢力として台頭してきたため警戒されています。

天王寺砦で動員された人達が集まる広間に大坂本願寺攻めの総大将、原田直政が登場します。
直政は織田家の重臣で、武官としても文官としても秀でた文武両道を地で行く人です。

天王寺砦に景が来て原田直政に申し開きをしようとしますが、何と泉州の侍達と原田直政による大宴会になっています。
直政は景が海賊の王の能島村上の姫であることから、見逃すべしと判断していました。
酒席で景は「べっぴんの姫」として熱烈に歓待され、泉州の男にすっかり大満足します。
泉州の男は話しぶりが面白く、読んでいて笑う場面が何度もありました。


信長方と大坂本願寺方の合戦が始まります。
天王寺砦から突出した軍勢三千八百の狙いは海に近い木津砦を潰し、本願寺最後の補給線を断つことです。
景と景親は天王寺砦から戦を見ています。

大坂本願寺に居る孫市は木津砦を指揮する頼龍に、砦の周りに堀を作り徹底して砦に籠って戦う軍略を伝えていました。
木津砦の兵力は二千で、砦に籠って防戦する限り織田方に充分対抗できます。
しかし木津砦の兵力は農民達が中心で戦の経験がなく、さらに頼龍は喚き散らすばかりで指揮官に不適格なため戦局は押され気味になります。

孫市は雑賀党一千も参戦することを決断します。
原田直政が自身の手勢だけで雑賀党に向かいますが七五三兵衛は雑賀党の恐ろしさを知っているため、真鍋家の兵を連れて援護しに行きます。

雑賀党と対峙した直政は鉄砲の三段撃ち(一段目、二段目、三段目の順に撃つ戦法)で勝てると思いましたが、一瞬で鉄砲隊が全滅してしまいます。
孫市は三段撃ちをさらに進化させた撃ち方を使ってきました。
さらに直政が孫市の狙撃に遭い亡くなります。

直政の手勢は敗走しますが眞鍋家だけは雑賀党に向かっていきます。
一時雑賀党を圧倒しますが、孫市が奥の手の陣貝を吹き、それを合図に大坂本願寺から1万2千の軍勢が押し寄せます。
真鍋家の兵は三百でとても勝ち目はないです。
これを見た半国の触頭の沼間任世(ただよ)の嫡男、義清(よしはる)は砦攻めをやめて七五三兵衛を助けに行きます。

七五三兵衛は門徒達が死への恐怖を持っていないことに驚愕します。
眼前の門徒はひたとこちらを見つめ返し、一歩一歩進んでくる。その口元から繰り返し発せられるのは、「南無阿弥陀仏」の名号だ。
これは想像するとかなり怖いなと思います。
全員が「南無阿弥陀仏」とだけ言いながら槍で突いてくる光景は恐怖です。

義清の「殿(しんがり)は沼間家が務めるから真鍋家は先に逃げろ」という意見に最初は反発する七五三兵衛ですが、次第に義清の意見に理があることを認め、逃げる決断をします。
命を助けられた七五三兵衛が義清に礼を言う場面が面白かったです。
「余計な手出ししよってからに。いらんかったのによお、おどれなんぞ」
私にはとても礼を言っているようには見えなくて、直後に「これでも礼を言っている」とあったのが面白かったです。

織田方は天王寺砦に逃げ込みますが周辺を大軍に囲まれ、今度は天王寺砦の籠城戦になります。
するともう一人の触頭、松浦安太夫(やすだゆう)とその兄の寺田又右衛門が自分達だけ圧倒的に早い段階で天王寺砦に逃げ帰っていたことが明らかになります。
義清は激怒しそうになりますが七五三兵衛は二人を「お前ら、どんなけ逃げ足早いんじゃ」と笑い飛ばします。
そこに義清は七五三兵衛の器の大きさを見ます。
さらに七五三兵衛が泉州侍達の前でこれからは義清に従うと宣言したことで、義清は「この男が危地に陥れば、何度でも救い出してやる」と決意します。

門徒達は織田方の侵攻を阻み、天王寺砦を包囲し、緒戦に勝利します。
孫市は織田方に天王寺砦に籠城されたため、大坂本願寺と木津砦に戻って毛利家からの兵糧入れを待とうとします。

ところが頼龍が猛反対し、「進者(すすまば)往生極楽 退者無間地獄(ひかばむけんじごく)」と書かれた旗を掲げ戦えと言います。
これを見た門徒達は退けば地獄行きだが進めば極楽行きと考えて天王寺砦に向かっていきます。
一向宗は信心さえあれば極楽に行けるはずですが旗の文言は条件付き極楽になっていて、天王寺砦からこの旗を見た景は源爺も留吉も騙されていたんだと激怒します。
頼龍は指揮官として酷過ぎで、これでは勝てる戦も勝てないと思います。

信長はこの時41歳で、織田方が敗走し総大将の直政が討たれたと聞くと自ら出陣します。
信長は大坂本願寺を兵糧攻めにするつもりでしたが攻め潰す方針を固め、自ら自軍の兵達に加わり先鋒として戦います。
信長の姿を見た景は作中で初めて戦慄し、身がすくんでいました。


大坂本願寺の窮地から始まり、毛利家と村上海賊の動きが興味深く、後半は合戦になりどうなるのか気になりどんどん読んでいきました。
登場人物も多く天下の行く末にも関わる壮大な物語です。
笑える場面もあれば緊迫する場面もあり、面白い作品なので下巻を読むのが楽しみです


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